代理人による不正登録の取消審判
所定の外国の商標に関する権利(商標権に相当する権利)を有する者の商標またはこれに類似する商標と、同一・類似の指定商品・指定役務について商標登録がされている場合において、その商標登録出願が、正当な理由なく、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人・代表者・1年以内に代理人・代表者であった者によって出願されたものであるときは、本来その商標に関する権利を有する者は、その商標登録を取り消す審判を請求することができます(商標法第53条の2)。
なお、所定の外国には、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国、商標法条約の締約国が含まれます。
上記審判は、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、請求することができません。
「本条は、パリ条約六条の七の規定(リスボン条約で新設)を実施するため、昭和四〇年の一部改正で新設されたものであり、他の同盟国で商標に関する権利を有する者の保護を強化することを目的とするものである。すなわち、他の同盟国における商標に関する権利を有する者の承認なしに、その代理人・代表者が我が国に当該商標と同一・類似範囲にある商標について出願をした場合であって、それが登録されたときは、商標に関する権利を有する者がその登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨を定めたものである。なお、平成三年の一部改正により、本条は、役務に係る商標登録にも適用があることとした。
また、平成六年の一部改正において、本条についてもTRIPS協定二条1の規定に従い、世界貿易機関の加盟国において商標に関する権利を有する者にも審判請求を認める改正を行った。
さらに、平成八年の一部改正においては、商標法条約一五条の規定に従い、商標法条約の締約国において商標に関する権利を有する者にも審判請求を認める改正を行った。」(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕)
「1〈商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る)〉これは、同盟国、加盟国及び締約国の商標法による商標権を指すものである。「商標権」といってもよいのであるが、我が国の商標法上『商標権』というと『日本商標法による商標権』の意になるので、混同を避けるため『商標に関する権利』と表現したのである。ただ、商標に関する権利というと商標に関する質権等まで含むように解されるおそれもあるので、我が国の商標権に相当する権利に限ることを明確にするため、『商標権に相当する権利に限る』としたものである。
2〈代理人・代表者〉『代表者』は、法人である商標所有者の代表者、『代理人』は、自然人であると法人であるとを問わず商標所有者からなんらかの代理権を授与されたものを指す。通常は、当該商標に係る商品又は役務の取引について、代理権を有する者が問題となろうが、必ずしもこれに限らず、それ以外の事項についての代理権を有する者も含まれる。」(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕)