分割移転された「サンダル」についての酷似した態様での使用権者による商標使用が、履物についての商標権と誤認混同を生じさせ、商標権者も相当の注意をしていたとは認められず、混同による商標権取消が認められた事例
【種別】審決取消請求事件
【訴訟番号】平成26(行ケ)10170等 平成27年5月13日 知的財産高等裁判所 裁判所
【当事者】
原告:双日ジーエムシー(株)
被告:(株)IBEX
【事案】
1 本件は,被告が商標権者である5件の商標について,原告が,商標法(以下単に「法」ということがある。)53条1項に基づき,各商標登録の取消審判請求をしたところ,特許庁がいずれについても審判請求は成り立たないとの審決をしたことから,原告が各審決の取消しを求める事案である。
被告の商標権
2 特許庁における手続の経緯等(争いがない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 被告は,以下のアないしオの商標に係る商標権(以下,これらの商標を順次「本件商標1」ないし「本件商標5」といい,併せて「本件商標」という。また,これらの商標に係る権利を順次「本件商標権1」ないし「本件商標権5」といい,併せて「本件商標権」という。)を有している(甲1の1ないし5)。
ア 登録第1995432の1の1(本件商標1)
商標の構成

登録出願日 昭和56年4月22日
設定登録日 昭和62年10月27日
指定商品 第6類,第14類,第21類,第22類及び第26類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「履物但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」
イ 登録番号 商標第4048658の1の1(本件商標2)
商標の構成

登録出願日 平成5年10月14日
設定登録日 平成9年8月29日
指定商品 第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」
ウ 登録番号 商標第4125472の1の1(本件商標3)
商標の構成

登録出願日 平成8年10月14日
設定登録日 平成10年3月20日
指定商品 第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボン吊り,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボン吊り,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」
エ 登録番号 商標第4836907の1の1の1(本件商標4)
商標の構成

登録出願日 平成11年7月14日(1999年〔平成11年〕2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張)
設定登録日 平成17年2月4日
指定商品 第3類,第9類,第14類,第16類及び第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」
オ 登録番号 商標第4837860の1の1の1(本件商標5)
商標の構成 ADMIRAL(標準文字)
登録出願日 平成11年7月14日(1999年〔平成11年〕2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張)
設定登録日 平成17年2月10日
指定商品 第3類,第9類,第14類,第16類及び第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」
(2) 被告は,平成24年6月1日から,株式会社チヨダ(以下「チヨダ」という。)に対し,指定商品であるサンダルについて本件商標の独占的通常使用許諾をした(甲228)。
チヨダは,靴及びゴム履物等の製造及び販売等を業とする会社であり,平成25年3月頃から,「クロッグサンダル」というタイプのサンダル(つま先側の部分は通常の運動靴と同様に覆われているが,踵側の立ち上がり部分が靴と異なって低くえぐれており,簡単につっかけて履くことができるような形状のもの。)の1種類として,商品の4箇所に,それぞれ以下のとおりの構成の標章を表示するサンダル(別紙1の写真の右側の商品。以下「使用権者商品」という。)を販売した(甲199)。
ア シュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段にイギリス国旗の中央に「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の1のとおり。以下「使用権者商標A」という。)
イ サンダル側面に,本件商標4と同一の構成からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の2のとおり。以下「使用権者商標B」という。)
ウ サンダルの中敷部分に,「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の3のとおり。以下「使用権者商標C」という。)
エ 靴の踵の下部に,「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の4のとおり。以下「使用権者商標D」といい,使用権者商標AないしCと併せて「使用権者商標」という。)
分割移転された原告の商標権
(3) 原告は,以下のアないしオの商標に係る商標権(以下,これらの商標を順次「引用商標1」ないし「引用商標5」といい,併せて「引用商標」という。また,これらの商標に係る商標権を順次「引用商標権1」ないし「引用商標権5」といい,併せて「引用商標権」という。)を有している(甲8の1ないし5)。なお,引用商標権1ないし引用商標権5は,それぞれ,本件商標権1ないし5から分割された商標である。
ア 登録第1995432号の1の2(引用商標1)
商標の構成 本件商標1と同じ
登録出願日及び設定登録日 本件商標1と同じ
指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」
イ 登録第4048658号の1の2(引用商標2)
商標の構成 本件商標2と同じ
登録出願日及び設定登録日 本件商標2と同じ
指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」
ウ 登録第4125472号の1の2(引用商標3)
商標の構成 本件商標3と同じ
登録出願日及び設定登録日 本件商標3と同じ
指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」
エ 登録第4836907号の1の2(引用商標4)
商標の構成 本件商標4と同じ
登録出願日及び設定登録日 本件商標4と同じ
指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」 を除く)」
オ 登録第4837860号の1の2(引用商標5)
商標の構成 本件商標5と同じ
登録出願日及び設定登録日 本件商標5と同じ
