受注生産の水中灯用のラベルに商標「アイライト」を使用していた事実につき、出所表示機能を果たす態様に限定されず何らかの態様使用されていれば足りるとして、商標の使用事実が認定された事例
【種別】審決取消請求事件
【訴訟番号】平成26(行ケ)10234 平成27年11月26日 知的財産高等裁判所 裁判所
【当事者】
原告:X
被告:岩崎電気(株)
【事案】
⑴ 被告は,昭和37年12月21日,指定商品を第11類「電球類及照明器具」として,「アイライト」の片仮名を横書きして成る商標(以下「本件商標」という。)につき,設定の登録を受けた(商標登録第0602699号。甲1,乙1)。
本件商標は,5回にわたり,商標権の存続期間の更新が登録され,その間,平成16年4月14日に,指定商品を第11類「電球類及び照明用器具」とする指定商品の書換えが登録された(甲1)。
⑵ 原告は,平成26年1月30日,本件商標の不使用を理由として本件商標の商標登録の取消しを求める審判を請求し,同年2月18日,同審判の請求が登録され,取消2014-300062号事件として係属した。
特許庁は,同年9月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同日,その謄本が原告に送達された。
⑶ 原告は,同年10月24日,本件審決の取消しを求める本件審決取消訴訟を提起した。

本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,被告が,平成23年10月12日付けで,本件商標が付された個装箱で包装したメタルハライドランプ水中灯を納品した行為(以下「本件行為」という。)を認定し,l同行為をもって,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という。)に日本国内において,商標権者である被告が上記請求に係る指定商品について,本件商標と社会通念上同一ということのできる商標を使用していたことを証明したものと認められるから,本件商標の登録は,商標法50条の規定により取り消すことはできない,というものである。
裁判所の判断
被告は,本件行為,すなわち,平成23年10月12日,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」を,本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて売却,納品したものと認められ,これは,商標法2条3項2号所定の「商品の包装に標章を付したものを譲渡」に該当するから,商標法50条所定の使用の事実が認められる。
3 結論
以上によれば,原告主張の審決取消事由には理由がなく,したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
理由
1 本件行為について
⑴ 認定事実
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
ア 被告は,各種光源,照明器具,光応用機器(紫外線・赤外線・電子線応用)等の製造及び販売を業とする株式会社である(甲6)。
イ 被告の埼玉製作所技術課「集魚灯『アイライト』」漁船機関昭和62年10月特集号(乙2,社団法人漁船機関技術協会)には,「弊社のアイライト」につき,
①照明用HIDランプの技術と経験を基に開発された高効率の集魚灯であり,メタルハライドランプと高圧ナトリウムランプがあること,②メタルハライドランプは,船上用及び水中用として,2kWと4kWのものがあり,その光源色には白色と緑色があることが記載されている。また,「表-1 アイライト特性一覧表」には,船上灯としてのメタルハライドランプには,「形式M2000B-W,発光色白色,ランプ電力2000W」,「形式M2000B-G,発光色緑色,ランプ電力2000W」,「形式M2000B-F,発光色白色(けい光色),ランプ電力2000W」,「形式M4000B-W,発光色白色,ランプ電力4000W」があり,水中灯としてのメタルハライドランプには,「形式M2000BW-W,発光色白色,ランプ電力2000W」,「形式M2000BW-G,発光色緑色,ランプ電力2000W」,「形式M4000BW-W,発光色白色,ランプ電力4000W」,「形式M4000BW-G,発光色緑色,ランプ電力4000W」があることが,記載されている。また,被告が平成2年頃から平成12年頃にかけて配布していたパンフレットには,「アイライト 集魚灯ランプ」,「アイライト 集魚灯ホルダ」,「アイライト サンマ灯具」などの記載がみられる(乙16)。
