4.商標登録出願をすると、登録できるかどうか特許庁での審査がされます
商標登録の審査
商標権は独占的な強い権利ですから、あらゆる商標に権利を与えてしまうことはできません。そこで商標登録出願は特許庁の審査官により審査され、審査を通ったものだけが登録となり、登録料を納付して初めて商標権が発生します。
実体審査(特許庁審査官による審査)
方式審査の後、出願された商標が登録すべきであるかどうか、様々な登録要件の審査を特許庁の審査官が行います。
登録要件(拒絶理由)
商品やサービスの普通名称や、商品の産地、品質、役務の質、用途などを普通にあらわした商標や、きわめて簡単な商標、ありふれた商標などは、登録されません。 これらは、誰もが使用できることが必要であり、誰かが独占してしまっては困ることになるためです。
たとえば、電子計算機について「小型コンピュータ」、りんごについて「リンゴ」「アップル」、宿泊施設の提供について「観光ホテル」、広告について「テレビ広告」「安い広告費用」などです。
しかし電子計算機について「アップル」は普通名称などではありません。
普通名称の例:
商品またはサービスの単なる普通名称である場合。
「時計」(指定商品:時計)
「空輸」(指定役務:航空機による輸送)
慣用商標の例:
商品またはサービスについて慣用的に用いられる名称である場合。
「正宗」(指定商品:清酒)
「羽二重餅」(指定商品:餅菓子)
「オランダ船」の図形(指定商品:カステラ)
「かきやま」(指定商品:あられ)
「観光ホテル」(指定役務:宿泊施設の提供)
「プレイガイド」(指定役務:興行場の座席の手配)
品質表示等の記述的商標の例:
指定商品についての単なる品質表示(産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格、生産・使用の方法、生産・使用の時期等)である場合。
「マキトール」(指定商品:ロールブラインド・ロールスクリーン)商品の品質
「Veneto」(指定商品:時計)商品の品質、産地
「那須山麓」(指定商品:乳製品,食用油脂)商品の産地
「PROVENCE」(指定商品:調味料、香辛料)商品の産地、販売地
「フラワーセラピー」(指定商品:フラワーセラピーに供する花)商品の品質、用途
指定役務についての単なる質表示(提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格、提供の方法、提供の時期等)である場合。
「再開発コーディネーター」(指定役務:知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催)役務の質(内容)
その他、商標としての識別力がない場合
ありふれた氏、ありふれた名称を普通に表示しただけの商標である場合。
きわめて簡単な商標、きわめてありふれた商標である場合。
その他、需要者が商品または役務(サービス)の出所の識別ができない商標である場合。
これらは、自己の商品・役務と、他人の商品・役務との識別ができないものであるため、周知著名にならない限り、登録されません。
商標としての使用をしない場合
商品または役務について使用をしないことが明らかであるときは、登録されません。
その他の拒絶理由
国の紋章や、一定の国際機関の標章と同一・類似の商標、許可なく他人の名称・周知の氏名を含む商標などは登録されません。
さらに、他人の周知商標と同一又は類似であったり、他人の商品等と混同を生ずるおそれがあったり、商品の品質誤認を生ずるおそれがある商標なども、登録されません。
たとえば、「SONYチョコレート」「スターバックスホテル」などは駄目でしょう。
同じ商標や、類似する商標が、同一・類似の指定商品や指定役務(サービス)について先に登録されていないことなども必要です。
類似商標の例:
商標登録したい商標と、同一・または類似の商標が、同一・または類似の指定商品あるいは指定役務について登録されている場合。
※商標の類似判断には専門的な検討を要します。
※商標の一部分について該当する場合でも、これによって登録できない場合があります。
※さらに、文字は類似していなくても、音声(称呼)上、意味(観念)上、商標の構成や図形が類似している場合に、 類似商標とされる場合があります。
その他、公の秩序や善良の風俗を害するおそれがある商標である場合。
他人の肖像、周知の氏名、名称、著名な雅号・芸名・筆名等を含む商標で、承諾を得ていない場合。
需要者の間に広く認識されている他人の未登録商標と同一または類似の商標であって、同一・類似の商品・役務について使用をする商標である場合。
他人の業務に係る商品または役務と混同を生ずるおそれがある商標である場合。
商品の品質または役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標である場合。
他人の業務に係る商品または役務を表示するものとして、日本や外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一・類似の商標であって、不正の目的で使用をする商標である場合。
その他の拒絶理由に該当する場合。
詳細は、 商標の拒絶理由(登録できないもの)一覧をご覧ください。
拒絶理由を想定した商標を採用する。
商標は出願後には変更できない。
商標登録出願の審査基準(特許庁)
商標登録の要件は、商標法において記載されており、一般的登録要件(第3条)、具体的登録要件(第4条)その他の各条文において規定されています。
各条文の趣旨、背景等については、工業所有権法(産業財産権法)逐条解説などに詳述されています。
法律の運用にあたっては、行政庁にある程度の裁量がまかされており、法律には書ききれない詳細な基準、運用指針などは、条文解釈等を通達することによって運用されることが多くみられます。
しかし、商標法のように取引の実態の変化に伴って運用解釈も変わることがある、しかも年間10万件を超える出願のある実態を見れば、統一的な運用はきわめて難しく、そのため特許庁により、商標審査基準がおおよその指針として公表されています。
