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商標の出願書類作成にAIを活用という話は、どうなのでしょうか?

商標登録の出願や調査、審査において、AI(人工知能)技術を部分的に導入することは、将来的にはありうることだろうと考えられます。

特許庁は、庁内の事務作業のほか、特許の新規性の引用例の検索作業や、特許出願の分類作業、図形商標の画像認識での引用例の検索作業で、AIを活用するという実証実験を行う計画を公表しており、どの分野での活用に可能性、実効性がありうるのか、何年間かかけて実験を行うこととしています。

しかし当事務所で確認してみた限り、2017年の現段階で、商標の出願書類作成にAIを活用して、短時間で自動的にできるといったようなもので、実効性のある技術が実現されたという事実は確認されておりません。

確認できたところでは、クラウドで商標出願の進捗管理、更新期限管理を行うというものがありました。技術的には特に新しいわけではなく、AIでもありませんが、サービスとしては比較的新しいものであるとは思います。

なお、当事務所では、クラウドによる商標管理、あるいは特許庁とは別個の独自の商標データベースの構築・検索システムの提供などは考えておらず、今後ともその予定はありません。
データ管理に不備、検索システムに不備があった場合に負うリスクが、一般的な弁理士事務所、小規模事業者には大きすぎるためです。
また日常の業務において、従来のシステムに格別の不備を感じないためです。

※一部サイトが提供する無料の検索システムにおいて、登録できるはずもない商標が、登録できそうですなどと表示され、顧客の誘引を行っている事例が見られます。ご注意ください。
登録できそうですか? 登録できそうですか?(2)

AI技術・その他の技術の現段階

類似画像検索
当事務所が確認したところでは、現時点で、商標の業務にAIを活用するものとして、画像商標の検索システムが、一部において技術開発され公開されています。

株式会社ALBERT(アルベルト、本社:東京都新宿区)が、AI(人工知能)・ディープラーニング技術を応用し、任意の画像に対して類似した図形登録商標(ロゴマーク等)を検索するシステム『Deepsearch Logo』の無料体験版、有料版を公開しています。
ただし現在は2000年1月以降の図形登録商標の検索が可能なのみで、弁理士の調査としても実用段階ではありません。仮にこれを使用したとしても、AI導入の弁理士事務所などとは、自称できないと思います。

同様の画像検索は、google社も開発し公表しています。
また、東芝デジタルソリューションズ株式会社(神奈川県川崎市)が、画像を直接検索に用い、登録された画像の中から、類似した画像を検索・抽出できる「類似画像検索技術」を開発しています。
フィンランドのTrademarkNow社の主力製品であるAI型商標検索プラットフォーム「NameCheck」が、海外ではもっとも進んでいるものと思います。

指定商品・指定役務の類似群コード検索・付与
もう1つ、当事務所が確認したところでは、現時点で、商標の業務にAIを活用するものとして、商品・役務名が既存のデータベースに存在せず、類似群コードを自動付与できない指定商品・指定役務の記載をもとに、適切な類似群コードを見つけて決定する技術が開発され、実験段階にあります。

ビッグデータ解析のFRONTEO社が、特許庁より「平成29年度人工知能技術を活用した不明確な商品・役務チェック業務の高度化・効率化実証的研究事業」を受託したと発表しています。

これは実証実験段階にあり、現段階で、こうした技術を利用しようとするならば、たとえばgoogleが、ユーザーのウェブサイトで利用できるように提供している検索ツール、あるいはその類似ツール、さらにIBMのWatsonやMicrosoftのAzureなどのツールを利用した言語解析があげられると思います。しかしgoogle社がAI技術を活用しているといっても、一種のあいまい検索にすぎません。

出願書類作成については?
これらをユーザーの入力補助に利用したとして、商標の出願書類の作成にAIを活用して、素早くできるというようなものが実現したとはいえません。
現に、当事務所で確認してみた限り、オンラインで商標登録の依頼ができるというウェブサイトはいずれも、ユーザーが出願人の情報を入力し、商標を入力し、指定商品・指定役務を検索するなどして指定し、送信するというもので、いずれも通常のメールで依頼するものを、出願書類の入力フォーマットに準じた形式・内容で送信する(であろう)ものにすぎませんでした。