このように,被告は,照明用HIDランプを基に開発された集魚灯である船上灯のメタルハライドランプ及び高圧ナトリウムランプ並びに水中灯のメタルハライドランプ及び高圧ナトリウムランプを製造,販売しており,いずれのランプも「アイライト」と呼んでいた。
ウ 平成19年頃以降,LED集魚灯の普及,実用化が推進されるようになり,HIDランプ集魚灯を使用する漁船は,減少する傾向にある。被告においても,ほぼ同じ頃,需要減を受けて,HIDランプ集魚灯「アイライト」の生産方式を従前の見込み生産から受注生産に切り替えた。
しかし,HIDランプ集魚灯は,LED集魚灯よりも照射範囲が広く,集魚能力が勝っていることから,現在でもHIDランプ集魚灯を使用している漁船はあり,被告は,HIDランプ集魚灯「アイライト」の交換ランプの注文を受けている。
HIDランプ集魚灯「アイライト」は,用途の特殊性,大型で非常に高価なランプであることに加え,点火に専用の電源装置を要することなどから,その需要者は,イカ釣り漁船やサンマ棒受け網漁船の船主に限られ,一般の消費者や企業が購入するものではない。このことから,被告は,従前から,インターネットによる広告など一般の消費者や企業に向けた広告宣伝は,行ってこなかった(乙16)。
エ メタルハライドランプ水中灯は,衝撃や振動が加えられると破損するおそれが大きいガラス製品であり,破損すれば,負傷のおそれ,封入物の水銀の飛散による健康被害,環境破壊のおそれがある。また,直接手で触れることによって手の脂や汚れが付着した場合,そのままの状態で使用すると,破損,短寿命,低照度の原因となるおそれがある。したがって,メタルハライドランプ水中灯を,個装箱に入れないで納品,販売することはあり得ない。
また,メタルハライドランプ水中灯の個装箱は,販売,返品,輸送,持ち運び,保管,廃棄及び取扱説明書の収納に必要不可欠なものである。
オ 田島紙工は,被告が製造,販売するランプ類の個装箱の製造を受注しており,その中には,HIDランプ集魚灯「アイライト」の一種であるメタルハライドランプ水中灯「アイライト」も含まれていた。
田島紙工は,平成14年頃から平成15年頃,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」の個装箱(以下「本件個装箱」という。)に貼付するラベル(以下「本件ラベル」という。)を,被告から支給された。
本件ラベルは,長方形をしており,長辺を縦,短辺を横として,上段から,「メタルハライドランプ」,「水中灯」の文字がいずれも白地に黒の太字で表示されている。その下に,本件商標である「アイライト」の文字がオレンジ地に白抜きで表示され,次いで,「M2000BW-v」の文字が白地に黒の太字で表示されており,下方には水中灯のイラストが白色でオレンジ地に描かれている。
田島紙工においては,以下の工程により,本件個装箱を製造していた。すなわち,①ロール裁断機を用いて段ボールを個装箱の展開サイズに裁断し,②ダイカッタを用いて裁断した段ボールを個装箱の展開形状に打ち抜き,③これを接着剤でサイド貼りして箱構造に組み立て,④組立て完了後,本件ラベルの裏面に糊を塗布し,個装箱の表面に張り付ける(乙16,乙17)。
カ 被告の照明調達課が平成23年10月6日付けで田島紙工宛てに作成した注文書(乙10)には,注文NO10682519の「PA0178L01/M2000BW-12P」1枚,注文NO10682522の「PD0202L01/M2000BW-1P」1枚の記載があり,田島紙工が作成した買掛金伝票(納品書)(乙11)には,注文主として被告の照明調達課が,出荷日として「2011/10/07」が,それぞれ記載されており,注文NO10682519の「PA0178L01/M2000BW-12P」1枚,注文NO10682522の「PD0202L01/M2000BW-1P」1枚と記載されている。
上記の「PA0178L01」及び「PD0202L01」は,オンライン受発注システムのコンピュータによって自動的に付番されるコードであり,「M2000BW」は,ランプの型式番号(形式)を示すものであり,「1P」は,ランプを1本ずつ個包装する1ピース箱(個装箱)を示す(乙17)。
キ 被告の埼玉製作所の従業員であるAが作成した製品受渡検査成績書(乙14別紙Ⅰ)には,「検査日 2011年10月7日(金)」と記載されており,「製品形式」の欄に「M2000BW/V」,「生産数」の欄に「1」の記載があり,「ロットの合否判定」については「合格」の不動文字に印が付けられている。
