輸入差止申立手続
権利の侵害は、国内だけに限ったことではありません。
むしろ、グローバル化が進展し、製造業の海外移転が進んだ今日では、権利の侵害となる物品が輸入され国内に流通するルートは通常みられることです。
この侵害を止めるには、海外の製造拠点に対し直接の権利行使をする方法もありますが、調査の困難さや外国弁護士費用などの問題もあり、容易ではありません。
国内では、輸入物品を税関において差し止める手続きがあります。
弁理士が行うことができる関税定率法に基づく税関での手続き(水際業務)は、侵害物品の認定手続における権利者側の代理です。弁理士は、特許権者、商標権者などの権利者側の代理を行います。
輸入者側の輸入手続代理は通関業法に基づく通関士並びに弁護士が行います。
弁理士が行う手続きには、侵害物品の認定申立と、認定手続の中での権利者の代理、税関長の処分に不服がある場合の行政不服審査請求があります。
関税定率法21条1項5号では、特許権・実用新案権・意匠権・商標権、著作権、著作隣接権又は回路配置利用権を侵害する物品(侵害品)が輸入禁制品として規定されています。
税関長は、所定の手続(4項)を経て、このような物品を没収廃棄したり、積み戻しを命じることができます。
所定の手続とは、その貨物(「疑義貨物」)が侵害品に該当するかどうかを認定する手続のことで、具体的には下記の手続が行われます。
認定手続
税関長自らの判断もしくは情報提供に基づいて職権で疑義貨物についての認定手続が開始されます。
1 税関長が認定手続の開始を権利者、輸入者双方に通知します。
2 税関長が権利者に、貨物が侵害品にあたるという証拠提出、意見陳述の機会を与えます。
3 税関長が輸入者に、貨物が特許権等の侵害品にあたらないという証拠提出、意見陳述の機会を与えます。
4 税関長が権利者に、輸入者から提出された証拠等について、意見を述べる機会を与えます。
5 認定の結果と認定の理由が両当事者に通知されます。
6 認定結果の通知前に、疑義貨物の廃棄等の理由で貨物が輸入されないこととなった場合、その旨を両当事者に通知して認定手続をとりやめます。
自己の商標権、著作権、著作隣接権又は回路配置利用権を侵害する貨物が輸入されようとしていることを知った者(権利者)は、輸入を差し止めるため、税関長に、その物品について上記の認定手続をとるように申し立てることができます。
輸入差止申立て
1 所定の事項を記載した申立書と疎明証拠を税関長に提出します。
2 税関長から申立受理(又は不受理)の通知が送付されます。
3 税関長が申立を受理し、上記の認定手続をとった場合、税関長は、申請に基づき権利者及び輸入者に申立対象となった貨物の点検の機会を与えます。
4 権利者の代理人として点検の申請書を指定期限内に提出し,点検を実施します。
5 認定手続開始後は、認定手続と同様に行われます。
6 申立受理後、税関長の判断で申立人(権利者)が供託金を納付します。
財務大臣に対する手続
上記の認定手続または輸入差止申立手続に対する税関長の処分に不服がある場合には、行政不服審査法に基づき、財務大臣に審査請求を行うことが可能です。
この場合に、弁理士は、権利者の代理人として審査請求手続の代理をすることができます。