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他人の氏名を含む商標の要件緩和についての検討の方向性 -2022年07月16日

2022年6月30日、これまでに5回開催された特許庁政策推進懇談会の、「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方」の報告書が取りまとめられ、公表されました。

公表された議論のとりまとめは、直ちに法改正に進むわけではないものの、今後、具体的な論議を経て、将来の法改正につながることも予想されます。

とりまとめの中では、他人の氏名を含む先願商標があった場合に、登録が認められない商標法第4条第1項第8号に関し、登録要件の緩和をすることが議題の一つとなっています。

特許庁政策推進懇談会 外部サイトへ特許庁
知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方 とりまとめ[PDF] 外部サイトへ特許庁

どのようなときにコンセント(同意)制度があると望ましいか

登録できない商標の要件の一つとして、商標法第4条第1項第8号には、下記のような規定があります。

他人の肖像または他人の氏名もしくは名称もしくは著名な雅号、芸名もしくは筆名もしくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)は、商標登録を受けることができない、というものです。

この場合の対応方法としては、上記のカッコ書きにあるように、他人の承諾を得て、同意書をもらい、特許庁に提出するという方法があります。
しかし、他人の同意を多数得なければならないような、電話帳だけでも同姓同名が多数存在する場合などに、事実上、同意を得ることは不可能であるため、あきらめることもあります。

たとえばファッションブランド名などにみられるように、氏名をブランド名とすることは、業種によっては一般的に見られます。
ドラッグストア業界などでも同様の事例があります。

これらのブランドも、商標として保護したいのは当然です。
しかし、近時の裁判例においては、この規定が厳格に解釈されてきました。
その判旨を踏まえた商標審査・審判においても、電話帳を調べて該当するものがあれば拒絶するような実務が行われてきたため、他人の氏名を含む商標の登録が困難な傾向にあります。

このため、上述した同意を得るための手続きは厳格すぎるため、要件を緩和してほしいという要望は、産業界などから多く上がっていたという経緯があります。

特許庁政策推進懇談会での意見

特許庁政策推進懇談会において、各界からは、次のような意見の表明が見られました。

「法改正若しくは審査基準を見直してほしい。条文を厳格に適用するあまりに氏名ブランドが保護されていない状況が続いている。日本において基礎となる登録商標を持てないために、国際登録の制度も活用できない。世界的に展開するデザイナーズブランドも日本だけ登録できないこともあり国際調和の観点からも見直してほしい。マツモトキヨシの音商標について、知財高裁の裁判例があって、特許庁においても調査研究を進められてきたところ、厳格すぎる運用の見直し等について迅速に進めてほしい。」

「商標法第4条1項8号の『氏名』に著名性要件を付すことに賛成。(特定の他人の氏名と)1対1対応にならないローマ字、カタカナについても登録を認めない裁判例が広がっていることが問題と理解している。知名度をどの程度要求するかについては、他人による商標登録を妨げる効果を持つものとして、同法第4条第1項第10号、第15号と同程度、同じ要件とすべき。マツモトキヨシ音商標事件との関係では、1対1対応ではない大量の『マツモトキヨシ(氏)』が考えられる場合まで人格的不利益が生じるか疑問があり運用等で改善できればと思う。」

「タレントの芸名をプロダクションが登録してしまう場合など、関係性が円滑であればよいが、タレントが独立するときにそれを使用できないというのはどうかという点で、登録時に人格的利益を有している者に権利を帰属させるというのをどう担保するか、無関係の者の出願を認めない等、何かしらの手当てが必要という気がしている。」

検討の方向性

「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方」の報告書では、今後の検討の方向性として、
下記のようにまとめられました。

「ユーザーニーズ、他人の人格的利益と出願人の商標登録を受ける利益とのバランスや、諸外国との制度調和等の観点から、本規定における他人の『氏名』に一定の知名度の要件を課す法改正が適当ではないか。」

つまり、一定の知名度を有する他人の使命を含む商標は登録されない、といった方向性での要件緩和が論点となります。

「上記改正案から生じる課題の1つとして、商標に含まれる氏名と無関係な者による出願について、先取り出願を許容すべきでない場合には、現行の商標法における、使用についての疑義がある旨の拒絶理由(商標法第3条第1項柱書)、公序良俗違反を理由に登録できないとする拒絶理由(同法第4条第1項第7号)等の活用可能性を検討していく必要がある。」

無関係なものによる商標登録出願は、従来から問題となリ世間を騒がせる事例もありました。
この問題については、現行法でも対応可能なものと考えられますが、他人の氏名を含む商標登録の要件が緩和された場合には、無関係な者による出願がやはり想定されます。
この点について議論を深める必要があるということです。

「法改正の具体的内容について検討を深めるとともに、求める知名度の程度、事後的に他人が知名度を獲得した場合の取扱い等、上記改正案に関連するその他の論点・課題についても、あわせて検討を行う必要がある。」

商標の法体系全体として、制度設計の整合性が求められており、今後の議論が待たれるところです。


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