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商標の検索調査や出願書類作成にAIは使えるの?

2022年の現状で、検索調査や出願書類作成において使えるとは思えません

AI(人工知能)技術の現状は、業務の一部分において、試験的、実証実験的に使える程度であろうと思います。
商標登録の出願や調査、審査において、AI(人工知能)技術を部分的に導入することは、将来的にはありうることだろうと考えられます。
しかし下記に説明するように、弁理士が行う業務を代替して業務を行うことはできません。
専門知識がない一般の方が操作をして、検索や書類作成などの結果を出すことは、まず不可能でしょう。

特許庁ですら実証実験段階

特許庁は、庁内の事務作業のほか、特許の新規性の引用例の検索作業や、特許出願の分類作業、図形商標の画像認識での引用例の検索作業で、AIを活用するという実証実験を行う計画を公表しており、どの分野での活用に可能性、実効性がありうるのか、何年間かかけて実験を行うこととしています。

しかし当事務所で確認してみた限り、2021年の現段階で、商標の出願書類作成にAIを活用して、短時間で自動的にできるといったようなもので、実効性のある技術が実現されたという事実は確認されておりません。

将来的にも、弁理士の補助ツール

弁理士が、ユーザーの事業計画など頭の中にあるものをヒアリングして、適切な調査や書類作成を行うことは、弁理士が行うべきことです。
AIには不可能であって、仮に実用化にこぎつけたとしても、弁理士など専門家が補助ツールとして使うべきものにすぎません。

クラウドサービスの注意点

なお、当事務所では、クラウドによる商標管理、あるいは特許庁とは別個の独自の商標データベースの構築・検索システムの提供などは考えておらず、今後ともその予定はありません。
データ管理に不備、検索システムに不備があった場合に負うリスクが、一般的な弁理士事務所、小規模事業者には大きすぎるためです。
また日常の業務において、従来のシステムに格別の不備を感じないためです。

AI技術・その他の技術の現段階

類似画像検索
当事務所が確認したところでは、現時点で、商標の業務にAIを活用するものとして、画像商標の検索システムが、一部において技術開発され公開されています。

指定商品・指定役務の類似群コード検索・付与
もう1つ、当事務所が確認したところでは、現時点で、商標の業務にAIを活用するものとして、商品・役務名が既存のデータベースに存在せず、類似群コードを自動付与できない指定商品・指定役務の記載をもとに、適切な類似群コードを見つけて決定する技術が開発され、実験段階にあります。

出願書類作成については?
これらをユーザーの入力補助に利用したとして、商標の出願書類の作成にAIを活用して、素早くできるというようなものが実現したとはいえません。
仮に実用化にこぎつけたとしても、弁理士など専門家が補助ツールとして使うべきものにすぎません。

現状でAIは一種の宣伝文句?

もっと詳しく こんな広告宣伝にはご注意 | ユーザーが自分で入力し商標検索するサイトをお勧めしない理由

●登録したい商標を入力して検索しただけでは、調査不十分です。
●専門知識に乏しいユーザーの入力そのものが間違っている場合には、アウトプットも間違ったものとならざるをえません。
●商標の使用態様の確認、業務内容の確認、今後使用したい計画などは、弁理士がヒアリングしなければ判断できません。
●これらを疎かにすると、安く見えた費用が、結局は意見書など追加費用で高くなってしまい、審査期間も遅延してしまうおそれがあります。

AI活用の商標出願書類の作成が、ユーザーにとっては当面、無意味な理由

将来のことはともかくとして、仮に、AI活用の商標出願書類の作成を実現したとうたうシステムが出現したとしても、それを利用する必要性は、下記の理由から、当面ないものと考えます。

図形検索の精度

・上述した画像検索でさえ、検索結果を見るとまだ実証実験の途上であるともいえ、何よりも、ウィーン図形分類に基づく調査の結果の方が明確であること。

特許庁の審査

・そもそも特許庁の審査において、ウィーン図形分類に基づく調査の結果が利用されること。

・そもそも特許庁の審査において、称呼検索その他の調査においても、特許庁のシステムを用い、商標審査基準、類似商標・役務審査基準を用いて、人間が審査を行っていること。

・特許庁の実証実験を数年間以上経たうえで、一部の業務にAI技術が取り入れられたとしても、人間が行う審査の補助に用いられるものであること。

ユーザーの入力の正誤

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、そもそも最初のユーザーの入力が正しいとは限らないこと。
(たとえば第42類のプログラムの提供と、第9類のダウンロードされるプログラム)
(たとえば第7類の加工機械と、加工機械に組み込まれたプログラムと、加工機械とネットワークを介して通信を行うプログラムと、これらシステムの提供)

適切な調査、検討と記載

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、特許庁の分類表だけではなく、登録事例やニース協定分類にある商品・役務までに対応しなければ、適切な記載ができない可能性があること。

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、従来にない新規な商品・役務の記載がされないであろうこと。

・ユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務をもとに、AIが適切な判断で指定商品・指定役務を選択して書類作成をしたとしても、ユーザーが入力しないが必要であると思われる商品・役務は記載されないこと。
(たとえばユーザーの事業内容や事業計画等を参照して記載に含めること等)

・仮にAIが自動的に出願書類を作成する段階まで進んだとして、それはそのまま出願できる内容とはいえず、人間によるチェック・修正をする前のひな型と考えられること。

・仮にAIが自動的に出願書類を作成する段階まで進んだとして、それをそのまま出願してしまって問題が生じないだけの精度を備えていると、多くの事例から確認できるまで、使用するには誤りのリスクが大きいこと。

代理人の責務

・仮にAIが自動的に出願書類を作成する段階まで進んだとして、弁理士が代理人である場合には、民法の代理や損害賠償の規定が全面的に書き換えられでもしない限り、代理人としての責任で、受任した業務を行わなければならないこと。

ユーザーの利便性

・そもそも、依頼者であるユーザーの、調査、入力などの負担ばかりを増やすものであること。

現段階での結論

もちろん、将来のいつの時点かにおいて、特許法、商標法の改正が俎上に上り、商標登録出願の審査は、特許庁長官が指定する審査官(電子情報処理組織を含む。)が行う、とでもいうことになれば、話はまた違ってくるのかもしれません。

それにしても、このようなツールができたとして、弁理士が事務所内部で使うのが本筋であると私は思います。依頼者に入力などの作業を行わせるツールというアプローチには、違和感があります。


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