防護標章登録
防護標章登録とは、需要者に広く認識された著名商標については、著名商標と同一の標章を、登録商標とは類似しない商品・役務について登録することにより、他人の使用を禁止できる制度です。
商標登録が、使用することを前提として、類似商品・役務の範囲にまで他人の使用を禁止することができるのに対し、著名となった商標については、非類似商品・役務にまで禁止権を拡大できるものといえます。

商標法第64条では、商標権者は、商品または役務に係る登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている場合において、その登録商標の指定商品・指定役務と類似しない商品・役務について他人が登録商標の使用をすれば、混同を生ずるおそれがあるときは、そのおそれがある商品または役務について、登録商標と同一の標章について、防護標章登録を受けることができるとしています。
「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 」〔第20版〕では、商標法第64条について次のように解説しています。
すなわち、登録商標が使用によって著名となり、その登録商標を他人が指定商品若しくは指定役務又はこれに類似する商品若しくは役務以外の商品若しくは役務、つまり非類似商品又は非類似役務に使用した場合に商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるときには、その混同を生ずるおそれがある商品又は役務について、登録商標と同一の標章についての防護標章登録を受けられることとし、他人のその標章の使用を禁止排除することができることとして業務上の信用の保護を図ることとしたのである。そのような部分については本来的に他人の商標登録出願は商品又は役務の混同を生ずるおそれがあるものとして四条一項一五号で拒絶になるので、防護標章登録を受けなくとも他人が商標登録を受けることはできないはずであるが、念のためにあらかじめ混同を生ずる範囲を明確にしておいて、他人が商標登録を受ける危険を防止し、かつ、未登録商標であっても他人のその部分の使用を禁止し、もし、使用した場合には商標権侵害とみなして迅速な救済を保障しようとするものである。このような意味で防護標章登録の効力は、商標権のうちの禁止権の効力と同様で、二五条の規定による指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をする権利を防衛するという目的でも共通しているといえるのであり、いわば、非類似商品又は非類似役務についての禁止権ともいえるのである。ただ、禁止権が画一的であるのに対し、防護標章登録は個別的に実状を審査して設定される点が異なるのである。
防護標章登録の手続
防護標章登録を受けるときには、商標登録願に「商標法第65条第1項の規定による防護標章登録出願」と記載し、商標の登録番号を記載します。
特許庁長官は、審査官に防護標章登録出願を審査させなければなりません(商標法第14条を準用)。
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、商標登録出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければなりません(商標法第15条の2を準用)。
商標登録出願人は、その商標登録出願を防護標章登録出願に変更することができます(商標法第65条)。
。ただし出願の変更は、商標登録出願について査定または審決が確定した後はできません。
「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 」〔第20版〕では、商標法第65条について次のように解説しています。
〈商標登録と防護標章登録との関係〉本条は商標登録出願と防護標章登録出願との間の相互の出願変更の問題であるが、このほかに商標登録と防護標章登録との関係の問題がある。
すなわち、防護標章登録を受けた者(したがって、その登録防護標章に係る商標権者)がその登録防護標章について重ねて同一の指定商品又は指定役務について商標登録を受けることができるか、あるいはこの逆に二つ独立の商標権を有する商標権者がそのうちの一つについて、他方の商標権を防護するために重ねて防護標章登録を受けることができるかどうかである。
前者は、これから防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について新たに業務を開始するときなどは、商標登録を受けておけば他の権利との抵触によってその使用ができなくなることはないから実益があり、後者はその商標登録に係る指定商品又は指定役務についての業務を廃止したとき、後に残る信用を他人に利用されることを防ぐことができるなどの実益が考えられる。これらの問題のうち、前者は、四条一項一二号には「他人の」という限定がついている関係上自己については適用がないから当然に登録を受けることができるし、後者も、これを禁止する規定がないの だから当然に重ねて登録を受けられるということとなろう。
防護標章登録の更新登録
防護標章登録に基づく権利の存続期間は、設定の登録の日から10年間で、更新登録をすることが可能です(商標法第65条の2)。
防護標章登録の更新は、通常の商標についての更新登録「申請」とは異なり、商標法第64条の要件を満たすかの否かの審査が行われる更新登録「出願」です。
「申請」とは形式等が整っていれば認められる行政手続であるのに対し、「出願」は審査により可否が判断される手続です。
防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録の出願をする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければなりません(商標法第65条の3)。
一 出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 防護標章登録の登録番号
三 前二号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める事項
更新登録の出願は、防護標章登録に基づく権利の存続期間の満了前6月から満了の日までの間にしなければなりません。
ただし上記期間内に更新登録の出願をすることができなかったことについて正当な理由がある場合には、その理由がなくなった日から2か月以内に更新登録の出願をすることができます。
正当な理由が必要であり、6か月の期間が認められない点が、通常の登録商標の場合とは異なります。
審査官は、防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録の出願が次の各号の一に該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければなりません(商標法第65条の4)。