指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」
(4) 原告は,引用商標を付した靴を製造,販売しているところ,そのうちの1種類として,商品の3箇所に,それぞれ以下のとおりの構成の標章を表示する「Watford(ワトフォード)」と称するモデルのスニーカー(以下「ワトフォード」という。同モデルにはカラーバリエーション〔色違いの商品〕が多数あるが,そのうち「Tricolor」という紺,白,赤の三色の色合いのものが,別紙1の写真の左側の商品である〔甲248〕。以下,同商品を「原告商品」という。)を販売している。
ア シュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段にイギリス国旗の中央に「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる標章(別紙2の使用商標の対比の原告商品の欄の1のとおり。以下「原告使用商標A」という)
イ サンダル側面に,引用商標1と同一の構成からなる標章(別紙2の使用商標の対比の原告商品の欄の2のとおり。以下「原告使用商標B」という)
ウ サンダルの中敷部分に,「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる標章(別紙2の使用商標の対比の原告商品の欄の3のとおり。以下「原告使用商標C」といい,原告使用商標A及びBと併せて「原告使用商標」という。)
(5) 原告は,平成25年5月27日,本件商標の使用権者であるチヨダが原告の業務に係る商品と混同を生ずる登録商標又はこれに類似する商標の使用をしたと主張して,特許庁に対し,本件商標の登録の取消しを求める審判の請求をした。特許庁は,上記各請求を取消2013-300427号事件,取消2013-300429号事件,取消2013-300430号事件,取消2013-300432号事件,取消2013-300433号事件として審理した結果,平成26年6月11日,いずれについても「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本を,同月19日,原告に送達した。
裁判所の判断
1 特許庁が取消2013-300427号事件,取消2013-300429号事件,取消2013-300430号事件,取消2013-300432号事件,取消2013-300433号事件について平成26年6月11日にした各審決を,いずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
理由
当裁判所は,本件商標の使用権者であるチヨダによる使用権者商品における使用権者商標の使用は,原告の業務に係る商品(原告商品)と「混同を生ずるものをした」に該当するといえ,かつ,商標権者である被告が相当の注意をしていたとは認められないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 認定事実
前記第2の2の事実,証拠(文中又は段落末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 商標権の分割の経緯
引用商標権1ないし5が本件商標権1ないし5から分割される前の各商標権は,その最初の商標権者であるスイス連邦の法人「アドミラル スポーツウエア ライセンス アーゲー」から,本件ブランドのライセンス会社であったスイス連邦の法人「インターナショナル ブランド ライセンシング アーゲー」(以下「IBL」という。)へと移転され,次いで,平成20年10月29日付けで,IBLから日本国の株式会社アイ・ピー・ジー・アイ(以下「IPGI社」という。)に移転登録された(甲1の1ないし5)。
原告は,平成20年9月18日付けで,IPGI社との間で,上記各商標権のうち指定商品を「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」とする商標権を分割して譲渡を受ける旨の契約を締結し(甲232の2),同契約に基づいて,同年10月29日付けで,同指定商品に係る引用商標権1ないし5の移転登録を受けた(甲8の1ないし5)。
被告は,平成23年11月11日に設立された。被告は,平成24年4月20日付けで,IPGI社から,引用商標権1ないし5を分割した後の本件商標権1ないし5の移転登録を受けた(甲1の1ないし5)。
上記分割移転により,同一商標に係る商標権の指定商品中,第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く。)」については原告が,第25類「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」については被告が,商標権者となることとなった。
(2) 「Admiral(アドミラル)」ブランドについて
「Admiral(アドミラル)」は,英語で「海軍将官,提督」等を意味する語である。
「Admiral(アドミラル)」とは,1914年,英国で発祥したブランドであり,第1次世界大戦時に英国海軍の軍服を製造していたメーカーが,戦後スポーツウェアメーカーとなって発展させてきたブランド(本件ブランド)である。本件ブランドは,1970年代から1980年代にかけて,サッカーのイングランド代表や,人気クラブであるマンチェスター・ユナイテッドを含むメジャープロサッカークラブの公式ユニフォームに用いられたことにより,欧州を中心として,主としてサッカーのアパレルメーカーとして世界各地で認知度が高まり,1980年代以降は,サッカー以外に英国クリケット代表チームのスポンサーとなるなどして,クリケット及びラグビーといったトータルスポーツファッションブランドとして広く認知されるようになった。日本においても,サッカー雑誌等で宣伝広告がされることにより,1970年代から1980年代に英国発祥のスポーツブランドとしての認知度が高まり,主にサッカーブランドとしての地位を確立した。本件ブランドは,現在,世界40カ国で展開されており,上記1970年代から1980年代に確立したイメージに基づき,主にサッカーを中心とした歴史のあるスポーツファッションブランドとして世界各国で知られている。
(甲5,201,211,212,214,217の2・3,218,219,235の1ないし15)。
日本国内においては,現在,豊田通商株式会社が被服等を指定商品とする本件ブランドの商標権を保有し,ライセンサーとして,ゴルフグッズ,サッカー用ゲームウェア,水着,バッグ,靴下・下着,ネクタイ・マフラーについて,それぞれ別々の会社にライセンスをしているが(平成25年7月24日当時。甲217の1),原告及びチヨダの商品以外には,本件ブランドの商標を付した履物は販売されていない。
(3) 原告による引用商標の使用について
ア 原告は,平成17年8月,当時IBLの許諾により日本国内で本件ブランドの商標の独占的通常使用権を有していたIPGI社から,日本国内で同商標を付して「カジュアルシューズ」を製造販売する通常使用権を,原告以外の第三者には使用許諾しない約定でサブライセンスを受け(甲232の1),平成18年9月頃から,原告商品を含む「Admiral」の商標を付したカジュアルシューズを継続的に製造・販売するようになった(甲5,202,248)。
