商品・役務の品質表示等の記述的商標の例は、具体的にどのようなものですか?
商標法第3条第1項第3号により登録が認められない品質表示等(記述的商標)は、誰もが使用する記述的表示であり、一般に普通に使用される説明にすぎず、具体例としては下記のような商標があげられます
商品の品質表示等、商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む)、商品の生産・使用の方法・時期、その他の特徴、数量、価格
役務(サービス)の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法・時期、その他の特徴、数量、価格
これらを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標が、品質表示等(記述的商標)にあたります。
商品の「産地」、「販売地」、役務の「提供の場所」の例
商標が、国内外の地理的名称(国家、旧国家、首都、地方、都道府県・市町村・特別区等の行政区画)、州、州都、郡、省、省都、旧国、旧地域、繁華街、観光地(所在地・周辺地域を含む。)、湖沼、山岳、河川、公園等を表す名称や、それらを表す地図からなる場合
たとえば「東京」、「トーキョー」、「JAPAN」、「九州」、「ブルゴーニュ」、「江戸」、「銀座」、「富士山」などがあげられます。
取引者や需要者が、その地理的名称の表示する土地において、商品が生産、販売され、あるいは役務が提供されているであろうと一般に認識するときは、商品の産地や販売地、役務の提供の場所に該当するものとされます。
商品の「品質」、役務の「質」の例
たとえば「一級」、「一番」、「スーパー」、「有機栽培」、「よくきく」、「定期購入」、飲食物の提供について「実演」などがあげられます。
「飲食物の提供」に係る役務の質の例
商標が、国家名や地理的名称で、特定の料理を表示するものと認められるときは、その役務の「質」を表示するものとされます。
たとえば「フランス料理」、「イタリア料理」、「北京料理」などがあげられます。
「書籍」、「電子出版物」、映像が記録された「フィルム」、「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」等の商品の品質の例
商標が、著作物の分類・種別など、一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合には、商品の「品質」を表示するものとされます。
たとえば、商品「書籍」について「商標法」、「小説集」、あるいは商品「録音済みのコンパクトディスク」について「クラシック音楽」、「JPOP」などがあげられます。
商品「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」について、商標が人名やグループ名などであり、需要者に歌手名や音楽グループ名として広く認識されている場合には「品質」を表示するものとされます。
「放送番組の制作」、「放送番組の配給」の役務の質の例
商標が、提供する役務(サービス)である放送番組の分類・種別等の、一定の内容を明らかに認識させるものと認められるときは、役務の「質」を表示するものとされます。
たとえば、役務「放送番組の制作」について、商標「ニュース」、「音楽番組」、「バラエティ」などがあげられます。
「映写フィルムの貸与」、「録画済み磁気テープの貸与」、「録音済み磁気テープの貸与」、「録音済みコンパクトディスクの貸与」、「レコードの貸与」等の役務の質の例
商標が、その役務の提供を受ける者の利用に供する物(映写フィルム、録画済みの磁気テープ、録音済みの磁気テープ、録音済みのコンパクトディスク、レコード等)の分類・種別等の、一定の内容を明らかに認識させるものと認められるときは、役務の「質」を表示するものとされます。
たとえば、役務「録音済みコンパクトディスクの貸与」について、「日本民謡集」、あるいは役務「映写フィルムの貸与」について、「サスペンス」などがあげられます。
商品「書籍」、役務「放送番組の制作」等についての題号を示す商標
商標が、需要者に書籍の題号や、放送番組名などのタイトルとして認識され、それらが特定の内容を認識させるものと認められる場合には、商品の「品質」または役務の「質」を表示するものとされます。
たとえば、「商標入門」、「英語講座」などがあげられます。
なお、雑誌・定期刊行物については例外的に、質、内容を示す題号であっても登録できることがあります。
商品・役務の効能、用途、数量、価格の例
「美容によい」、「医療用」、「1ダース」、「100円均一」などがあげられます。
商品の原材料、生産・使用の方法・時期
「アプリコット」、「牛肉入り」、「水耕栽培」、「家庭用」、「1日3錠」などがあげられます。
商品の形状(包装の形状を含む)の例
たとえば、「丸い」などがあげられます。
商品「洋酒」について、「普通の機能を実現するために不可欠な瓶の形状」である立体商標なども該当します。
役務の「提供の用に供する物」の例
「提供の用に供する物」とは、サービス提供にあたり使用・譲渡・貸与される物のことをいいます。
たとえば、人の輸送について「タクシー」、飲食物の提供について「七輪」などがあげられます。
役務「人の輸送」について、「普通の機能を実現するために不可欠なタクシー車両の形状」である立体商標なども該当します。
