「白書」の文字は中央省庁が編集する政府刊行物の名称に用いられるところ、本願商標「企業市民白書」の文字をたとえば印刷物に使用した場合、これに接する取引者、需要者は政府発行の刊行物であるかの如く、誤認するおそれがあり、商標法4条1項7号に該当するとされた事例
【種別】審決取消訴訟の判決
【訴訟番号】東京高平成10年(行ケ)第18号
【事案】
本願商標は、「企業市民白書」の文字を横書きしてなり、第26類「印刷物、その他本類に属する商品」を指定商品とするものである。

【拒絶理由】
商標法第4条第1項第7号
審決における判断
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】平成5年審判第16810号
(1)商標法第4条第1項第7号について
上記法条に該当する公の秩序または善良な風俗を害する商標とは、商標自体が矯激な文字や卑狸な図形など秩序又は風俗を乱すおそれのある文字、図形、記号又はその結合等から構成されている場合及び商標自体はそのようなものでなくても、これをその指定商品に使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反する場合がこれに該当するものと解すべきである(参考:昭和26年(行ナ)29東京高等裁判所昭和27年10月10日判決)。
そうとすれば、仮に原査定における拒絶条文の適用に齟齬があるとしても、後述する理由により商取引の秩序を乱すおそれがある場合には、本条に該当するものと判断するのが相当である。
(2)本願商標の使用が商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるか否かについて
「白書」は、政府が政治、経済、社会の実態や政府の施策の現状を広く国民に知らせることを目的としたもので、白書等の取扱いについては、昭和38年10月24日事務次官会議申し合わせ「政府刊行物(白書類)の取扱いについて」に基づき、その内容・編纂及び公表についての責任体制、手続等が定められ、現在、公務員白書、中小企業白書、観光白書など各省庁から38種類の白書が発行されている。世上いわゆる白書と呼ばれるもののうちには、法律上、特にその作成が義務づけられておらず、各省庁によって、任意に作成されているものと法律上、講じた施策等について法律等に基づいて国会等に対する報告が義務づけられている場合にその報告書を白書として刊行しているものがあり、これらは、深く国民に浸透しているものと判断するのが相当である。
また、本願商標を構成する「企業市民」の文字は、「Corporate Citizenship」の訳で「企業は地域社会の責任ある一員であり、良き市民でなければならないという考え方」を意味する(「現代用語の基礎知識1992版」自由国民社発行)語であり、今日、企業の社会責任の重要性が増している現状よりすれば、「企業市民白書」の文字は、「企業市民」についての現状」報告を国民に周知させることを主眼としてとりまとめられた年次報告として発表される文書(白書)の意を表現したものとして理解されるというを相当とするところである。
そうとすれば、本願商標を例えば「印刷物」に使用した場合、これに接する取引者、需要者は政府発行の刊行物であるかの如く、誤認するおそれがあり、ひいては、商取引の秩序を乱し得るおそれがあるものといわなければならない。
なお、請求人は、「白書」を含む名称の題号が多数図書目録に掲載されており、その本が民間から出版されていると主張しているが、参考文献5(図書目録データベースの検索結果の写し)には、「白書」の名称の付く出版物の大多数は、官公庁の監修、作成したものであり、「白書」の文字出版物を使用した場合、その商品の品質について誤認を生ずるおそれがあることを示しているものであるから、請求人の主張を採用することはできない。
したがって、本願商標を商標法第4条第1項7号に該当するとして拒絶した原査定は、適正なものであるから、これを取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
判決における判断
ところで、「白書」は、中央省庁が編集する政府刊行物の名称に用いられ、現在においては、政治・経済・社会の実態及び政府の施策の現状について、国民に周知させることを目的とする、報告書的な内容をもつものとして一般国民に認識されているものである。他方、政府刊行物以外の刊行物であって、題号中に「白書」の文字を含む刊行物が、相当数存在しているが、それ等は、小説又は漫画等であって、政府刊行物としての「白書」が扱う分野とは関連に乏しい分野と理解され、政府刊行物としての「白書」ではないと容易に認識できるものである。しかるところ、本願商標は、その構成文字の意味合いからして、審決が「本願商標をたとえば『印刷物』に使用した場合、これに接する取引者、需要者は政府発行の刊行物であるかの如く、誤認するおそれがあり」と認定したことに誤りはない。
したがって、本願商標は商標法4条1項7号に該当する。