また,Aが作成した包装工程検査成績書(乙14別紙Ⅱ)には,「製造日 11年10月7日(金)」と記載されており,「形式」の欄に「M2000BW/V」,「仕掛数(本)」の欄に「1」,「良品数(本)」の欄に「1」,「不良数(本)」の欄に「0」の記載がある。また,同書面には,「品質特性,管理項目」として,「※1箱表示状態」,「※2 マーク確認」及び「※3 取扱説明書」が挙げられており,これらの各項目につき,形式別に「実測,チェック」及び「合否判定」の欄が設けられている。
箱表示状態の実測チェックは,包装箱に貼付されたラベルの印刷表示や包装箱に直接印刷された表示の判読の可否をチェックするものであり,マーク確認の実測チェックは,製品であるランプの外球に付された品名や型式番号(形式)等のマークと包装箱に表示された品名や型式番号(形式)等との不一致の有無をチェックするものである。取扱説明書の実測チェックは,取扱説明書の同封の有無をチェックするものであるが,メタルハライドランプ水中灯アイライトについては,更に,個装箱内のランプのネック部に,当該ランプを個装箱内で安定させるための段ボール紙製の補助材が取り付けられているか否かもチェックする。「M2000BW/V」の「※1 箱表示状態」,「※2 マーク確認」,「※3 取扱説明書」の各「実測,チェック」欄及び「合否判定」欄には,いずれも「✓」印が付けられている(乙14)。
ク 被告の静岡営業所が発行した物品受領書(乙4)には,「御得意先」としてミツワ電機の沼津営業所が記載されており,「11/10/12」,伝票番号「195042」,製品名欄に「M2000BW/V 特殊用途HIDランプ」,数量欄に「1」と記載されている。
被告の静岡営業所がミツワ電機の沼津営業所宛てに発行した平成23年10月31日付け「請求書控え 11年10月度」(乙5)中には,「11年 月 日」欄に「10.12」,伝票番号に「195042」,製品名欄に「M2000BW/V」,数量欄に「1」,単価欄に「28,000」,金額(合計)欄に「¥28,000」と記載されている。
⑵ 本件行為の認定について
ア 前記⑴において認定したとおり,①被告は,遅くとも昭和62年頃から高効率のHIDランプ集魚灯を「アイライト」として製造,販売していたが,平成19年頃以降,その需要が減少し,受注生産に切り替えたこと,②もっとも,現在でもHIDランプ集魚灯を使用している漁船はあり,被告は,HIDランプ集魚灯「アイライト」の交換ランプの注文を受けていること,③HIDランプ集魚灯「アイライト」には,船上灯と水中灯があり,「M2000BW」は水中灯の形式の1つであること,④田島紙工は,HIDランプ集魚灯「アイライト」の一種であるメタルハライドランプ水中灯「アイライト」を含む被告が製造,販売するランプ類の個装箱の製造を受注しており,平成14年頃から平成15年頃,本件個装箱に貼付する本件ラベルを被告から支給されたこと,⑤田島紙工においては,裁断するなどした段ボールを箱構造に組み立てた後,その表面に本件ラベルを糊で貼付して本件個装箱を製造していること,⑥被告の照明調達課が,平成23年10月6日付けで,田島紙工に対し,水中灯としてのメタルハライドランプである形式「M2000BW」を1本ずつ個包装する1ピース箱(個装箱)を発注し,同月7日,納品されたこと,⑦同日,被告の埼玉製作所において,「M2000BW/V」の製品受渡検査及び包装工程検査が実施され,「M2000BW/V」は,いずれの検査も合格したこと,⑧同月12日,被告が,ミツワ電機に対し,「M2000BW/V」1本を2万8000円で売却し,同日納品したことが認められる。
これらの事実によれば,平成23年10月12日,被告がミツワ電機に対して売却した「M2000BW/V」1本は,同月7日に田島紙工から被告の照明調達課に納品された「M2000BW」の1ピース用の個装箱に入れられていたものと推認することができる。そして,前記「M2000BW/V」が合格した包装工程検査には,前記⑴キのとおり,包装箱に貼付されたラベルの印刷表示等の判読の可否をチェックする箱表示状態の実測チェック,製品であるランプの外球に付された品名や型式番号(形式)等のマークと包装箱に表示された品名や型式番号(形式)等との不一致の有無をチェックするマーク確認の実測チェックが含まれていることに鑑みると,前記「M2000BW」の個装箱には,本件ラベルが貼付され,前記「M2000BW/V」の品名や型式番号(形式)等のマークに加え,「アイライト」が表示されていたものと推認することができる。
イ 以上の事実によれば,被告は,平成23年10月12日付けで,ミツワ電機に対し,本件商標を表示した本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」1本を2万8000円で売却し,同日,納品したものと認定できる。
したがって,本件審決が,本件行為を認定したことに,誤りはない。
(中略)
2 本件行為が商標法50条所定の「使用」の事実に該当するか否かについて
