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「エバラ」の文字は、我が国においてありふれて存在する氏姓の一である「江原」(えばら)の氏を表したものとされた事例

【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服平成11-4115
【審決日】
【事案】
本出願に係る商標(以下、「本願商標」という。)は、「エバラ」の片仮名文字を標準文字とし、第19類「陶磁製建築専用材料・れんが及び耐火物,リノリューム製建築専用材料,プラスチック製建築専用材料,合成建築専用材料,アスファルト及びアスファルト製の建築用又は構築用の専用材料,ゴム製の建築用又は構築用の専用材料,しっくい,石灰製の建築用又は構築用の専用材料,石こう製の建築用又は構築用の専用材料,繊維製の落石防止網,セメント及びその製品,建築用ガラス,無機繊維の板及び粉(石綿製のものを除く。),鉱さい,石製液体貯蔵槽,石製工業用水槽,石製家庭用水槽,ビッド及びボラード(金属製のものを除く。)」を指定商品として、平成9年7月25日に登録出願されたものである。
【拒絶理由】
原査定は、『本願商標は、例えば、東京都の電話帳などに徴しても多数の者が存し、ありふれた氏と認められる「江原」の氏に通ずる「エバラ」の文字を普通に用いられる方法で表示しているにすぎない。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に該当する。』との理由をもって、本願を拒絶したものである。
【審決における判断】
本願商標は、商標の構成を標準文字による「エバラ」の片仮名文字とすること前記のとおりである。
ところで、「標準文字」とは、平成8年法律第68号による改正商標法(平成9年4月1日施行)により、商標登録出願の際に必要とされる「商標登録を受けようとする商標」の表示または記載に関して新たに設けられた制度(法第5条第3項)である。すなわち、商標登録を受けようとする商標を表示しまたは記載するに際して、登録を求める対象としての商標が文字のみであり、出願人がその文字態様について特に権利要求をしないときは、出願人の「標準文字」(特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体)による旨の意思表示と当該商標登録を受けようとする商標を願書に記載するだけで、その商標の表示態様として公表しまたは登録するというものであって、出願人の手続負担の軽減化及び事務処理の効率化を図ることを主眼に取り入れられたものである。したがって、本願商標は、その構成に関する限り、文字として普通一般に用いられる態様のものというべく、何らの特徴も備えていない。しかして、一般に、「エバラ」の片仮名文字より氏姓の一つである「江原」(えばら)を直ちに想起しあるいはその意味合いを容易に感得し得るものであることは、例えば、株式会社三省堂1995年発行大辞林「えばら」の項及び株式会社岩波書店1998年発行広辞苑「えばら」の項において、いずれの場合もその一番目の意義として「[江原]姓氏の一。・・・」、二番目の意義として「[荏原]東京都品川区西部の一地区。・・・」との用語解説よりして、見易いところといわなければならない。
そして、「江原」なる氏姓は、例えば、日本電信電話株式会社平成9年3月発行「東京都23区個人名全区版(ハローページ)・上巻」によれば、「江原」姓は約450を数えること、また、六藝書房発行・佐久間英著「日本人の姓」によれば、「江原」姓は全国で約2万5千存在し、「日本の多い姓四千傑」中の703番目とする旨解説されていること等の点よりして、たとえ、該氏姓の呼称が「えはら」の場合と「えばら」の場合の両方ある点を否定し得ないとしても、一般に、氏姓が必ずしも当該特定の呼称どおりに正確に呼称されるとは限らず、当該文字(漢字)より生ずる自然的な読み方をもって呼び称する場合が少なくないというのが実情であるから、これら社会事情も併せ考慮するに、依然として、「江原」(えばら)姓と認識し把握される氏姓が相当数に上るであろう事実に変わりはないといえる。
そうすると、「江原」の氏姓は、我が国に広く行き渡って存在する氏の一つであることが認められるものであり、また、日本人の氏姓は、日常これを表現する手段として、特に商取引等に用いる際は片仮名、平仮名、ローマ字等種々の文字で表現することは顕著な事実である。そして、片仮名文字(標準文字)よりなる本願商標が特別な構成を備えたものでないこと前記のとおりである。
してみれば、本願商標に接する取引者、需要者は、これを我が国においてありふれて存在する氏姓の一である「江原」(えばら)の氏を表したものと容易に理解し、何れの「江原」の取扱いに係る商品であるかの識別が困難な結果、これをもって商品の出所の識別標識とは認識し得ないものといわなければならない。
請求人は、その事業活動及び広告宣伝活動の実績よりして本願商標は商標法第3条第1項第4号に該当するものでなく、また、仮に同法条の規定に該当するものとしても、本願商標は同法第3条第2項により登録されるべきである旨述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第23号証を提出している。
しかしながら、以下に述べるとおり、それら書証によっては、本願商標がその指定商品に係る業務を表彰し、又は、その指定商品の出所識別の標識として、あるいは、永年使用による自他商品の識別力を有するものとして、本願商標の指定商品の分野における需要者に認識せられるに至ったものとは認め難く、また、該事実を窺わせるような状況も見出せないから、その主張は採用することができない。
