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商標登録出願「Web 2.0」の審査 -2006年08月14日

Web2.0の商標登録が認められるかどうかについては、「Web2.0」が、第35類の広告、市場調査等、第41類のセミナー関係等について、それらサービス(役務)の内容、質を示すものかどうか(商標法第3条第1項第3号)、商標登録出願人の識別標識として機能するものかどうか(商標法第3条第1項第6号)といったあたりが問題になります。
「Web2.0」が、日本ではメディアライブジャパン株式会社により出願されており、ここのところ急速に広まったこの言葉が独占されていいのか、といった議論がされていますが、法律的には上記に該当するかどうかという点が審査されるもので、特に注目すべき論点があるわけでもありません。
また、上記に該当するとして拒絶理由通知から、さらに審査が進んだ場合には、使用をした結果、商標(すなわち商標登録出願人の識別標識)として著名であるかどうかを主張して認められるのか、それとも商標登録出願人の識別標識としてではなく周知の言葉になってしまったのか、が問題になるはずです。

「Web2.0」の商標については、下記の3点が論じられるべきだと私は思います。
(1)商標の普通名称化が従来考えられないスピードと経路で進行してしまうこと。
(2)インターネットでの使用例に関する特許庁の判断手法。
(3)インターネットでの商標の使用実績の証明手法。

(1)商標の普通名称化が従来考えられないスピードと経路で進行してしまうこと
「Web2.0」という言葉は、もともと、Tim O'Reillyが提唱したコンセプトで、「次世代ソフトウェアのためのデザインパターンとビジネスモデル」(Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software)として定義しているものです。
「Web」という普通名称、「2.0」というソフトウェア等において慣用的に使用されるバージョンを示す数字、から構成された言葉であること、さらにブログやSNS、RSSを使いこなすユーザーの関心を得やすいジャンルの言葉であったことから、この言葉は急速に広まります。

言葉が発案された時点では、普通名称や、商品・サービス(役務)の内容、質を示すものではないと考えられるものの、ソフトウェア製品(第9類)あるいはプログラム設計・作成(第42類)等については、普通名称といえないまでも、特定の商標登録出願人の識別標識とはいえないと考えられます。
そして、実際に出願されている第35類の広告、市場調査等、第41類のセミナー関係等については、サービス(役務)の内容、質を示す言葉(商標法第3条第1項第3号)、商標登録出願人の識別標識として機能しない言葉(商標法第3条第1項第6号)である可能性が強くあります。

「Web2.0」という言葉を本当に商標として独占しようとするのであれば、元々のコンセプトにおいて「O'Reilly氏あるいはMediaLive International社が提供する~」といった商標登録出願人の識別標識として定義していなかったこと等、注意が足りなかったのではないかという疑問が残ります。
ただ、ソフトウェア製品(第9類)あるいはプログラム設計・作成(第42類)等については、コンセプトの内容と共に、広く言葉を普及させたいという思いがあったのかもしれません。

今回の件の教訓は、自分の商標として権利を保持したいのであれば、その言葉の提示方法、インターネットを通じて広まる経路を想定した表示方法について、従来では考えられなかった速度と経路が伴うことを、あらかじめ想定して対策しなければならないことです。
MediaLive International社の、あるいはメディアライブジャパン株式会社の提供するソフトウェアを用いた広告・市場調査手法、セミナー名称として定義すること。これらサービスについての、MediaLive International社の、あるいはメディアライブジャパン株式会社が所有する商標であること。表示には(TM)等の表示を必ずつけること。まずマスメディアへのプレスリリースなどを行い最初に知名度を上げること。
これで商標としての権利保持ができたかどうかは、「Web2.0」が元々識別力の弱い言葉であったこと、そして言葉の広がり方を考えると定かではありません。
しかし同時に出願されている「Web2.0Conference」については、十分に対応可能であったろうと私は考えます。

商標が、商標(すなわち特定人の識別標識)であると注意喚起されずに一般の第三者に使用されれば、普通名称化が進み、普通名称と認定されてしまえば、誰もが使用できる言葉になってしまいます。
しかし、「正露丸」が数十年かけて普通名称化したと認定されたことを思えば、ブログ、SNS、RSS、ウェブサイトや電子メール、メッセンジャー等で不特定多数を相手に瞬時に、幾何級数的に広がってしまう普通名称化に対抗することが極めて困難です。
最初に情報を提示するときまでにあらかじめ対応を想定しておかなければなりません。

さらに、情報の広がる経路でいえば、「正露丸」の時代であれば、新聞社、雑誌社、書籍発行者、辞書編纂者、放送局等に注意喚起をしておけばよく、一般消費者が商標と知らずに使用したとしても、その情報の広がりはきわめて限定されたものでした。
しかし、ブログ、SNS、RSSなどでは、情報の経路についてコントロールができず、そもそもどこに「Web2.0」あるいは「Web2.0Conference」が表示されたかを把握することができません。
仮に、どこに「Web2.0」あるいは「Web2.0Conference」が表示されたかを把握することができたとして、その相手の多数に対して、MediaLive International社の、あるいはメディアライブジャパン株式会社の商標です、とは伝えられないと思います。
さらに仮に伝わったとしても、トラックバック、RSSやウェブページのキャッシュなど、消すことや訂正することが困難です。

このことは、意識的に、商標(すなわち特定人の識別標識)として第三者に伝達する場合の表示についてもいえます。
たとえば、広告として他のウェブサイトに表示させる際に、商標(すなわち特定人の識別標識)であると注意喚起することを怠ることは危険です。検索エンジン広告などでは、検索サイト以外の不特定多数のウェブサイトにも表示されますし、アフィリエイト広告についても同様です。

(2)インターネットでの使用例に関する特許庁の判断手法
商標登録出願人が出稿しているアフィリエイト広告が、一般に使用されている例として列挙され、商品の品質等を示す言葉として一般的に使用されている(商標法第3条第1項第3号)という拒絶理由通知を受けたことがあります。これを一つ一つ、商標登録出願人が出稿しているモノで、識別標識として機能している商標であると反論する必要がありました。
たったの数例の使用例で、一般的に使用されている(商標法第3条第1項第3号)と認定されることには疑問を感じます。掲示板やブログでは、喋るのと同程度の手間で使用できてしまうこと、さらに悪意のある者が故意に広めることも可能であるためです。
しかし、商標の所有者とは関係ない第三者のページに表示されている言葉をクリックすれば、商標所有者の商品のページに移動すること、これを証明していくことが困難で、使用例が多数あればすべてを証明することは不可能に近いといえます。

(3)インターネットでの商標の使用実績の証明手法
「Web2.0」が、その6文字単独で、第35類の広告、市場調査等、第41類のセミナー関係等について、商標(すなわち特定人の識別標識)として使用されているかは、知る限りでは疑問です。
しかし、「Web2.0Conference」(商標)は、第41類のセミナー関係等については、MediaLive International社の、あるいはメディアライブジャパン株式会社の商標(すなわち特定人の識別標識)として使用されているといえると私は思います。
前述したように、「Web2.0Conference」という言葉が、ブログ、SNS、RSS、ウェブサイトや電子メール、メッセンジャー等で不特定多数に急速に広まったとしても、その多くは、MediaLive International社の、あるいはメディアライブジャパン株式会社のセミナー、イベントの名称として言及されていたはずです。

第二回の「Web2.0Conference」は、Tim O'Reillyが提唱した翌月に開催されており、特定のイベントを示す言葉として急速に著名になったはずです。
急速に周知になったことから「Web2.0」の登録を拒絶するとすれば、「Web2.0Conference」が急速に周知になったことから第41類のセミナー関係等については登録すべきであると私は思います。
使用実績による周知の努力を認められるべきであること、これが独占されても他人は別の名称を選択可能であることによります。
また、法律的には「使用による識別性」(商標法第3条第2項)によります。

ところが、「使用による識別性」(商標法第3条第2項)を受けるためには、メディアライブジャパン株式会社のセミナー、イベントの名称として使用された結果、著名になっていることを、証拠を示して特許庁に納得させなければなりません。
商標審査基準では、「商標が使用により識別力を有するに至ったかどうかは、例えば、次のような事実を総合勘案して判断するものとする。」として、
 A 実際に使用している商標並びに商品又は役務
 B 使用開始時期、使用期間、使用地域
 E 一般紙、業界紙、雑誌又はインターネット等における記事掲載の回数及び内容
などが考慮されます。
そしてその証拠方法は、
 A 広告宣伝が掲載された印刷物(新聞、雑誌、カタログ、ちらし等)
 G 一般紙、業界紙、雑誌又はインターネット等の記事
などを用います。

100万部発行の雑誌であれば1つの証拠で100万人の証明ができます。テレビの視聴率、新聞(全国紙)の発行部数はさらに多くなります。
しかし、ブログ、SNS、RSSなどでは、情報の経路についてコントロールができず、そもそもどこに「Web2.0Conference」が表示されたかを把握することができません。100万のブログの証明には100万の証拠が必要です。
仮に、どこに「Web2.0Conference」が表示されたかを把握することができたとして、それらがMediaLive International社、メディアライブジャパン株式会社と関連付けられていることを証明しなければなりません。
大手のウェブサイトはともかくとして、個人のウェブサイトを1ページずつすべてプリントアウトすることは困難です。
また、検索結果をプリントアウトするにしても、きわめて膨大なものになりますし、「Web 2.0 Conference MediaLive」で検索したとして、スペース等の検索式入力方法により大きく検索結果が異なります。さらに、検索結果の中には、「Web2.0Conference」がメディアライブ社の商標ではなく一般名称だと主張するウェブページも含まれているはずです。

インターネットでの商標の使用実績を示すためには、アドワーズ広告(商標)などの検索エンジン連動広告、アフィリエイト広告などもあります。
出稿されるウェブページのすべての所在はわかりません。また、表示される広告の内容は自分で随時変更できるものもありますので、特許庁に提出する証拠と同一の表示がされていたものばかりとは限りません。
また、検索エンジン連動広告、アフィリエイト広告などの管理画面の統計も、一定期間の統計に限られていたりしますし、請求される広告費の集計で証明をすることにも限界があります。

まとめ
Web2.0時代の商標には、普通名称化の防止策について、事前の対策と、普通名称化進行中の対策とについて、新たな対応の検討が必要とされていると考えます。
一方、自分の商標であることが著名になれば、他人の登録を排除したり、通常では普通名称や品質表示とされる言葉でも登録される場合があるため、Webを使用した、商標の著名化方法というものも検討できるのかもしれません。
インターネットでの商標使用の証明方法については、審査基準、証拠方法のより明確な検討と、証明方法の検討が必要とされているのではないでしょうか。


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