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コンセント制度(商標法第4条第4項)を利用した類似商標の初の登録事例 -2025年05月27日
2024年4月1日以降、先願の同一・類似商標がある場合(商標法第4条第1項第11号)の例外として、コンセント制度、つまり先行する登録商標の権利者の同意があれば、類似する商標であっても併存登録を認める制度が導入されました。
改正法の施行から一年後の2025年4月7日、特許庁は、コンセント制度を適用した初の商標登録を行ったことを公表しました。
先願に係る他人の登録商標の例外に関する審査の具体的な取扱い
コンセント制度の導入に伴い商標法に第4条第4項が新設され、その審査における具体的運用においては、
1.査定時現在における混同を生ずるおそれについて
2.将来の混同を生ずるおそれについて
3.「混同を生ずるおそれがない」の判断
などが判断されます。
審査における判断の具体的な取扱いを整理した商標審査便覧も公表されています。
たとえば、出願人が明らかにした引用商標と出願商標の現在における使用態様、その他取引の実情を考慮して、類似商標が併存しても支障がないかの判断がされます。
査定時現在において使用態様等について当事者の合意がある場合には、その合意内容も考慮されます。
一方の商標が現実に使用されていない場合には、査定時現在における混同を生ずるおそれを否定する要素として考慮されます。
それ以外にも、具体的な判断方法としては、たとえば次のような審査の運用が行われます。
・自他商品役務の識別力が比較的弱い商標については、ハウスマーク等の付記をすることの合意により、混同を生ずるおそれが低下しやすい
・広範な商品に使用されている商標については、使用する商品を限定しても混同を生ずるおそれが低下する程度は小さい
・需要者が一般消費者であるような商品については、その需要者が通常有する注意力が高いとは言い難いことから、商標の構成上の類似性が高いと混同を生ずるおそれが高い
・小規模事業主が販売する商品については、販売地域を限定することにより販売地域のすみ分けがなされることで混同を生ずるおそれが低下しやすい
今回の事例の引用商標
実際にコンセント制度(商標法第4条第4項)を利用した、特許庁が公表した初の類似商標の登録事例を見てみます。
引用商標とされた、先に登録されていた商標は下記の登録第59911166号です。
2017年10月27日に登録されています。
商標は、「玻璃」の文字と、その下に「HARI」の文字とが横書きで併記され、「ハリ」という称呼(読み方)が生じます。
指定商品・指定役務は、第16類の「カタログ,その他の印刷物」のほか、第35類の「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」をはじめとする、小売等役務が多岐にわたり広範に指定されてます。
引用商標の商標権者は、通信販売、カタログ販売で事業を広く行っている事業者です。
今回登録された本願商標
今回登録になった本願商標は、コンセント制度が導入された当日の2024年4月1日に出願されました。
出願人は地方の酒造会社です。
商標は、「玻璃」が筆文字で縦書きされ、「ハリ」という称呼(読み方)が生じます。
一般的には、同じ称呼が生じる商標どうしは類似商標とされます。
指定商品として、第33類の「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,ビール風味の麦芽発泡酒,中国酒,薬味酒」が指定されています。
引用商標が第16類と第35類のため、一見問題ないかのように見えますが、第35類の「酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が、第33類の指定商品と類似します。
通常であれば、先行する類似商標の存在を理由として、商標法第4条第1項第11号の拒絶理由通知が来るケースです。
本願商標の審査経過
本願商標の審査経過を見てみましょう。
拒絶理由通知は来ておらず、代わりに出願から3か月ほど経過して、上申書が提出されました。
上申書により、商標法第4条第4項の主張に関する次の資料が提出されています。
(1)他人の承諾を得ていることができる資料として、「甲第1号証 承諾書」
(2)「混同を生じるおそれがない」ことを明らかにする資料として、「甲第2号証 合意書」、「甲第3号証 出願人の業務内容に関する資料」、「甲第4号証 引用商標権者の業務内容に関する資料」
なお、審査経過で目を引くこととして、「ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書」が多数提出されています。
コンセント制度を利用した初の登録事例であるところから、当事者、関係者だけでなく、弁理士などの閲覧請求があったのではないかと思われます。
商標法第4条第4項の主張に係る資料の取扱い
第4条第4項の審査における資料に関しては、商標審査便覧に運用が説明されています。
1.他人の承諾を得ていることが確認できる資料
2.「混同を生ずるおそれがない」ことを明らかにする資料
の運用が整理して説明され、承諾書及び合意に関する書類のひな形についても掲載されています。
承諾書の例
合意に関する書類の例