一 その出願に係る登録防護標章が第六十四条の規定により防護標章登録を受けることができるものでなくなったとき。
二 その出願をした者が当該防護標章登録に基づく権利を有する者でないとき。
審査官は、防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録の出願について拒絶の理由を発見しないときは、更新登録をすべき旨の査定をしなければなりません。
登録査定の後に、登録料の納付をすれば、防護標章登録に基づく権利の存続期間を更新した旨の登録がされ、商標公報に掲載されます。
防護標章登録に関しては、利害関係人も登録料の納付をすることが可能です。
防護標章登録に基づく権利の附随性
防護標章登録に基づく権利は、権利の前提となる商標権を分割したときは、消滅します(商標法第66条)。
防護標章登録に基づく権利は、権利の前提となる商標権を移転したときは、その商標権に従って移転し、その商標権が消滅したときは、消滅します。
商標審査基準抜粋
第64条(防護標章登録の要件) (PDF)
1.「需要者の間に広く認識されている」について
(1) 「需要者の間に広く認識されている」とは、自己(原登録商標権者)の出所表示として、その商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されているものをいう。
(2) 「需要者の間に広く認識されている」かは、以下の(ア)~(エ)を考慮し、総合的に判断する。
(ア) 防護標章登録出願に係る登録商標(以下「原登録商標」という。)の使用開始時期、使用期間、使用地域、使用商品又は使用役務の範囲等の使用状況に関する事実
(イ) 原登録商標の広告、宣伝等の程度又は普及度
(ウ) 原登録商標権者の企業規模、営業関係(生産又は販売状況等)、企業の取扱い品目等について商品又は役務との関連性
(エ) 原登録商標が著名であることが、審決又は判決において認定されているなど、特許庁において顕著な事実であること
2.防護標章登録出願の標章は、原登録商標と同一の標章(縮尺のみ異なるものを含む。)でなくてはならない。
3.原登録商標と使用商標の同一性の判断について
同一性の判断にあたっては、この基準第2(第3条第2項)の1.(1)を準用する。
4.商品又は役務の出所の「混同を生ずるおそれがあるとき」について
(1) 原登録商標権者の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という。)であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合のみならず、原登録商標権者と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合をもいう。
(2) 考慮事由について
「混同を生ずるおそれがあるとき」に該当するか否かは、例えば、次のような事実を総合勘案して判断する。
① 原登録商標の周知度
② 原登録商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
③ 原登録商標がハウスマークであるか
④ 企業における多角経営の可能性
⑤ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
⑥ 商品等の需要者の共通性その他取引の実情
なお、①の周知度の判断に当たっては、この基準第2(第3条第2項)の2.(2)及び(3)を準用する。
5.防護標章登録を受ける商品・役務の品質等の誤認のおそれについて
商品又は役務の普通名称等を含む商標を、その商品又は役務以外の商品又は役務について防護標章登録出願をした場合であっても、商品の品質又は役務の質の誤認を生じるかは考慮せず、本条の要件を具備している限り、防護標章登録を認めるものとする。
商標審査便覧
防護標章登録出願及び防護標章更新登録出願の審査について (PDF)
1.防護標章登録出願の審査については、以下のとおりとする。
(1)防護標章登録出願の審査に当たっては、不正競争の防止に重点を置くものとし、特に著名な商標については防護標章の登録をする商品又は役務の範囲を広く認めるものとする。
(2)法解釈として、商第64条と商第4条第1項第15号との混同範囲は同一と考え、防護標章の登録を認める商品又は役務の範囲は当該登録商標が同号によって保護される範囲を超えないものとする。
(3)商第4条第1項第15号に関する考え方及び運用については、経済の実状に相応し、弾力的に行うこととしているが、防護標章の登録についても同様に考えるものとする。
なお、いわゆる「著名商標」で十分に適格性のあるものは混同の幅を最大限に認め得ることとする(混同の蓋然性については、需要者の側に立っての見方を十分に導入する。)。
(4)以上の観点に立って審査方針を次の如く定める。
① 防護標章登録出願の審査に当たり、その基本となる登録商標(以下、「原登録商標」という。)の周知度と当該産業部門との関係を十分に検討する。審査の方法としては、現行45の類別を数個の産業部門(例えば化学、機械、雑貨繊維、食品、産業役務、一般役務)に整理統合し、出願に係る指定商品又は指定役務が原登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一産業部門に属するか否かに区分して、これに周知の程度をかみ合わせて混同の可能性を判断する。
(ア)原登録商標が国民の間に広く認識されている程度には至らないが、当該産業部門の需要者の間に広く認識されている場合においては、その登録商標に係る指定商品又は指定役務が属する産業部門を超えない商品又は役務について防護標章の登録を認め得るものとする。
(イ)原登録商標が国民の間に広く認識されている場合においては、その登録商標に係る指定商品又は指定役務が属する産業部門を超える商品又は役務についても防護標章登録を認め得るものとする。
② 相互に特別に密接な関係を有する商品又は役務間においては前項の規定にかかわらず、同一の産業部門に属するとみなすことができる。
(5)防護標章の登録は、原登録商標と同一の商標について行うものであり、 かつ、その前提として原登録商標が広く認識されていることが必要である。
この場合、出願に係る防護標章、原登録商標及びその周知商標の三つが同一であるときもあろうが、特に後の二者の関係については時の流れその他の事由から現実に今日使用され、その結果今日の世人に認識されている標章の態様が必ずしもその原登録商標と同一でない場合もしばしば見受けられる。このような点を含めて三者の関係につき以下のように考える。
①登録しようとする防護標章は、原登録商標と同一のものでなければならない(原登録商標と同一でないものは登録し得ない。)。
②原登録商標が現実に認識されている周知商標であるか否かの関係についての判断は、商標審査基準第14 第64条(防護標章登録の要件)3.で準用する商標審査基準第2 第3条第2項(使用による識別性)1.(1)のとおりとする。

