その他の識別力のない商標(商標法第3条第1項第6号)
商標法第3条第1項第6号
第3条第1頃第6号(前号までのほか、識別力のないもの)(PDF 18KB)
需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標は、登録されません。
「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」〔第20版〕では、
「六号は、一号から五号までの総括条項である。逆にいえば、一号から五号までは六号を導き出すための例示的列挙ともいえるのであり『特別顕著』の一般的な意味を明らかにしているのである。本号の意味するのは『需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない』ことであって、必ずしも需要者がその商品又は役務が特定の者の業務に係るものであることを認識することができるかどうかを問題にしているのではない。現在の商品流通機構、サービス取引事情の中では、例えば、日常の消費物資等について、それが特定の業務を営む者から流出したことを認識してその者自身の信用を背景として当該商品を購入することは極めて稀であり、多くの場合同一商標の使用をした商品は以前に購入した商品と同等の品質があるだろうとの予測の下に購入するのが実情だから、商標のもつべき本質的機能としては自他商品又は自他役務を区別し、それが一定の出所から流出したものであることを一般的に認識させることができれば十分なのである。本号はこのことを意味しているのである。」
と解説されています。
商標審査基準抜粋
第3条第1頃第6号(前号までのほか、識別力のないもの)(PDF)
1.本項第1号から第5号までに該当しないものであっても、一般に使用され得る標章であって、識別力がない場合には、本号に該当すると判断する。例えば、以下の2.から11.までに挙げるものについて、本号に該当すると判断する。
2.指定商品若しくは指定役務の宣伝広告、又は指定商品若しくは指定役務との直接的な関連性は弱いものの企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標について
(1) 出願商標が、その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等を普通に用いられる方法で表示したものとしてのみ認識させる場合には、本号に該当すると判断する。
出願商標が、その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等としてのみならず、造語等としても認識できる場合には、本号に該当しないと判断する。
(2) 出願商標が、その商品又は役務の宣伝広告としてのみ認識されるか否かは、全体から生じる観念と指定商品又は指定役務との関連性、指定商品又は指定役務の取引の実情、商標の構成及び態様等を総合的に勘案して判断する。
(ア) 商品又は役務の宣伝広告を表示したものとしてのみ認識させる事情
(例)
① 指定商品又は指定役務の説明を表すこと
② 指定商品又は指定役務の特性や優位性を表すこと
③ 指定商品又は指定役務の品質、特徴を簡潔に表すこと
④ 商品又は役務の宣伝広告に一般的に使用される語句からなること(ただし、指定商品又は指定役務の宣伝広告に実際に使用されている例があることは要しない)
(イ) 商品又は役務の宣伝広告以外を認識させる事情
(例)
① 指定商品又は指定役務との関係で直接的、具体的な意味合いが認められないこと
② 出願人が出願商標を一定期間自他商品・役務識別標識として使用しているのに対し、第三者が出願商標と同一又は類似の語句を宣伝広告として使用していないこと
(3) 出願商標が、企業理念・経営方針等としてのみ認識されるか否かは、全体から生ずる観念、取引の実情、全体の構成及び態様等を総合的に勘案して判断する。
(ア) 企業理念・経営方針等としてのみ認識させる事情
(例)
① 企業の特性や優位性を記述すること
② 企業理念・経営方針等を表す際に一般的に使用される語句で記述していること
(イ) 企業理念・経営方針等以外を認識させる事情
(例)
① 出願人が出願商標を一定期間自他商品・役務識別標識として使用しているのに対し、第三者が出願商標と同一又は類似の語句を企業理念・経営方針等を表すものとして使用していないこと
3.単位等を表示する商標について
商標が、指定商品又は指定役務との関係から、商慣習上数量を表示する場合に一般的に用いられる表記(「メートル」、「グラム」、「Net」、「Gross」等)として認識される場合は、本号に該当すると判断する。
4.現元号を表示する商標について
商標が、現元号として認識される場合(「平成」、「HEISEI」等)は、本号に該当すると判断する。
5.国内外の地理的名称を表示する商標について