商標審査基準は制定、公表以来、逐次改訂されてきましたが、特許庁の審査官による判断の統一、審査の適正および促進を期するだけでなく、一般に公表することによって出願の審査の予測可能性を高め、商標登録出願の質の向上にも資するものとなっています。
また、拒絶理由通知が来た際の対応などにも資するものとなりますが、こうした場合の対応は弁理士に相談されるのがよいでしょう。
拒絶理由通知
拒絶すべき理由があるときは、特許庁の審査官は出願人(当事務所弁理士が代理人となるときは当事務所宛て)に拒絶理由通知を送付します。
これに対しては、意見書、手続補正書を提出することができます。
意見書
意見書は、拒絶理由通知に対し、特許庁審査官への反論や説明をするものです。
手続補正書は、出願書類の内容を変更するもので、たとえば指定商品・指定役務を訂正・削除等すれば、拒絶理由が解消するときなどに、特許庁長官宛に提出します。
また、査定が確定するまでの間、通知がない時でも手続補正書を提出することができ、これを自発補正といっています。
審査の期間については、審査の状況により一概にはいえませんが、5か月~10か月前後はかかることが普通です。
手続補正書の注意点
商標の場合には、いったん補正により指定商品・指定役務を削除するなどして範囲を狭めた後に、また広げることは認められません。
範囲を広げるなどした場合には、要旨変更として補正が却下され、補正されなかったのと同じ状態になります。
さらに、【補正対象項目名】の欄を「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分」とした場合には、【補正の内容】に記載される指定商品・指定役務だけが残ることになります。
一例として、出願のときに第35類と第42類を指定していて、両方必要であるのに、第42類だけに訂正の必要があった場合でも、【補正の内容】に第42類だけを記載してしまうと、その瞬間に第35類が消えて無くなってしまいます。
これを避けるためには、【補正の内容】には訂正がない第35類と、訂正後の第42類の両方を記載するか、または【補正対象項目名】を第42類と記載します。
登録査定・拒絶査定
拒絶理由がないとき、あるいは拒絶理由通知に対し、意見書・手続補正書等の書類を提出し、拒絶理由が解消した場合には、登録査定となります。
拒絶理由が解消しなかった場合に、拒絶査定となります。これに対する不服申立の手続もあります。
登録査定の場合には原則として10年分の登録料を納付すれば、登録になります。
なお、5年ごとに2回に分けて分割納付することもできますが、納付する登録料は割増になります。
登録料を支払えば、登録となり、後日登録番号が付き、商標登録証が送られてきます。
商標登録証
商標登録証は、商標権の設定の登録があったとき、特許庁長官によって交付されるものです。
賞状のようなA4サイズのもので、登録料の納付後しばらくして送付されてきます。
商標権は、特許庁の商標原簿という、権利の存在やその内容を公的に証明する原簿への記載によって成立するものであり、商標登録証そのものが権利を証明するわけではなく、たとえば商標登録証を譲渡しても商標権を譲渡したことにはなりません。
商標登録証を紛失しても、権利がなくなるわけではありません。紛失等の場合には、再交付の手続があります。
また、著名商標の禁止的効力(禁止権)を拡大する防護標章登録について、権利の設定の登録があったときは、同様に防護標章登録証が交付されます。
商標審査をわかりやすく簡単に、動画で解説
商標原簿
商標原簿は、商標権の存在とその内容を公的に証明し公示するために、特許庁に備えられた記録です。
商標原簿は、第三者が閲覧請求、証明請求をすることができます。
商標原簿に記載される内容は、下記の通りです。
1 商標権の設定、存続期間の更新、分割、移転、変更、消滅、回復又は処分の制限
2 防護標章登録に基づく権利の設定、存続期間の更新、移転又は消滅
3 専用使用権又は通常使用権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限
4 商標権、専用使用権又は通常使用権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅又は処分の制限
商標原簿は、その全部または一部を磁気テープあるいはこれに準ずる方法によって記録しておくことができます。
その他の手続
商標登録出願後に、出願人の住所が変わったときの住所変更届、名称が変わったときの名称変更届、譲渡などにより出願人が変更になった場合の出願人名義変更届、その他の各種の手続を行います。
商標登録された後では、これらはそれぞれ、商標権表示変更登録申請書、商標権移転登録申請書などによる手続きとなります。
表示変更登録申請
商標権が登録された後に、権利者の氏名、名称が変更になった場合には、登録名義人の表示変更登録申請を行います。
たとえば社名変更で権利者の会社名が変わった場合などに届け出る手続きで、必要な書式や添付書面が整っていれば、表示変更が認められます。
表示更生登録申請
似た手続きに、誤記などによる表示の間違いを訂正するための、表示更生登録申請という手続きもあります。
移転登録申請
譲渡などの特定承継や、相続、企業の合併などの一般承継等を原因として、商標権の移転を登録するのが、移転登録申請です。
移転の原因によって添付書類などがそれぞれ違うほか、間違わないように神経を使う手続きです。
一部移転登録申請や、商標権の分割移転登録申請などもあります。
専用使用権・通常使用権設定登録申請
商標権のライセンスを特許庁に登録する場合には、専用使用権または通常使用権の設定登録申請を行います。
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商標の審査Q&A
指定商品・役務が類似するかどうか、どう判断されますか?
商標の類似とは? 類似判断はどのような方法でされますか?
商標の審査は誰が行うのですか?
先に他人に出願されてしまったら、出願しても無駄ですか?