他人の周知商標と同一・類似の商標(商標法第4条第1項第10号)
商標法第4条第1項第10号
他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標、またはこれに類似する商標であって、その商品・役務と同一・類似の商品または役務について使用をする商標は、登録されません。
他人の商標が未登録のものであっても適用されます。
「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」〔第20版〕では、
「一〇号は、旧法二条一項八号に相当する規定で、いわゆる周知商標に関するものである。内容的に旧法と異なるところはない。立法趣旨は商品又は役務の出所の混同防止とともに、一定の信用を蓄積した未登録有名商標の既得の利益を保護するところにもある。すなわち、商標の使用をして自己の『業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識される』程度の信用を形成したときには、その者は不正競争防止法による場合は別として積極的に他人の使用を差し止める等の権利はないけれども他人の商標登録を阻止することができるのである。また、本号違反によって他の商標が登録されてもその商標権について三二条のいわゆる先使用権が認められる。」
と解説されています。
商標審査基準抜粋
第4条第1項第10号(他人の周知商標)(PDF)
1.「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」について
(1) 需要者の認識について
「需要者の間に広く認識されている商標」には、最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む。
(2) 周知性の判断について
「需要者の間に広く認識されている」か否かの判断に当たっては、この基準第2 (第3条第2項)の2.(2)及び(3)を準用する。なお、例えば、以下のような事情については十分に考慮して判断する。
(ア) 取引形態が特殊な商品又は役務の場合
例えば、「医療用医薬品」、「医薬品の試験・検査若しくは研究」については、特定の市場においてのみ流通する商品又は提供される役務であること。
(イ) 主として外国で使用されている商標の場合
主として外国で使用されている商標については、外国において周知であること、数か国に商品が輸出されること、又は数か国で役務の提供が行われていること。
2.「需要者の間に広く認識されている商標」の認定について
審決、異議決定又は判決で需要者の間に広く認識された商標と認定された商標は、その認定された事実について十分に考慮して判断する。
3.「類似する商標」について
(1) 本号における商標の類否の判断については、この基準第3の十(第4条第1項第11号)の1.から10.を準用する。
(2) 「需要者の間に広く認識されている」他人の未登録商標と他の文字又は図形等とを結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、その未登録商標と類似するものと判断する。
ただし、その未登録商標が既成語の一部となっていることが明らかな場合等を除く。
(例) 該当例は、この基準第3の十(第4条第1項第11号)の4.(2)(ア)②と同様 である。
4.判断時期について
本号の規定を適用するために引用される商標は、商標登録出願の時に(第4条第3項参照)、我が国内の需要者の間に広く認識されていなければならない。
拒絶理由通知(4条1項10号)への対応方法
(1)最終消費者、取引者に広く認識されている事実はなく、「需要者の間に広く認識されている商標」とはいえない旨の反論をする。
(2)他人の周知商標は、商標登録出願の時には、国内の需要者の間に広く認識されていなかったことを証明する。
(3)「需要者の間に広く認識された」他人の未登録商標とは類似しない旨の反論をする。
(4)他人の周知商標と、他の文字又は図形等とを結合した商標などであって、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかな商標であり類似しないことを説明する。
審決例
判決例
コンピューター関連業界等に携わる者の間に広く認識されていたものと認められる引用商標は、わが国で全国民的に認識されていることを必要とするものではなく、周知商標であるとされた事例東京高平成3年(行ケ)第29号