建築や不動産などの建物に関する役務について、「特定建物の形状」である立体商標等も該当します。
役務の提供の方法、時期の例
「敷金礼金0」、「休日割引」などがあげられます。
商品・役務のその他の特徴の例
色彩のみからなる商標について、商品等が通常有する色彩は、その他の特徴として判断されます。
たとえば、指定商品がタイヤの場合の「黒の色彩」などがあげられます。
音商標について、商品・役務が発する音はその他の特徴として判断されます。
たとえば、指定役務が焼き肉の提供の場合の「肉を焼く音」などがあげられます。
品質表示等(記述的商標)を「普通に用いられる方法で表示する」とは?
商品・役務の取引の実情を考慮し、その標章の表示の書体や全体の構成等が、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なものである場合には、「普通に用いられる方法で表示する」には該当しないと判断されます。
一般的に使用されている書体及び構成で表示するものは、 「普通に用いられる方法で表示する」にあたります。
一般的に使用する範囲にとどまらない、特殊なレタリングを施して表示するロゴや、特殊な構成で表示するものは、 「普通に用いられる方法で表示する」には当たらないとされ、登録できる場合があります。
品質表示等(記述的商標)「のみからなる」とは?
商品又は役務の特徴等を表示する2以上の標章からなる商標については、原則として品質表示等(記述的商標)に該当すると判断されます。
品質表示等(記述的商標)を、独創的な商標と組み合わせて構成した商標は、「普通に用いられる方法で表示する」には当たらないとされ、登録できる場合があります。
公序良俗違反の商標にはどのようなものがありますか?
社会公共の利益・一般的道徳観念に反するような商標や、法律で使用等が禁止されている商標、特定の国や国民を侮辱する商標、国際信義に反する商標、商標出願の経緯に社会的相当性を欠く商標など、商標法の予定する秩序に反するものが相当します
公序良俗を害するおそれがある商標(商標法第4条第1項第7号)は、登録が認められません。
商標法第4条第1項第7号では、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標は、登録されないと規定されています。
一例として、下記のものが該当します。
商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合
「差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形」に該当するか否かは、特にその文字又は図形に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断されます。
時代により公序良俗や道徳観念が変遷する場合があるためです。
「OldSmuggler」の文字は、密輸者(密輸商人を含む。)、酒類密造者の意味を有する「Smuggler」の文字を含むものであり、自他商品識別の標識としては不穏当であるとされました(昭和30年抗告審判第15号)。
「ごまの蠅」の文字は、懐中のスリまたは詐欺等を意味する用語であり、公の秩序、善良の風俗を害するおそれがあるとされました(昭和29年抗告審判第825号)。
商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合
「白書」の文字は、中央省庁が編集する政府刊行物の名称に用いられるところ、本願商標「企業市民白書」の文字をたとえば印刷物に使用した場合、これに接する取引者、需要者は政府発行の刊行物であるかのように誤認するおそれがあるとされました(東京高平成11年(行ケ)第394号)。
他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標
「特許管理士会」の漢字を横書きし、第26類「書籍、雑誌、その他本類に属する商品」を指定商品とする商標について、公序良俗違反であり無効とされました(東京高平成10年(行ケ)第299号)。
米国の大統領府を意味する「ホワイトハウス」は、公序良俗に反する商標であるとされました(審判昭60-2315)。
「ポパイ」の特徴を顕著に表した図形を配した商標は、一見して漫画の「ポパイ」そのものを直ちに認識させ、他人の著名な標章の盗用と推認し、公序良俗違反であり無効とされました(審判昭S59-19123)。
商標出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない商標
「昭和大仏」の文字は、宗教法人青龍寺の境内に建立された大日如来座像を示すものであり、無断で出願をした行為は、社会の一般道徳観念に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるとされました(審判昭60-18883)。
町内の各業者に対し使用が奨励されていることを十分承知していながら、「母衣旗」(ほろはた)の名称による利益の独占を図る意図で出願した商標は、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗いはであるとされました(東京高平成10年(行ケ)第18号)。
商品・役務の慣用商標とは何ですか?