イ 本件ブランドは,前記(2)のとおり,スポーツウエアやスポーツ用品のメーカーとしての認知度は高かったが,原告は,スポーツシューズとしてではなく,日本人に合った,ファッションに特化したタウンユースとしての靴を新たに開発,販売をすることとし,細身で,底が薄く,スタイリッシュなデザインのスニーカーを独自にデザインし,その3箇所に原告使用商標を付した「ワトフォード」モデルなど,引用商標を使用した多数のスニーカー等のモデルを製造,販売した(甲9の1ないし11,甲201,205)。
原告の販売する靴のモデルは多数あるが,平成18年9月頃の販売開始時から,使用権者商品の販売開始時である平成25年3月頃までの約6.5年の間の原告の靴の累積販売総数は約150万足であり,そのうち「ワトフォード」モデルの累積販売数は約40万足,原告商品(Tricolor)の累積販売数は平成26年11月時点までで約12.9万足である。なお,「ワトフォード」モデル以外に,原告が「ワトフォード」と同時期から販売している「イノマー」,「イノマーハイ」と称するモデルのスニーカーにおいても,原告使用商標AないしCと同じ商標が,スニーカーの同じ位置に付されており(甲9の1ないし11),これらの累積販売数は,平成26年11月時点までで約55万足である。(甲5,248,弁論の全趣旨)
ウ 原告の販売するスニーカーは,「Admiral(アドミラル)」のブランド名で,平成21年から平成25年初めにかけて,ファッション雑誌に100回以上取り上げられ,そのうち「smart」,「Samurai ELO」,「FINE BOYS」,「Street Jack」,「Men’s Joker」,「MEN’S NON-NO」,「Mono Max」,「Begin」,「Lightning」という人気ランキングのトップテンに入るような人気の高い若者向け男性ファッション雑誌に頻繁に取り上げられた(甲11ないし195)。また,上記掲載された雑誌のうち,「MEN’S NON-NO」,「Men’s Joker」,「FINE BOYS」,「POPEYE」,「Street Jack」,「CHOkiCHOki」は発行部数が10万部を超える若者向け男性ファッション雑誌である(甲196)。
また,平成23年5月20日付け日経産業新聞の記事では,原告について,「ナイキやアディダスなどの欧米の巨人が立ちはだかる靴業界で,ファッションに特化して成功した異端児といえるブランドがある。双日ジーエムシー(東京・港)の英ブランド「アドミラル」だ。細身でスタイリッシュな形状が若者の心をひきつけた。」などと紹介された(甲250)。
さらに,平成25年7月12日付け日経流通新聞の記事では,「アドミラル(双日GMC)」との表題の下,「英国発祥の靴ブランド「アドミラル」が男女を問わず,20歳前後の若者の支持を集めている。英国ロンドンの街角を想起させる都会的なデザインが特徴・・・日本の消費者の嗜好に合わせながら,英国らしさにこだわったデザインや素材選びで競合ブランドとの差異化につなげている。」と紹介された(甲201)。
(4) 原告商品と使用権者商品の外観について
ア 原告商品(別紙1の写真左側)は,全体として平べったく,細身の形状の白地のスニーカーである。原告商品のアッパー(甲の部分)の中央には銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通されており,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,紺と赤の斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソール(靴底部分)との境目部分に,紺色の線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。靴の踵の履き口部分には,踵の立ち上がりの約半分くらいの高さの逆三角形の紺色の布が縫い付けられている。
そして,前記第2の2(4)のとおり,シュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段に青と赤のイギリス国旗の中央に白字で「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる原告使用標章Aが付されている。靴の中敷部分は白地で,その踵に近い部分の上に赤字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる原告使用標章Cが付されており,外側側面後方の踵に近い部分に,原告使用商標Bの図形標章が,それぞれ表示されている。原告商品の踵には,商標は付されていない。
イ 使用権者商品(別紙1の写真右側)は,前記第2の2(2)のとおり,「クロッグサンダル」というタイプの白地のサンダルであり,前面から見たときの外観は,原告商品の外観とほぼ同じ形状及びデザインである。すなわち,使用権者商品のつま先側はスニーカーのように覆われ,シュータン(靴ベロ)があり,アッパー(甲)の中央部分には,銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通されており,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,青と赤の斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソール(靴底部分)との境目部分に,黒い線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。一方,使用権者商品は,原告商品と異なり,靴の側面は,シュータンの位置付近から踵にかけて徐々に立ち上がりの高さが低くなるようにえぐれており,踵部分の立ち上がりは約2センチ程度の低さとなっている。靴の踵の履き口部分には,立ち上がりと同じ高さの台形の青いビニール様の素材が縫い付けられている。
そして,前記第2の2(2)のとおり,シューレースホールの上方中央に位置するシュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段に青と赤のイギリス国旗の中央に白字で「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる使用権者標章Aが付されている。靴の中敷部分は青のチェック模様地で,その踵に近い部分の上に,白抜きで「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる使用権者標章Cが付され,外側側面のえぐれていない部分のうち踵に近い後方部分に使用権者商標Bの図形標章が,踵のソール部分(靴底)に青地で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる使用権者標章Dが,それぞれ表示されている。
