「嬬恋高原」の文字は、商品が「嬬恋高原で製造、販売されるビールあるいはビール製造用ホップエキス」であること、すなわち商品の産地、販売地を表示するものと理解させるに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服平成10-5393
【審決日】
【事案】
本願商標は、「嬬恋高原」の漢字を横書きしてなり、第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール製造用ホップエキス」を指定商品として、平成8年3月29日に登録出願されたものであるが、その後、指定商品については、平成9年12月26日付け提出の手続補正書により「ビール,ビール製造用ホップエキス」と補正されたものである。
【拒絶理由】
原査定は、「本願商標は、群馬県吾妻郡にある『嬬恋高原』の文字を、普通に用いられる方法で書してなるから、これを本願指定商品中、例えば『嬬恋高原産の地ビール』等の商品に使用するときは、単に商品の産地・販売地を表示するにすぎない。したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、同第4条第1項第16号に該当する。また、出願人の提出に係る各資料によっては、本願商標が同第3条第2項に該当するに至ったものとは認められない。」旨認定、判断して、本願を拒絶したものである。
【審決における判断】
群馬県吾妻郡西端に位置する嬬恋村は、村域の半分以上が上信越高原国立公園に含まれる観光地として知られ、吾妻川沿いの集落を除く大部分が標高千メートル以上の風光明媚な高原状の地形にあることから、付近一帯は「嬬恋高原」の呼び名でも親しまれているところである。
このことは、ホテルやゴルフ場の所在地に「嬬恋村嬬恋高原」との表示が、また、インターネットによる嬬恋村に関する紹介記事に「嬬恋高原のキャベツ畑」、「万座ハイウェー経由で嬬恋高原まで○○Km」等の表示が、さらに、嬬恋村に関する新聞記事に、「東海大学嬬恋高原研修センター」、「嬬恋高原芸術展」、「嬬恋高原山野草愛好会」等の表示がみられること等から認めることができる(「全国ゴルフ場ガイド’93東日本編」ゴルフダイジェスト社発行1764頁、「goo」1999年9月1日インターネット情報、朝日新聞1989年1月31日群馬版、毎日新聞1999年8月5日群馬版、同1997年7月5日群馬版)。
ところで、1994年4月の酒税法改正でビール製造量の下限が引き下げられたことにより、我が国でも地域の特性を生かした地ビール造りが盛んに行われるようになり、全国各地で多種多様のビールが製造され、販売されているのが実情である。
そして、嬬恋村に1万1千人の住民の他、多くの企業、リゾート施設や宿泊施設等が存在することを考えれば 、「嬬恋高原」の文字は、前記「嬬恋高原」の地域で本願指定商品の製造または販売をする者によって、必要に応じ、商品の生産地、販売地を表示するものとして、その容器、包装等に任意に採択、使用され得る性質のものであるというのが相当である。
してみれば、「嬬恋高原」の文字よりなる本願商標は、これをその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者に対し、上記実情から、該商品が「嬬恋高原で製造、販売されるビールあるいはビール製造用ホップエキス」であること、すなわち商品の産地、販売地を表示するものと理解させるに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものと判断するのが相当である。
つぎに請求人は、本願商標が商標法第3条第2項に該当する旨述べ、それを証明するものとして資料1乃至同11を提出しているが、そこに示された請求人の使用に係る商標は、いずれも「嬬恋高原」「つまごいこうげん」「ブルワリー」の各文字と図形が一体になったもの、あるいは「嬬恋高原ブルワリー」であって、本願商標である「嬬恋高原」とは態様が異なるものであるうえ、上記商標の使用期間も2年と短く、さらに取引数量の証明もないものであるから、本願商標が、その指定商品に使用された結果、需要者が請求人の業務に係る商品であることを認識することができるに至っているとは認められない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであり、登録することかできない。
よって、結論のとおり審決する。