カテゴリー
事務所通信 | NEWS LETTER | 当サイトのお知らせ | 弁理士業務雑感
商標登録 | 商標豆知識 | 商標あれこれ | 検索してみる
デザイン | ブランドロゴ | マスコットキャラクター | ゆるキャラ
商標登録事務所通信 ≡ 記事一覧
「日本保守党」の商標登録を調べてみる -2023年10月18日
2023年10月17日に結党記者会見及びパーティーを行った新党(政治団体)「日本保守党」について、急速にSNSフォロワーや党員数が伸びていることが注目されています。
本日は名古屋での初遊説ということで動画配信もされていました。
https://hoshuto.jp/
ただしこの記事は政治的な内容の記事ではありません。
ふと思いついて、「日本保守党」の商標について、J-Plat Patで調査をしてみました。
その結果、3件の商標登録出願がされていることがわかります。
3件の出願はそれぞれ、第35類、第36類、第45類の1区分ずつを、別の出願として提出されたものです。
第35類では、「世論調査及びこれに関する情報の提供,住民・有権者の意識調査に関する情報の提供」その他の指定役務を含む内容となっています。
第36類の出願では、「政治資金の調達」その他の役務が指定されています。
第45類の出願では、「政党に関する情報の提供,選挙に関する情報の提供,インターネットによる国会における議員活動等の国会に関する情報の提供,インターネットによる各地の選挙結果に関する情報の提供」その他の役務が指定されています。
3つの出願ともに、商標は同じです。
なお出願人は株式会社名となっていますが、日本保守党の関係者が関与する法人とインターネットで調べた限りではわかります。
また結党前の出願であったため、いずれかの時点で政党に無償譲渡する意向であることもわかりました。
上記3出願に対する情報提供(2023/11/14追記)
上記の3つの出願に対しては、「刊行物提出書」により特許庁に情報提供がされたことがわかりました。
情報提供とは、出願された商標について登録すべきでない拒絶理由があると考えたときに、だれでも提出できる書類です。
匿名で提出することも可能です。
想定できる拒絶理由としては、指定商品・指定役務が広範囲に及ぶための商標法第3条第1項柱書のほかに、次の理由が考えられます。
「日本保守党」という名称と同一名称?
結党会見以前から、たまたまYouTubeなどで予備知識があったため、「日本保守党」という名称については、少し踏み込んで調べてみました。
Wikipedia(2023年10月18日閲覧時)の記載によれば、「日本保守党」の項目では、下記の内容が記載されています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BF%9D%E5%AE%88%E5%85%9A_(%E6%9B%96%E6%98%A7%E3%81%95%E5%9B%9E%E9%81%BF)
「政治団体・議員会派
日本保守党 - 1955年11月に自由民主党が結党した際の党名案の一つ[5]。「自由民主党 (日本)#党名」を参照。
日本保守党 - 1988年に福岡青年部が『日本國民の基本的常識について』を出版した組織[6]。
日本保守党(にほんほしゅとう[3]) - 2021年5月に結党された政治団体[7]。
日本保守党 - 2023年9月13日に日本創新党から名称変更した荒川区議会の院内会派[8][9][10]。「小坂英二#経歴」を参照。
日本保守党(にっぽんほしゅとう[4]) - 2023年9月13日に党名を発表した政治団体[10][11][12]。「百田尚樹#日本保守党」を参照。」
今回の記事の対象とする「日本保守党」は、上記5つのうちの最後(と最後から2番目)にあるものです。
作家の百田尚樹氏と、ジャーナリストの有本香氏が中心となり、昨日には名古屋市長率いる「減税日本」との連携が発表された、本日時点では法令上は国政政党ではない、政治団体としての「日本保守党」です。
同一名称の団体が存在したら? 商標法の規定(第4条第1項第8号)
ところで上記で引用したWikipediaにもあるのですが、本日時点で、総務省に届け出の政治団体として、別の「日本保守党」が存在しています。
“その他の政治団体一覧(2918団体)”. 総務省 (2023年12月31日) 2023年10月18日閲覧。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000718003.pdf
ここで、同一名称についての商標登録出願の規定である商標法第4条第1項第8号を参照します。
商標法第4条では、
「次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。」として、次の8号がその中に規定されています。
商標法第4条第1項第8号
「八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」
第8号は、改正商標法が成立済で、未施行のため、3つの出願には上記規定が適用されます。
条文ではわかりにくいため、整理すると、登録できない名称としては次のものが規定されています。
(1)他人の肖像
(2)他人の氏名・名称
(3)他人の著名な雅号、芸名、筆名
(4)上記(1)~(3)の著名な略称
を含む商標は、登録されません。
ただし、その他人の承諾を得ているものを除きます。
すると、「他人の名称を含む商標」は登録できない、ただし同一名称の相手の承諾を得れば登録できる、という結論となります。
商標法第4条第1項第8号のページにて詳しく解説していますが、現存する他の団体等の名称であるときは、自己の名称であっても、その他人の人格的利益を損なうものとして、8号に該当するとされます。
登録が拒絶されることを回避する方法としては、同一名称の相手からの承諾書をもらい、特許庁での審査の途中で提出する方法があります。
それ以外の方法として、同一名称の他の団体との共同出願とする方法などが考えられないこともありません。
同一名称の別の政治団体に関する商標登録出願(2023/11/14追記)
この記事を最初に執筆後、同一名称の別の政治団体関係者により商標「日本保守党」が出願されたこともわかりました。
出願中の商標である、政治に関わるセンシティブな話題であるため、これら出願については上記の一般的知識の解説にとどめます。
なお、日本保守党と特別友党関係を締結した「減税日本」の商標登録や出願はありませんでした。
同一の政党名・政治団体名の規制は?