ウ 使用権者商品については,雑誌「MonoMax」平成25年6月号において,「名作ワトフォード譲りのヨーロピアンな顔立ちは上品」,「顔立ちはそのままワトフォード! スニーカーに採用されるネームタグがベロに鎮座。正面から見れば,名作ワトフォードと見間違うこと請け合い」と紹介された(甲200)。
(5) 使用権者商品の販売の実情について
平成25年3月ないし5月当時,チヨダの大型販売店舗においては,原告の「ワトフォード」モデルの商品と使用権者商品とは,同じ棚で,原告の商品が上下の段に,使用権者商品がその中段に陳列されるなどの態様で,販売されており,同棚に,原告商品と使用権者商品が出所の区別ができるような表示はされていなかった(甲199)。
2 使用権者商標の使用は,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・・・と混同を生ずるものをしたとき」に当たるか。
前記1の認定事実を前提として,使用権者商標の使用が,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・・・と混同を生ずるものをしたとき」に当たるかを検討する。
(1) 法53条1項は,商標権者から専用使用権又は通常使用権の設定を受けた者が,登録商標又はこれに類似する商標を,指定商品・役務又は類似商品・役務について使用した場合であって,その使用が,「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」であるときには,当該商標権者が,その事実を知らず,かつ,相当な注意をしていたときを除いて,当該商標登録を取り消すことができると規定している。同規定の趣旨は,専用使用権者又は通常使用権者といえども,登録商標の正当使用義務に違反して登録商標を使用した結果,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,そのような行為は,当該他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するばかりでなく,商標権者の監督義務に違反するものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとしたものである。
ところで,現行の商標法は,指定商品又は指定役務ごとに商標権の分割及び移転を認めており(法24条1項,24条の2第1項),分割に係る商標権の指定商品又は指定役務が,当該指定商品又は指定役務以外の他の指定商品又は指定役務と類似している場合であっても,商標権の分割・移転を制限していない(平成8年法律第68号による改正前の法24条1項ただし書は,同一商標について,類似関係にある商品・役務に係る商標権の分割移転を禁止していた。)。したがって,同一の商標について,類似する商品・役務を指定商品・役務とする商標権に分割され,それぞれが異なる商標権者に帰属することもあり得る。法52条の2は,このような商標権の分割・移転の場合において,商標権者について,「不正競争の目的で」他の商標権者,使用権者等の商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,何人もこのような商標登録の取消しの審判を請求することができる旨を定めたものである。そして,このような商標権の分割・移転の場合における使用権者による使用については,従来から存在している法53条1項の規定の適用に委ねられている。したがって,法53条1項は,このような商標権の分割・移転に係る商標の使用についても適用され得るが,このような場合には,各商標がもともと同一であるため,商標の同一性又は類似性及び商品・役務の類似性のみに起因して,一方の登録商標の使用によって,他方の商標権者と業務上の混同が生じる場合も予想される。
しかし,商標法がこのような同一商標の類似商品・役務間での商標権の分割及び別々の商標権者への移転を許容するものである以上,使用された商標と他人の商標の同一性又は類似性及び商標に係る商品・役務の類似性のみをもって,法53条1項の「混同を生ずるものをした」に該当すると解することは相当ではない。また,このように解すると,類似関係にある商品・役務について分割された商標権の譲渡を別々に受け,それぞれの登録商標又はその類似商標を別々の使用権者に使用させた各商標権者は,法53条1項に基づき当然に相互に相手方の有する商標登録の取消しを請求することができることとなり,不当である(立法としては,上記のような商標権の分割・移転に関する法52条の2を法53条の特則としても位置づけ,商標権者だけでなく,使用権者にも,「不正競争の目的」を要求した方がより明確であったと解されるが,現行法の解釈としても,できる限り,これと同様の結果となるように解釈すべきである。)。
以上によれば,分割された同一の商標に係る二以上の商標権が別々の商標権者に帰属する場合に,一方の専用使用権者又は通常使用権者が,法53条1項における,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというためには,法52条の2の規定の趣旨を類推し,使用商標と他人の商標の同一性又は類似性及び使用商品・役務と他人の業務に係る商品・役務の類似性をいうだけでは足りず,専用使用権者又は通常使用権者が,登録商標又はその類似商標の具体的な使用態様において,他人の商標との商標自体の同一性又は類似性及び指定商品・役務自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,登録商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,他人の業務に係る商品・役務と具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要するというべきである。
(2) そこで,チヨダによる使用権者商標の具体的な使用態様が,引用商標と本件商標自体の同一性や,「サンダル等を除く履物」(具体的には,スニーカー)と,「サンダル」という原告商品と使用権者商品の種類自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,原告の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせるものといえるかどうかについて,検討する。
ア 上記1(3)イ及びウで認定した原告の商品の販売状況及び雑誌等への掲載状況によれば,「Admiral」の商標は,使用権者商品の販売が開始された平成25年3月の時点で,日本国内のカジュアル・シューズの分野では,原告の販売する商品であるタウン・シューズ(スニーカー)の商標として,20歳前後の若年層からなる需要者及び取引者の間において,相当程度認識されていたものと認めることができる。また,原告の販売する商品の中でも,原告商品を含むスニーカー「ワトフォード」モデルは,販売数が多く,人気の高い商品であり,シュータン,外側の側面後方及び中敷の踵に近い部分の3箇所に付されている原告使用商標AないしCも,原告の販売するスニーカーの商標として,上記需要者及び取引者の間において,同月時点で,相当程度認識されていたものと認められる。
