商標法第4条第1項第10号が規定する「需要者の間に広く認識されている商標」といえるためには、それが未登録の商標でありながら、その使用事実にかんがみ、商標登録出願の時において全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも1県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきであるとして、「DCC」の無効を認めなかった事例
【種別】審決取消訴訟の判決
【訴訟番号】東京高昭和57年(行ケ)110号
【事案】
本件商標は、「DCC」の欧文字を横書きしてなり、第二九類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」を指定商品として、昭和四六年三月一八日に商標登録出願され、昭和四八年八月二日に出願公告、昭和四九年一一月一日に設定登録されたものである。
請求人(原告)は、本件商標は請求人がその営業としてコーヒー、ココア、紅茶について永年使用した結果、本件商標の登録出願の日前より需要者の間に広く認識されていたものであるから、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであり、さらに出所の混同を生じさせるおそれがあるから商標法第4条第1項第15号の規定にも、違反して登録されたものであるとして、商標登録の無効審判を請求したが、無効にすべきでないとした審決の取消を求めた事例である。
【無効理由】
商標法第4条第1項第10号
商標法第4条第1項第15号
【判決における判断】
コーヒーは、いわゆる専業的な喫茶店のみならず食堂、レストラン、グリル一般でも営業用に供され、一般家庭でも日常手軽に消費される嗜好品であって、全国的に流通し、地域的嗜好特性も格別認めがたい商品であることが認められる。しかも、原告製品が独自の原材料の独占、調合若しくは焙煎法、したがってまた、これに基づく他と際立った独特の風味をもって知られているとの立証もない。
かかる全国的に流通する日常使用の一般的商品について、商標法第4条第1項第10号が規定する「需要者の間に広く認識されている商標」といえるためには、それが未登録の商標でありながら、その使用事実にかんがみ、後に出願された商標を排除し、また、需要者における誤認混同のおそれがないものとして、保護を受けるものであること及び今日における商品流通の実態及び広告、宣伝媒体の現況などを考慮するとき、本件では、商標登録出願の時において全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも1県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである。
しかるに、前記認定事実によれば、原告の使用によってDCCが、主として専業的な喫茶店をはじめとする当該継続的取引先の相当数の取扱業者の間で、原告の営業ないし原告取扱いのコーヒー等の商品を表示するものとして認識されていたことこそうかがわれるけれども、その主な販売地域である広島県下でも専業的な喫茶店等に対する取引占有率は最高30パーセント程度に過ぎず、成立に争いのない乙第5号証ないし第7号証によって認められる右以外の一般的な食堂、グリル、レストラン等の存在をも考慮すると、DCCを原告の業務に係る商品を表示するものとして認識していた同種商品取扱業者の比率は更に下まわるものといわねばならず、隣接県である山口県、岡山県等におけるそれらの比率は遥かに広島県に及ばないものであるから、商標法第4条第1項第10号に規定するような需要者の間に原告の業務に係る商品を表示する商標として広く認識されていたものとまではいい難い。
したがつて、本件商標がその登録出願日前に原告の営業に係る商品を示す商標として需要者の間に広く認識されていたとは認められないとした審決の判断に誤りはなく、この認定事実を前提として、原告主張の無効事由の存在を否定した審決に、違法の点はない。