⑴ 前記1のとおり,被告は,本件行為,すなわち,平成23年10月12日,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」を,本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて売却,納品したものと認められ,これは,商標法2条3項2号所定の「商品の包装に標章を付したものを譲渡」する行為であるから,商標法50条所定の「使用」の事実が認められる。
⑵ 原告の主張(前記第3の2⑴)について
ア 原告は,①乙第4号証及び乙第5号証のいずれにおいても,メタルハライドランプ水中灯は,「M2000BW/V」と記載されており,本件商標は記載されていないこと,②乙第3号証の写真及び乙第6号証の別紙写真に写っている個装箱に貼付されたラベルにおいて,「M2000BW-v」の文字が,本件商標である「アイライト」の文字よりも,目を引く顕著な態様で表示されていることなどから,被告及びミツワ電機のいずれも,メタルハライドランプ水中灯につき,「アイライト」ではなく,「M2000BW/V」の名称で認識して受発注を行っていたものということができるとして,本件商標は,本件行為当時,被告が販売していたメタルハライドランプ水中灯について,出所表示機能を果たしていなかった旨主張する。
イ しかしながら,商標法50条の主な趣旨は,登録された商標には,その使用の有無にかかわらず,排他独占的な権利が発生することから,長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは,当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め,国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので,一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求することができるというものである。
上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。
ウ また,原告の上記主張は,以下のとおり採用できない。
(ア) 前記1⑴イのとおり,被告が製造,販売するHIDランプ集魚灯「アイライト」には,メタルハライドランプと高圧ナトリウムランプがあり,メタルハライドランプは,船上灯と水中灯に分かれ,それぞれにおいてさらに,発光色やランプ電力等によって,「M2000B-W」,「M2000BW-W」など複数の形式に分かれている。
この点に鑑みると,前記集魚灯の受発注等に当たり,「アイライト」のみでは,対象の特定として十分ではないこともあるということができる。現に,Aが作成した製品受渡検査成績書(乙14別紙Ⅰ)及び包装工程検査成績書(乙14別紙Ⅱ)には,前記⑴キのとおり「M2000BW/V」が記載されているほか,同じくHIDランプ集魚灯「アイライト」に含まれる船上灯としてのメタルハライドランプで,ランプ電力2000Wのものを意味するとみられる「M2000B/BUH-E40」,「M2000B/BUH」が記載されている。
以上によれば,被告とミツワ電機は,受発注に当たり,HIDランプ集魚灯「アイライト」のうちのどの製品を対象とするかを特定するために,「M2000BW/V」など形式を明らかにする名称を用い,物品受領書や請求書など取引関係の書類においても,同名称を記載していたものと推認できる。
(イ) 本件ラベルは,乙第3号証の写真及び乙第6号証の別紙写真に写っている個装箱に貼付されたラベルと同一のものと認められ,その外観は,前記1⑴オのとおりであるところ,本件商標である「アイライト」の文字は,本件ラベルの上方に,白地に黒の太字で表示された「メタルハライドランプ」,「水中灯」の文字に続いて,オレンジ地に白抜きで表示され,上記の文字と同様,鮮明に読み取ることができる。
(ウ) 以上によれば,本件行為当時,メタルハライドランプ水中灯につき,「アイライト」が出所表示機能を果たしていなかったということはできず,原告の前記主張は,採用できない。
(中略)
⑸ 小括
以上によれば,被告は,本件行為,すなわち,平成23年10月12日,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」を,本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて売却,納品したものと認められ,これは,商標法2条3項2号所定の「商品の包装に標章を付したものを譲渡」に該当するから,商標法50条所定の使用の事実が認められる。