イ 一方,平成25年3月頃から販売された使用権者商品は,サンダルではあるが,その全体的な外観は,側面の後方及び踵部分の立ち上がりがスニーカーと比べてえぐれて低くなっている以外には,スニーカーの外観とほぼ同じ形状である。また,そのデザインも,原告の「ワトフォード」モデルのスニーカーと同様に,甲の中央部分に銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通され,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,青系の線と赤線とを組み合わせた斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソールとの境目部分に,黒い線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。そして,使用権者商標は,このような原告商品に酷似する形状・デザインの使用権者商品において,シュータン,外側側面のえぐれていない部分のうち踵に近い後方部分及び中敷の踵に近い部分という原告商品とほぼ同一の場所に付されていたものであり,個々の商標の構成をみても,使用権者商標A及びCは,それぞれ原告使用商標A及びCと同一の構成からなり,使用権者商標B(本件商標4と同じ。)は,原告使用商標B(引用商標1と同じ)と類似する構成からなっている(引用商標1と本件商標4は,互いに白黒部分を反転させたような構成であり,両商標が類似することについては,当事者も争っていない。)。
ウ 上記イのとおり,使用権者商品は,原告商品と,商品の3箇所に商標を付しているという点で共通するのみならず,複数存在する本件ブランドに係る商標のうち,各箇所に使用された商標の種類も,商標を付す位置もほぼ同一の商標を,原告商品と酷似する形状・デザインの類似の種類の商品に付しているものである。このような使用権者商標の具体的な使用態様に加えて,使用権者商品(サンダル)の性質や使用権者商品が紹介されていた雑誌が原告の商品が紹介されていた雑誌と共通すること(前記1(3)ウ及び(4)ウ)からすれば,使用権者商品の需要者も原告商品と同じ20歳前後の若年層を含むと認められ,両商品は需要者及び取引者を共通にしていること,両商品は,大手靴量販店であるチヨダの店舗で同じ棚に並べられて販売されていたという取引の実情をも考慮すれば,チヨダによる使用権者商標の使用態様は,単に原告使用商標と同一又は類似する,及び「履物(サンダル等を除く。)」と「サンダル等」という商品の種類が類似すること自体により通常混同が生じうるという範囲を超えて,当時,需要者及び取引者の間において原告の販売する商品の表示として認識されていた原告使用商標の具体的な使用態様と酷似していたものというべきであり,そのような使用権者商標の使用により,取引者及び需要者に,使用権者商品も,「Admiral」商標に係るスニーカーを販売する者(原告)と同一の出所に係るものであるとの認識を生じさせる具体的な混同のおそれを生じさせたものといえる。
以上によれば,チヨダによる使用権者商標の使用は,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,原告の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせたものということができ,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・・と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというべきである。
(3) 審決の論理について
審決は,前記第2の3①ないし⑤のとおり,引用商標及び本件商標は,いずれも「Admiral(アドミラル)」という国際的ブランドに係る商標であり,引用商標が,原告の業務に係る商標として取引者及び需要者に認識されているものとは認められず,使用権者商標に接する取引者及び需要者は,1914年英国発祥のブランドに係るものとして認識することはあっても,それを超えて,原告又は被告の業務に係る商品であると認識することはないから,出所混同のおそれはない,と判断したものである。
ア しかし,世界各国で本件ブランドが広く知られている結果,引用商標及び本件商標が,「イギリス海軍に由来する伝統的な英国発祥のブランドに係るもの」として取引者及び需要者に認識されているとしても,そのことは,これらの商標が有するブランドイメージについての認識を意味するにすぎないというべきであり,そのようなブランドイメージの認識をもって,当該商標が付された商品について商標法上保護されるべき「出所」についての取引者及び需要者の認識と同視することはできないし,そのようなブランドイメージを有するからといって,日本国内の商標権者を当該商標が付された商品の出所として観念できないということもできない。
むしろ,法53条1項が適用されるためには,取引者及び需要者は,「他人の業務」に係る商標が特定の権利者に帰属していることまで認識している必要はないところ,上記のようなブランドイメージを有する取引者及び需要者の,我が国において販売されるブランドに係る商品の出所についての一般的な認識も,特段の事情がない限り,「同商品の当該ブランドに係る商標について,我が国において適法に権利を有する者」の業務に係る商品であると認識するものと理解するのが合理的である。そして,商標法は,商標権の効力を登録商標権者に対して認めているのであるから,同法上,登録商標について保護されるべき出所は,我が国における当該登録商標についての登録商標権者であり,国際的に周知著名な商標であっても,同商標について我が国において保護されるべき出所は,同商標に係る商標権を適法に日本で有する者である。したがって,国際的に周知著名な商標についての登録商標権を我が国の商標権者が適法に取得したような事案における法53条1項の適用については,「他人の業務に係る商品」との「混同」が生じうるかが問題となるべき主体(他人)は,当該商標についての登録商標権者であるというべきである。
そうすると,日本国内においては,履物(サンダル等を除く。)については,原告が,本件ブランドを発展させ,国際的なブランドイメージを形成した会社等から引用商標に係る商標権の譲渡を受け,現に登録商標権者となっているのであるから,法53条1項の適用について,「混同」が生じうるかを問題とすべき「他人」とは,登録商標権者である原告であるというべきであり,このことは,需要者及び消費者が,日本国における具体的な商標権者が誰であるかを認識していないことや,日本国では商標権が分割されて商品毎に権利者が異なるということを認識していないことによって,左右されるものではない。