商標が、事業者の設立地・事業所の所在地、指定商品の仕向け地・一時保管地若しくは指定役務の提供に際する立ち寄り地(港・空港等)等を表す国内外の地理的名称として認識される場合は、本号に該当すると判断する。
6.取扱商品の産地等を表示する商標について
(1) 小売等役務に該当する役務において、商標が、その取扱商品の産地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を表示するものと認識される場合は、本号に該当すると判断する。
(2) 本号に該当する場合の品種登録を受けた品種の名称
品種登録を受けた品種の名称については、この基準第3の十二(第4条第1項第14号)2.及び3.参照。
7.地模様からなる商標について
商標が、模様的に連続反復する図形等により構成されているため、単なる地模様として認識される場合には、本号に該当すると判断する。
ただし、地模様と認識される場合であっても、その構成において特徴的な形態が見いだされる等の事情があれば、本号の判断において考慮する。
8.店舗又は事務所の形状からなる商標について
立体商標について、商標が、指定商品又は指定役務を取り扱う店舗又は事業所の形状にすぎないと認識される場合は、本号に該当すると判断する。
9.店名として多数使用されている商標について
商標が、指定役務において店名として多数使用されていることが明らかな場合(「スナック」、「喫茶」等の業種を表す文字を付加結合したもの又は当該店名から業種をあらわす文字を除いたものを含む)は、本号に該当すると判断する。
(例)
① 指定役務「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」について、商標「さくら」、「愛」、「純」、「ゆき」、「ひまわり」、「蘭」
② 指定役務「茶又はコーヒーを主とする飲食物の提供」について、商標「オリーブ」、「フレンド」、「ひまわり」、「たんぽぽ」
10.色彩のみからなる商標について
色彩のみからなる商標は、第3条第1項第2号及び第3号に該当するもの以外は、原則として、本号に該当すると判断する。
(該当する例)
役務の提供の用に供する物が通常有する色彩
11.音商標について
(1) 音商標を構成する音の要素(音楽的要素及び自然音等)及び言語的要素(歌詞等)を総合して、商標全体として考察し、判断する。
拒絶理由通知(3条1項6号)への対応方法
(1)自己の商標として識別できる商標である旨の反論をする。
・一般的に広く使用されているものではなく、商標として機能する
・他で使用されている事例は、自分の商標である
・言葉自体が広く使用されているものであっても、デザインされた商標であり、普通に表したものとはいえない
・使用実績により自己の商標として認知されているため、自己の商標として識別で着ている実績がある
審決例
「パールブリッジを渡ってきました」の文字は、キャッチフレーズか否かにかかわらず需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるとされた事例H11-13577
ニューヨークの地名「5th Avenue」に「INTERNATIONAL」を付しても商標法3条1項6号(原査定では3号)に該当するとされた事例H9-19423
「明石・鳴門のかけ橋にあすの日本の夢がある」の文字は標語と認識するに止まり、自他商品を識別する標識とは理解しないものであるとされた事例S42-7394
商標「FEATHER」を含むとしても、その文字自体の独立性は極めて希薄であり、商標の実体的構成要素である自他商品の識別標識としての特別顕著の要件を満たさないとされた事例S41-7051
優良品であることを誇示する単なる宣伝文の英語として記述したものにすぎない文字と解するに止まり自他商品識別機能を果たさないとされた事例S40-7720
「赤地タータンチェック」または「赤地黄格子模様」を直感させる商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないとされた事例S37-3298
判決例
「習う楽しさ教える喜び」の文字は、「習う側が楽しく習うことができ、教える側が喜びをもって教えることができる。」という、教育に関して提供される役務の宣伝文句ないしキャッチフレーズとして認識、理解され、自他役務の識別標識とは認識できないとされた事例東京高平成13年(行ケ)第45号
規則的な地模様からなるトランプの柄は、自他商品識別機能を果たすことができるような特徴的な部分を見いだすことはできないとされた事例東京高平成11年(行ケ)第156号
図案化した草花の図柄を帯状に連続反復させ円形状に表してなる商標は、装飾的な輪郭として普通に使用されるものであり、自他商品識別の機能を果たすものと認めることはできないとされた事例東京高昭和53年(行ケ)第112号
拒絶査定不服審判によって「グラム」は商標法3条1項6号に該当するとされた審決に対する取消を求め、「特別顕著性なしとはいえない」として取消が認められた事例東京高昭和39年(行ケ)第74号