他人の氏名・名称等を含む商標(商標法第4条第1項第8号)
商標法第4条第1項第8号
(1)他人の肖像
(2)他人の氏名・名称
(3)他人の著名な雅号、芸名、筆名
(4)上記(1)~(3)の著名な略称
上記(1)~(4)を含む商標は、登録されません。
ただし、その他人の承諾を得ているものを除きます。
「他人」とは、現存する者とし、また、外国人を含みます。
また、「著名」の程度の判断については、商品又は役務との関係が考慮されます。
「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」〔第20版〕では、
「旧法との相違は『著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称』を加えたことである。その理由はこれらも氏名と同様に特定人の同一性を認識させる機能があるからであり、人格権保護の規定としてはこれらを保護することが妥当だからである。ただ、肖像あるいは戸籍簿で確定される氏名、登記簿に登記される名称と異なり、雅号等はある程度恣意的なものだからすべてを保護するのは行き過ぎなので、『著名な』ものに限ったのである。『氏名』はフルネームを意味する。したがって、氏又は名のうちいずれか一方のときは本号の適用はない。『これらの著名な略称』とは、氏名、名称、雅号、芸名及び筆名の略称の意味である。また、例えば、自己の名称と他人の名称とが同一の場合は、自己の名称についても本号の適用があり、したがって、不登録になる。なお、本号に関して、これは不正競争防止の規定であるから『その他人の承諾云々』の括弧書は不要であるとの説もあるが、立法の沿革としては前述のように人格権保護の規定と考えるべきであろう。本号には外国人の氏名、名称も含まれる。」
と解説されています。
商標審査基準抜粋
1.「他人」について
「他人」とは、自己以外の現存する者をいい、自然人(外国人を含む。)、法人のみならず、権利能力なき社団を含む。
2.「略称」について
(1) 法人の「名称」から、株式会社、一般社団法人等の法人の種類を除いた場合には、「略称」に該当する。なお、権利能力なき社団の名称については、法人等の種類を含まないため、「略称」に準じて取り扱うこととする。
(2) 外国人の「氏名」について、ミドルネームを含まない場合には、「略称」に該当する。
3.「著名な」略称等について
他人の「著名な」雅号、芸名、筆名又はこれら及び他人の氏名、名称の「著名な」略称に該当するか否かの判断にあたっては、人格権保護の見地から、必ずしも、当該商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは要しない。
4.「含む」について
他人の名称等を「含む」商標であるかは、当該部分が他人の名称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであるか否かにより判断する。
(例) 商標「TOSHIHIKO」から他人の著名な略称「IHI」を想起・連想させない。
5.自己の氏名等に係る商標について
自己の氏名、名称、雅号、芸名、若しくは筆名又はこれらの略称に係る商標であったとしても、「他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」にも該当する場合には、当該他人の人格的利益を損なうものとして、本号に該当する。
6.「他人の承諾」について
「他人の承諾」は、査定時においてあることを要する。
拒絶理由通知(4条1項8号)への対応方法
(1)自己の氏名・名称等と他人の氏名・名称等が一致するときは、その他人の押印のある承諾書をもらい、これを意見書に添付して、その他人の承諾がある旨を説明する。
(2)他人の氏名・名称等の略称であるときは、その略称が著名でないことを証明する。
審決例
「青木功」の文字は、出願人の氏名をあらわすものであるところ、これと同一氏名の他人多数が出願以前より所在し、その他人の承諾を得ていないものと認められるから、商標法4条1項8号に該当するとされた事例S52-17348
「CHANEL DE BEAUTE」の文字は、他人の名称「CHANEL」を含むものであり、その承諾を得ていると認められないとされた事例S44-9018
判決例
「月の友の会」なる商標は、他人の商号である「株式会社月の友の会」から株式会社なる文字を除いた部分と同一のものであるが、その登録を受けることができないのは、「月の友の会」がその他人を表示するものとして著名であるときに限られるとされ、商標の無効が認められなかった事例最高裁昭和57年(行ツ)第15号
「SONYAN」の文字を横書きした商標は、全体が6文字のうち、語頭から4文字は、原告の造語表示「SONY」と一致し、著名な略称である「SONY」を容易に想起看取できるため、商標法4条1項8号に該当するとされた事例東京高昭和52年(行ケ)第133号