イ また,具体的な事実関係をみても,本件においては,前記(2)アのとおり,原告使用商標は,タウン・シューズの分野において,原告の販売する商品を表す商標として,取引者及び需要者の間において,相当程度認識されていたものである。そして,これらの取引者及び需要者は,使用権者商品(サンダル)に前記(2)イ認定のとおりの使用態様で付された使用権者商標に接することにより,使用権者商品も,上記履物(スニーカー)と同じ特定の者(他人)の業務に係る商品であると誤認して,混同するおそれがあるのであるから,本件では,法53条1項の混同のおそれがあるものと認められる。
ウ 審決の判断は,法53条1項の混同が生じる出所についての理解及び前提となる取引者及び需要者の認識についての認定を誤ったものであり,原告の主張する取消事由には理由がある。
(中略)
3 被告は,法53条1項ただし書の「当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当な注意をしていた」といえるか。
(1) 証拠(甲229)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,チヨダが本件商標を付して販売する商品については,販売前にチヨダから写真とともに報告を受け,これを被告が確認した上で,販売を承諾することとしており,使用権者商品についても,事前に報告を受け,その全体の形状,デザイン,商標を付す位置や構成も知っていたことが認められる。
もっとも,被告は,当時,原告商品が販売されていたこと自体をそもそも認識していなかったから,不正使用の事実を知らなかった場合に当たると主張する。しかし,仮に同主張を前提としても,被告は,本件商標権から引用商標権が分割され,「履物(サンダル等を除く)」と,「サンダル等」という類似する指定商品について同一の商標に係る商標権が異なる権利者に移転され,サンダル等以外の履物についての商標権者である原告が,引用商標と同一又は類似する商標を付したタウン・シューズを当時既に販売していたことは認識していたのであり(弁論の全趣旨),そうである以上,被告は,使用権者に新たに本件商標を使用させるに当たっては,原告の商品の周知の程度や原告の商品における引用商標の具体的な使用態様を確認し,使用権者商標の具体的な使用態様が,原告の業務に係る商品との具体的な混同を生ずるおそれがないかどうかについて注意をする義務を負っていたというべきである。
そうすると,仮に被告が当時,具体的に原告商品自体を認識していなかったため,使用権者商標の具体的な使用態様が,原告の業務に係る商品における原告使用商標の使用態様と酷似し,同商品との混同を生ずるおそれがあることを知らなかったとしても,被告は,そのような混同が生じるおそれがあることを知るための相当の注意を欠いていたというべきである。
(中略)
(3) したがって,被告について,法53条1項ただし書の抗弁が成立するものとは認められない。
(後略)
受注生産の水中灯用のラベルに商標「アイライト」を使用していた事実につき、出所表示機能を果たす態様に限定されず何らかの態様使用されていれば足りるとして、商標の使用事実が認定された事例
【種別】審決取消請求事件
【訴訟番号】平成26(行ケ)10234 平成27年11月26日 知的財産高等裁判所 裁判所
【当事者】
原告:X
被告:岩崎電気(株)
【事案】
⑴ 被告は,昭和37年12月21日,指定商品を第11類「電球類及照明器具」として,「アイライト」の片仮名を横書きして成る商標(以下「本件商標」という。)につき,設定の登録を受けた(商標登録第0602699号。甲1,乙1)。
本件商標は,5回にわたり,商標権の存続期間の更新が登録され,その間,平成16年4月14日に,指定商品を第11類「電球類及び照明用器具」とする指定商品の書換えが登録された(甲1)。
⑵ 原告は,平成26年1月30日,本件商標の不使用を理由として本件商標の商標登録の取消しを求める審判を請求し,同年2月18日,同審判の請求が登録され,取消2014-300062号事件として係属した。
特許庁は,同年9月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同日,その謄本が原告に送達された。
⑶ 原告は,同年10月24日,本件審決の取消しを求める本件審決取消訴訟を提起した。

本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,被告が,平成23年10月12日付けで,本件商標が付された個装箱で包装したメタルハライドランプ水中灯を納品した行為(以下「本件行為」という。)を認定し,l同行為をもって,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という。)に日本国内において,商標権者である被告が上記請求に係る指定商品について,本件商標と社会通念上同一ということのできる商標を使用していたことを証明したものと認められるから,本件商標の登録は,商標法50条の規定により取り消すことはできない,というものである。
裁判所の判断
被告は,本件行為,すなわち,平成23年10月12日,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」を,本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて売却,納品したものと認められ,これは,商標法2条3項2号所定の「商品の包装に標章を付したものを譲渡」に該当するから,商標法50条所定の使用の事実が認められる。
3 結論
以上によれば,原告主張の審決取消事由には理由がなく,したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
理由
1 本件行為について
⑴ 認定事実
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
ア 被告は,各種光源,照明器具,光応用機器(紫外線・赤外線・電子線応用)等の製造及び販売を業とする株式会社である(甲6)。
イ 被告の埼玉製作所技術課「集魚灯『アイライト』」漁船機関昭和62年10月特集号(乙2,社団法人漁船機関技術協会)には,「弊社のアイライト」につき,
①照明用HIDランプの技術と経験を基に開発された高効率の集魚灯であり,メタルハライドランプと高圧ナトリウムランプがあること,②メタルハライドランプは,船上用及び水中用として,2kWと4kWのものがあり,その光源色には白色と緑色があることが記載されている。また,「表-1 アイライト特性一覧表」には,船上灯としてのメタルハライドランプには,「形式M2000B-W,発光色白色,ランプ電力2000W」,「形式M2000B-G,発光色緑色,ランプ電力2000W」,「形式M2000B-F,発光色白色(けい光色),ランプ電力2000W」,「形式M4000B-W,発光色白色,ランプ電力4000W」があり,水中灯としてのメタルハライドランプには,「形式M2000BW-W,発光色白色,ランプ電力2000W」,「形式M2000BW-G,発光色緑色,ランプ電力2000W」,「形式M4000BW-W,発光色白色,ランプ電力4000W」,「形式M4000BW-G,発光色緑色,ランプ電力4000W」があることが,記載されている。また,被告が平成2年頃から平成12年頃にかけて配布していたパンフレットには,「アイライト 集魚灯ランプ」,「アイライト 集魚灯ホルダ」,「アイライト サンマ灯具」などの記載がみられる(乙16)。