これは、当事務所では2004年に開発し、それ以前の2003年までにはS特許事務所が開発し、現在も運用されているものと、技術的にはほぼ同様のものです。プログラムやデータベースの設計が異なっていたとしても、基本線としては変わるものではありません。

ショッピングカートやメール送信フォームと同様のプログラムによって、あらかじめ商標の出願書類の書式に準じ、あらかじめ設定しておいた文言が挿入されるといった、技術的には古くからあるものです。その文言にたとえば【商標登録出願人】などが書式通りにあらかじめ設定されているだけです。
ショッピングカートの商品の代わりに各区分が、商品説明の代わりに指定商品・指定役務の定型的な内容と、価格があらかじめ設定されているだけです。
1950年代の定義でいえば一種のAIかもしれませんが、今それを言ってしまっては、誤認を招くだけだと思います。

メール送信フォームであれば、3分や5分で依頼の送信ができるのは当たり前のことですが、それで出願が完了するものではなく、仮にそのまま出願したとすれば、検討や調査も、不備な内容のままで行われるおそれがありますので、実効性のある出願書類の自動作成などは実用化されていないと思います。

AI活用の商標出願書類の作成が、ユーザーにとっては当面、無意味な理由

将来のことはともかくとして、仮に、AI活用の商標出願書類の作成を実現したとうたうシステムが出現したとしても、それを利用する必要性は、下記の理由から、当面ないものと考えます。

・上述した画像検索でさえ、検索結果を見るとまだ実証実験の途上であるともいえ、何よりも、ウィーン図形分類に基づく調査の結果の方が明確であること。

・そもそも特許庁の審査において、ウィーン図形分類に基づく調査の結果が利用されること。

・そもそも特許庁の審査において、称呼検索その他の調査においても、特許庁のシステムを用い、商標審査基準、類似商標・役務審査基準を用いて、人間が審査を行っていること。

・特許庁の実証実験を数年間以上経たうえで、一部の業務にAI技術が取り入れられたとしても、人間が行う審査の補助に用いられるものであること。

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、そもそも最初のユーザーの入力が正しいとは限らないこと。
(たとえば第42類のプログラムの提供と、第9類のダウンロードされるプログラム)
(たとえば第7類の加工機械と、加工機械に組み込まれたプログラムと、加工機械とネットワークを介して通信を行うプログラムと、これらシステムの提供)

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、特許庁の分類表だけではなく、登録事例やニース協定分類にある商品・役務までに対応しなければ、適切な記載ができない可能性があること。

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、従来にない新規な商品・役務の記載がされないであろうこと。

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、ユーザーが入力しないが必要であると思われる商品・役務は記載されないこと。
(たとえばユーザーの事業内容や事業計画等を参照して記載に含めること等)

・仮にAIが自動的に出願書類を作成する段階まで進んだとして、それはそのまま出願できる内容とはいえず、人間によるチェック・修正をする前のひな型と考えられること。

・仮にAIが自動的に出願書類を作成する段階まで進んだとして、それをそのまま出願してしまって問題が生じないだけの精度を備えていると、多くの事例から確認できるまで、使用するには誤りのリスクが大きいこと。

・仮にAIが自動的に出願書類を作成する段階まで進んだとして、弁理士が代理人である場合には、民法の代理や損害賠償の規定が全面的に書き換えられでもしない限り、代理人としての責任で、受任した業務を行わなければならないこと。

・そもそも、依頼者であるユーザーの、調査、入力などの負担ばかりを増やすものであること。

もちろん、将来のいつの時点かにおいて、特許法、商標法の改正が俎上に上り、商標登録出願の審査は、特許庁長官が指定する審査官(電子情報処理組織を含む。)が行う、とでもいうことになれば、話はまた違ってくるのかもしれません。

それにしても、このようなツールができたとして、弁理士が事務所内部で使うのが本筋であると私は思います。依頼者に入力などの作業を行わせるツールというアプローチには、違和感があります。