銀行業を業務とする者は、法律に定められた以外の他の業務を営むことができないので、「自己の業務に係る商品について使用」をするとは認められないとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服昭和57-25974
【審決日】1989年12月21日
【事案】
「旅客用小切手」は、一般市場において流通に供することを目的とした有体物とは認められず、かつ、有価証券の一種と認められるので、商標法にいう商品ということができない。
免許を受けて銀行業を営む者は、銀行法に掲げる業務を本業とし、同法及び「普通銀行ノ信託業務ノ兼営等ニ関スル法律」1条に掲げる業務のほか、他の業務を営むことができないので、出願人が自己の業務に係る商品について使用をするものとは認められず、また、商標法上の商品でないものを指定して出願するものであるから、商標法3条1項柱書の規定により登録を受けることができない。
【拒絶理由】
本願商標は、下記に表示したとおりの構成よりなり、第26類「旅客用小切手、その他旅客用小切手に関する印刷物」を指定商品とするものである。
銀行法(昭和56年法律59号)によれば、銀行業は、大蔵大臣の免許を受けた者でなければ営むことができず(同法4条1項)、また、当該免許を受けて銀行業を営む者は、同法2条に掲げる業務を本業とし、同法10条、11条、12条及び「普通銀行ノ信託業務ノ兼営等ニ関スル法律(昭和18年法律43号)」1条に掲げる業務のほか、他の業務を営むことができないので(同法12条、47条)、出願人が商標法にいう商品についての業務を営むことができないことは明らかであり、かつ、商標法の商品についての業務を営むことについて大蔵大臣の免許を受けていることを認めるに足る証拠もない。したがって、出願人は、本願商標を商標法3条柱書にいう「自己の業務に係る商品について使用」をするものとは認められない。
【審決における判断】
本願商標の指定商品中の「旅客用小切手」とは、「トラベラーズチェック」を指称しているものと解されるところ、それには署名欄が二カ所あり、その購入者が一カ所には購入時に署名し、他の一カ所には買物や現金化するときに受取人の面前で署名することを要し、両方の署名が一致しない限りそれは通用しないものであって、その使用者はその購入者である署名者に限られ、それ以外の者はそれを一般の商品として売買又は使用することのできないものである。してみると「旅客用小切手」は、一般市場において流通に供することを目的とした有体物とは認められず、かつ、有価証券の一種と認められるので、商標法にいう商品ということができない。また、当該指定商品中の「旅客用小切手に関する印刷物」には、旅客用小切手に関する説明、案内若しくは約款の類だけでなく、そのPR用のパンフレットやカタログが含まれるとしても、それらは、いずれも「旅客用小切手」に付随して発行される印刷物であるので、旅客用小切手が商標法にいう商品に該当しない以上、商標法にいう商品ということができない。
したがって、本願商標は、出願人が自己の業務に係る商品について使用をするものとは認められず、また、商標法上の商品でないものを指定して出願するものであるから、商標法3条1項柱書の規定により登録を受けることができない。