普通名称とは、その商品やサービスの業界の取引者が、その商品または役務について慣用的に使用されるになっている商標です
商標の審査では、たとえば、同種類の商品又は役務について同業者間において普通に使用されるに至った結果、自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを識別することができなくなった商標は、慣用商標とされます。
なお、商標の審査では、普通名称を「普通に用いられる方法で表示する」商標、たとえばごくありふれた書体で表示した商標が、拒絶理由として登録されないこととなります。
普通名称を含んでいても、商標全体として普通名称でない場合には、拒絶理由とはされません。
文字や図形等からなる商標が、慣用商標とされる例
商品「自動車の部品、付属品」について、商標「純正」、「純正部品」
商品「清酒」について、商標「正宗」
商品「カステラ」について、商標「オランダ船の図形」
商品「あられ」について、商標「かきやま」
役務「宿泊施設の提供」について、商標「観光ホテル」
色彩のみからなる商標が、慣用商標とされる例
役務「婚礼の執行」について、商標「赤色及び白色の組合せの色彩」
役務「葬儀の執行」について、商標「黒色及び白色の組合せの色彩」
音商標が、慣用商標とされる例
商品「焼き芋」について、商標「石焼き芋の売り声」
役務「屋台における中華そばの提供」について、商標「夜鳴きそばのチャルメラの音」
慣用商標とされた例
商品:カステラ
慣用商標ではないとされた例
商品・役務の普通名称とは何ですか?
普通名称とは、その商品やサービスの業界の取引者が、その商品または役務の一般的な名称(略称及び俗称等を含む)であると認識するようになっている名称です
商標の審査では、一般の消費者が、商品やサービスの一般的な名称であると考えるような場合であると考えるだけでは、普通名称とはされません。
たとえば、ある商標が相当に有名となり、それが一般人の意識ではその商品の普通の名称だと意識され、通常の小売段階での商品購入にその商品の一般的名称として使われている場合でも、それだけではその商標は普通名称化したとはいえません。
なお、商標の審査では、普通名称を「普通に用いられる方法で表示する」商標、たとえばごくありふれた書体で表示した商標が、拒絶理由として登録されないこととなります。
普通名称を含んでいても、商標全体として普通名称でない場合には、拒絶理由とはされません。
一般的な名称であるために普通名称とされる例
商品「サニーレタス」について、商標「サニーレタス」
商品「さんぴん茶」について、商標「さんぴん茶」
商品「電子計算機」について、商標「コンピュータ」
役務「美容」について、商標「美容」
一般的な名称の略称であるために普通名称とされる例
商品「スマートフォン」について、商標「スマホ」
商品「アルミニウム」について、商標「アルミ」
商品「パーソナルコンピュータ」について、商標「パソコン」
役務「損害保険の引受け」について、商標「損保」
役務「航空機による輸送」について、商標「空輸」
一般的な名称の俗称であるために普通名称とされる例
商品「塩」について、商標「波の花」
一般の消費者が普通の名称と考えたとしても普通名称ではない例
登録第5645018号「セロテープ」
ニチバン株式会社
※一般名称はセロファンテープ
登録第4766203号「ホッチキス」
マックス株式会社
※一般名称はステープラー
登録第4270217号「マジックテープ」
株式会社クラレ
一般名称は面ファスナー