(1)甲第1号証及び甲第23号証は、「EBARA」商標に関する審決例並びに「EBARA」、「エバラ」及び「荏原」に関する商標公告公報又は登録公報と認められるところ、本願商標との関係で特に問題となる「エバラ」商標に関する8例の公告又は登録事例(第1類、第6類、第7類、第10類、第11類、第12類、第16類及び第17類に関するもの)は、いずれも本願商標とはその指定商品の範囲を異にし取引事情も自ずと異なるから、それらをもって直ちに本願商標の登録性を理由づける根拠とするのは必ずしも適切でない。そのほか、「EBARA」又は「エバラ」に関する事例は、商標の構成その他の点よりして本願商標とは事案を異にするから、それらをもって本願商標の登録の可否を判断する基準とすることはできない。
(2)甲第2号証及び甲第18号証は、請求人会社の資本金の推移を示す年次表及び株式市況に関する新聞記事と認められるところ、それら書証によっては、本願商標の具体的な使用状況・使用実績等は全く判断することができないから、本件の審理判断に参酌することはできない。
(3)甲第3号証及び甲第4号証は、請求人会社に係る「EBARA CORPORATION」「Facts & Figuures」「1997」なるタイトルの年次報告書及び1994年度の営業利益、経常利益、売上高、収支状況等に関する企業ランキングを示す業界紙と認められるところ、これらには本願商標の具体的な使用状況・使用実績等に関する記述箇所は全く見出せないから、本件の審理判断に参酌することはできない。
(4)甲第5号証は、請求人会社の企業イメージに関する標章、すなわち、請求人のいうところの「水」「空気」「環境」に関するエンジニアリング企業としてのイメージを表彰する黒塗り矩形内を不規則に連続する三層の扁平な防水形に白抜きした図形及び同下部に表された「EBARA」(モノグラム風の書体)の文字(以下、「請求人商標」という。)に関し、あるいは、その事業内容を記述・紹介する事業案内書と認められるところ、文中に「ポンプのエバラ」とする記述のほか、「エバラ」の項見出しが2、3箇所みられるものの、いずれの場合も、「エバラ」の文字それ自体が単独で商品識別の標識として機能しているものかどうかの点は定かでなく、むしろ、その記載内容よりして、商標として機能し得る表示は請求人商標又は請求人会社に係る商号商標(「株式会社荏原製作所」)にあるとみるのが至当であって、しかも、それら使用に係る商品と本願商標の指定商品とは異種・別個のものというべきであるから、それら表示をもって本願商標の商標としての機能・役割又はその具体的な使用状況等を客観的に示すものとはいい難い。
(5)甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証は、それぞれ請求人会社に係る英文版又は邦文版の会社案内(事業案内)と認められるところ、これら印刷物には本願商標に関する記載箇所は全く見出せないから、本件の審理判断に参酌することはできない。
(6)甲第9号証及び甲第10号証は、請求人会社に係るフランジ、軸受け、高分子凝集剤、脱酸素剤、イオン交換樹脂、水処理剤、薬品注入装置、消泡剤ほか各種化学薬品に関する商品カタログ又は製品パンフレットと認められるところ、これらには「エバラ高分子凝集剤」の如く「エバラ」の文字を表示している例はあるものの、いずれの場合も請求人商標又は商号商標がその統一的かつ共通の標章として使用され機能しているとみるのが至当であって、「エバラ」の文字それ自体が単独で商品識別の標識として機能しているかどうかの点は疑問といわざるを得ない。また、仮にそうであるとしても、本願商標の商標としての機能・役割又はその使用状況等を客観的に示すものとはいい難く、さらに、前記使用に係る商品と本願商標の指定商品とは異種・別個のものというべきであるから、それら印刷物への表示をもって、直ちに本願商標の登録性を理由づける根拠とすることはできない。
(7)甲第11号証ないし甲第17号証は、請求人会社又はその事業に係る各種関連技術及びその取扱いに係る各商品・設備に関する各種業界紙、産業紙、一般紙、一般雑誌等の報道記事又は広告記事と認められるところ、それらに表示された標章は一様に「荏原」、「請求人商標」又は「商号商標」に関するものであって、本願商標又は「エバラ」に関する表示は殆ど見出せない状況であり、かつ、その取扱い記事内容も本願商標に係る指定商品との関係も希薄というべきものであるから、それら表示をもって直ちに本願商標の商標としての機能・役割又はその使用状況等を客観的に示すものとはいい難く、本願商標の登録性を理由づける根拠とすることはできない。
(8)甲第19号証ないし甲第22号証は、請求人会社に係る関連スポーツ施設及び事務処理サービス等を業務とする関連会社に係るパンフレットないしは会社案内とみられるところ、本願商標との関係で特記すべき箇所は見出せないから、それらを本件の審理判断に参酌することはできない。
以上、(1)ないし(8)に認定したとおり、請求人提出の書証からは、本願商標の商標としての機能・役割及びその使用状況等は客観的に明らかでなく、本願商標の登録性を十分理由づけるものとはいえないから、請求人の主張はいずれも採用することができない。
したがって、本願商標が商標法第3条第1項第4号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。

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