このように,被告は,照明用HIDランプを基に開発された集魚灯である船上灯のメタルハライドランプ及び高圧ナトリウムランプ並びに水中灯のメタルハライドランプ及び高圧ナトリウムランプを製造,販売しており,いずれのランプも「アイライト」と呼んでいた。
ウ 平成19年頃以降,LED集魚灯の普及,実用化が推進されるようになり,HIDランプ集魚灯を使用する漁船は,減少する傾向にある。被告においても,ほぼ同じ頃,需要減を受けて,HIDランプ集魚灯「アイライト」の生産方式を従前の見込み生産から受注生産に切り替えた。
しかし,HIDランプ集魚灯は,LED集魚灯よりも照射範囲が広く,集魚能力が勝っていることから,現在でもHIDランプ集魚灯を使用している漁船はあり,被告は,HIDランプ集魚灯「アイライト」の交換ランプの注文を受けている。
HIDランプ集魚灯「アイライト」は,用途の特殊性,大型で非常に高価なランプであることに加え,点火に専用の電源装置を要することなどから,その需要者は,イカ釣り漁船やサンマ棒受け網漁船の船主に限られ,一般の消費者や企業が購入するものではない。このことから,被告は,従前から,インターネットによる広告など一般の消費者や企業に向けた広告宣伝は,行ってこなかった(乙16)。
エ メタルハライドランプ水中灯は,衝撃や振動が加えられると破損するおそれが大きいガラス製品であり,破損すれば,負傷のおそれ,封入物の水銀の飛散による健康被害,環境破壊のおそれがある。また,直接手で触れることによって手の脂や汚れが付着した場合,そのままの状態で使用すると,破損,短寿命,低照度の原因となるおそれがある。したがって,メタルハライドランプ水中灯を,個装箱に入れないで納品,販売することはあり得ない。
また,メタルハライドランプ水中灯の個装箱は,販売,返品,輸送,持ち運び,保管,廃棄及び取扱説明書の収納に必要不可欠なものである。
オ 田島紙工は,被告が製造,販売するランプ類の個装箱の製造を受注しており,その中には,HIDランプ集魚灯「アイライト」の一種であるメタルハライドランプ水中灯「アイライト」も含まれていた。
田島紙工は,平成14年頃から平成15年頃,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」の個装箱(以下「本件個装箱」という。)に貼付するラベル(以下「本件ラベル」という。)を,被告から支給された。
本件ラベルは,長方形をしており,長辺を縦,短辺を横として,上段から,「メタルハライドランプ」,「水中灯」の文字がいずれも白地に黒の太字で表示されている。その下に,本件商標である「アイライト」の文字がオレンジ地に白抜きで表示され,次いで,「M2000BW-v」の文字が白地に黒の太字で表示されており,下方には水中灯のイラストが白色でオレンジ地に描かれている。
田島紙工においては,以下の工程により,本件個装箱を製造していた。すなわち,①ロール裁断機を用いて段ボールを個装箱の展開サイズに裁断し,②ダイカッタを用いて裁断した段ボールを個装箱の展開形状に打ち抜き,③これを接着剤でサイド貼りして箱構造に組み立て,④組立て完了後,本件ラベルの裏面に糊を塗布し,個装箱の表面に張り付ける(乙16,乙17)。
カ 被告の照明調達課が平成23年10月6日付けで田島紙工宛てに作成した注文書(乙10)には,注文NO10682519の「PA0178L01/M2000BW-12P」1枚,注文NO10682522の「PD0202L01/M2000BW-1P」1枚の記載があり,田島紙工が作成した買掛金伝票(納品書)(乙11)には,注文主として被告の照明調達課が,出荷日として「2011/10/07」が,それぞれ記載されており,注文NO10682519の「PA0178L01/M2000BW-12P」1枚,注文NO10682522の「PD0202L01/M2000BW-1P」1枚と記載されている。
上記の「PA0178L01」及び「PD0202L01」は,オンライン受発注システムのコンピュータによって自動的に付番されるコードであり,「M2000BW」は,ランプの型式番号(形式)を示すものであり,「1P」は,ランプを1本ずつ個包装する1ピース箱(個装箱)を示す(乙17)。
キ 被告の埼玉製作所の従業員であるAが作成した製品受渡検査成績書(乙14別紙Ⅰ)には,「検査日 2011年10月7日(金)」と記載されており,「製品形式」の欄に「M2000BW/V」,「生産数」の欄に「1」の記載があり,「ロットの合否判定」については「合格」の不動文字に印が付けられている。
また,Aが作成した包装工程検査成績書(乙14別紙Ⅱ)には,「製造日 11年10月7日(金)」と記載されており,「形式」の欄に「M2000BW/V」,「仕掛数(本)」の欄に「1」,「良品数(本)」の欄に「1」,「不良数(本)」の欄に「0」の記載がある。また,同書面には,「品質特性,管理項目」として,「※1箱表示状態」,「※2 マーク確認」及び「※3 取扱説明書」が挙げられており,これらの各項目につき,形式別に「実測,チェック」及び「合否判定」の欄が設けられている。
箱表示状態の実測チェックは,包装箱に貼付されたラベルの印刷表示や包装箱に直接印刷された表示の判読の可否をチェックするものであり,マーク確認の実測チェックは,製品であるランプの外球に付された品名や型式番号(形式)等のマークと包装箱に表示された品名や型式番号(形式)等との不一致の有無をチェックするものである。取扱説明書の実測チェックは,取扱説明書の同封の有無をチェックするものであるが,メタルハライドランプ水中灯アイライトについては,更に,個装箱内のランプのネック部に,当該ランプを個装箱内で安定させるための段ボール紙製の補助材が取り付けられているか否かもチェックする。「M2000BW/V」の「※1 箱表示状態」,「※2 マーク確認」,「※3 取扱説明書」の各「実測,チェック」欄及び「合否判定」欄には,いずれも「✓」印が付けられている(乙14)。
ク 被告の静岡営業所が発行した物品受領書(乙4)には,「御得意先」としてミツワ電機の沼津営業所が記載されており,「11/10/12」,伝票番号「195042」,製品名欄に「M2000BW/V 特殊用途HIDランプ」,数量欄に「1」と記載されている。
被告の静岡営業所がミツワ電機の沼津営業所宛てに発行した平成23年10月31日付け「請求書控え 11年10月度」(乙5)中には,「11年 月 日」欄に「10.12」,伝票番号に「195042」,製品名欄に「M2000BW/V」,数量欄に「1」,単価欄に「28,000」,金額(合計)欄に「¥28,000」と記載されている。
⑵ 本件行為の認定について