政治団体や政党を規制等する法令としては、公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法があります。
政治団体の届け出としては、政治資金規正法第6条において、「都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に届け出なければならない」とされています。
ただし国会に議席を有する政党・政治団体以外については、政治団体の同一名称を規制する規定はありません。
国政政党とその政治資金団体については、政治資金規正法第6条第3項に、次の規定があります。
「第一項の規定による届出をする場合には、当該届出に係る政治団体の名称は、第七条の二第一項の規定により公表された政党又は政治資金団体の名称及びこれらに類似する名称以外の名称でなければならない。」
なお、国政政党における選挙での同一名称としては、比例代表選挙の「略称」で問題になった例があります。
2010年の参議院選挙では、「新党日本」と「たちあがれ日本」が、いずれも略称を「日本」と届け出る問題がありました。
2021年の参議院選挙では、「立憲民主党」と「国民民主党」がいずれも略称を「民主党」として届け出ることになりました。
「新党日本」の件では、国会での質問主意書とその回答があります。
「『同一略称』につき、混乱・誤認が有権者に生じることを総務省は認識しているにもかかわらず、回避措置を何故講じないのか。」
(平成二十二年四月十九日提出「質問第四〇八号 政党「同一略称」に関する質問主意書」
提出者 田中康夫)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a174408.htm
「議員数要件又は得票率要件に該当する政党その他の政治団体による他の議員数要件又は得票率要件に該当する政党その他の政治団体の名称及び略称と同一又は類似の名称及び略称の使用は、禁止されていない。」(衆議院議員田中康夫君提出政党「同一略称」に関する質問に対する答弁書)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b174408.htm
一方が国政政党の要件を満たした場合
一方が国政政党の要件を満たした場合、という論点もあります。
この点については商標法の専門外となりますため、詳細は検討は致しません。
仮に一方が名称を変更した場合などには、商標法第4条第1項第8号には該当しないということも考えられる点だけ付記します。
政党名に商標登録は必要か? 同一名称の存在を理由として登録できなかったときは?
政党や政治団体の名称は、商標登録をすべきものでしょうか?
この点では商標は、「文字、図形、記号、立体的形状、色彩、またはこれらの結合」などであって、商品の生産や販売、役務の提供などについて、業として使用するものです(商標法第2条)。
非営利事業についても含まれるため、前記の3つの出願にあるような「政治や議員活動についての情報の提供や、政治資金の調達」などは、商標登録の対象となります。
ただし議員活動そのものは、むしろ他人に対し提供する役務でない場合、公益に関する活動といえる場合が多いため、上記出願でも、議員活動に付随する業務についての出願という内容になっています。
同一名称の存在を理由として商標登録できなかった場合は?
同一名称の政治団体や政党があることを理由として、商標法第4条第1項第8号により拒絶された場合には、いずれの団体も商標登録ができません。
したがって指定役務についての名称の独占権がないため、いずれの団体も名称を使用できることになります。
なお無関係の第三者については、商標登録されていない名称であっても、
「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示」
に該当するとして、使用できない可能性が考えられるでしょう。
いずれか一方の団体が商標登録をした場合
いずれか一方の政党や政治団体が商標登録をした場合には、その団体自身は当然に、その名称を使用できます。
商標登録をしていないもう一方の団体については、次の商標法の規定が適用されます。
商標法第26条(商標権の効力が及ばない範囲)
商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標」
つまり、他の団体に同一名称の商標登録をされてしまっても、普通の書体の文字などで使用する分には、使用することは可能です。
改正法施行後の商標法第4条第1項第8号
改正商標法4条1項8号
他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの
条文をわかりやすく整理すると、次のようになります。
(1)他人の肖像
(2)他人の氏名(商標の使用をする商品・役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名)・名称
(3)他人の著名な雅号、芸名、筆名
(4)上記(1)~(3)の著名な略称
を含む商標は、登録されません。
ただし、その他人の承諾を得ているものを除きます。
他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないものは、登録されません。
同一の氏名の他人が存在する場合であっても、その業務分野において需要者に広く知られている他人の氏名でなければ、承諾を得なくても、商標登録できる余地が生まれることになります。
ファッションブランドの氏名を基にした商標や、「マツモトキヨシ」のような商標が登録できるようにするための法改正です。