ア 前記⑴において認定したとおり,①被告は,遅くとも昭和62年頃から高効率のHIDランプ集魚灯を「アイライト」として製造,販売していたが,平成19年頃以降,その需要が減少し,受注生産に切り替えたこと,②もっとも,現在でもHIDランプ集魚灯を使用している漁船はあり,被告は,HIDランプ集魚灯「アイライト」の交換ランプの注文を受けていること,③HIDランプ集魚灯「アイライト」には,船上灯と水中灯があり,「M2000BW」は水中灯の形式の1つであること,④田島紙工は,HIDランプ集魚灯「アイライト」の一種であるメタルハライドランプ水中灯「アイライト」を含む被告が製造,販売するランプ類の個装箱の製造を受注しており,平成14年頃から平成15年頃,本件個装箱に貼付する本件ラベルを被告から支給されたこと,⑤田島紙工においては,裁断するなどした段ボールを箱構造に組み立てた後,その表面に本件ラベルを糊で貼付して本件個装箱を製造していること,⑥被告の照明調達課が,平成23年10月6日付けで,田島紙工に対し,水中灯としてのメタルハライドランプである形式「M2000BW」を1本ずつ個包装する1ピース箱(個装箱)を発注し,同月7日,納品されたこと,⑦同日,被告の埼玉製作所において,「M2000BW/V」の製品受渡検査及び包装工程検査が実施され,「M2000BW/V」は,いずれの検査も合格したこと,⑧同月12日,被告が,ミツワ電機に対し,「M2000BW/V」1本を2万8000円で売却し,同日納品したことが認められる。
これらの事実によれば,平成23年10月12日,被告がミツワ電機に対して売却した「M2000BW/V」1本は,同月7日に田島紙工から被告の照明調達課に納品された「M2000BW」の1ピース用の個装箱に入れられていたものと推認することができる。そして,前記「M2000BW/V」が合格した包装工程検査には,前記⑴キのとおり,包装箱に貼付されたラベルの印刷表示等の判読の可否をチェックする箱表示状態の実測チェック,製品であるランプの外球に付された品名や型式番号(形式)等のマークと包装箱に表示された品名や型式番号(形式)等との不一致の有無をチェックするマーク確認の実測チェックが含まれていることに鑑みると,前記「M2000BW」の個装箱には,本件ラベルが貼付され,前記「M2000BW/V」の品名や型式番号(形式)等のマークに加え,「アイライト」が表示されていたものと推認することができる。
イ 以上の事実によれば,被告は,平成23年10月12日付けで,ミツワ電機に対し,本件商標を表示した本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」1本を2万8000円で売却し,同日,納品したものと認定できる。
したがって,本件審決が,本件行為を認定したことに,誤りはない。
(中略)
2 本件行為が商標法50条所定の「使用」の事実に該当するか否かについて
⑴ 前記1のとおり,被告は,本件行為,すなわち,平成23年10月12日,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」を,本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて売却,納品したものと認められ,これは,商標法2条3項2号所定の「商品の包装に標章を付したものを譲渡」する行為であるから,商標法50条所定の「使用」の事実が認められる。
⑵ 原告の主張(前記第3の2⑴)について
ア 原告は,①乙第4号証及び乙第5号証のいずれにおいても,メタルハライドランプ水中灯は,「M2000BW/V」と記載されており,本件商標は記載されていないこと,②乙第3号証の写真及び乙第6号証の別紙写真に写っている個装箱に貼付されたラベルにおいて,「M2000BW-v」の文字が,本件商標である「アイライト」の文字よりも,目を引く顕著な態様で表示されていることなどから,被告及びミツワ電機のいずれも,メタルハライドランプ水中灯につき,「アイライト」ではなく,「M2000BW/V」の名称で認識して受発注を行っていたものということができるとして,本件商標は,本件行為当時,被告が販売していたメタルハライドランプ水中灯について,出所表示機能を果たしていなかった旨主張する。
イ しかしながら,商標法50条の主な趣旨は,登録された商標には,その使用の有無にかかわらず,排他独占的な権利が発生することから,長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは,当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め,国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので,一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求することができるというものである。
上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。
ウ また,原告の上記主張は,以下のとおり採用できない。
(ア) 前記1⑴イのとおり,被告が製造,販売するHIDランプ集魚灯「アイライト」には,メタルハライドランプと高圧ナトリウムランプがあり,メタルハライドランプは,船上灯と水中灯に分かれ,それぞれにおいてさらに,発光色やランプ電力等によって,「M2000B-W」,「M2000BW-W」など複数の形式に分かれている。
この点に鑑みると,前記集魚灯の受発注等に当たり,「アイライト」のみでは,対象の特定として十分ではないこともあるということができる。現に,Aが作成した製品受渡検査成績書(乙14別紙Ⅰ)及び包装工程検査成績書(乙14別紙Ⅱ)には,前記⑴キのとおり「M2000BW/V」が記載されているほか,同じくHIDランプ集魚灯「アイライト」に含まれる船上灯としてのメタルハライドランプで,ランプ電力2000Wのものを意味するとみられる「M2000B/BUH-E40」,「M2000B/BUH」が記載されている。
以上によれば,被告とミツワ電機は,受発注に当たり,HIDランプ集魚灯「アイライト」のうちのどの製品を対象とするかを特定するために,「M2000BW/V」など形式を明らかにする名称を用い,物品受領書や請求書など取引関係の書類においても,同名称を記載していたものと推認できる。
(イ) 本件ラベルは,乙第3号証の写真及び乙第6号証の別紙写真に写っている個装箱に貼付されたラベルと同一のものと認められ,その外観は,前記1⑴オのとおりであるところ,本件商標である「アイライト」の文字は,本件ラベルの上方に,白地に黒の太字で表示された「メタルハライドランプ」,「水中灯」の文字に続いて,オレンジ地に白抜きで表示され,上記の文字と同様,鮮明に読み取ることができる。
(ウ) 以上によれば,本件行為当時,メタルハライドランプ水中灯につき,「アイライト」が出所表示機能を果たしていなかったということはできず,原告の前記主張は,採用できない。
(中略)
⑸ 小括
以上によれば,被告は,本件行為,すなわち,平成23年10月12日,メタルハライドランプ水中灯「アイライト」である形式「M2000BW/V」を,本件ラベルが貼付された本件個装箱に入れて売却,納品したものと認められ,これは,商標法2条3項2号所定の「商品の包装に標章を付したものを譲渡」に該当するから,商標法50条所定の使用の事実が認められる。

