補正の却下
商標登録出願の願書に記載した指定商品・指定役務、または商標登録を受けようとする商標についてした補正が、これらの要旨を変更するものであるときは、審査官は、決定をもってその補正を却下しなければなりません(商標法第16条の2)。
補正の却下の決定に対する審判
その決定に不服があるときは、却下の決定を受けた出願人は、 補正却下の決定の謄本の送達があった日から30日以内に審判を請求することができます(商標法第45条)。
補正の却下後の商標についての新出願
なお、却下された補正の内容で、商標登録を受けたいときは、補正後の商標についての新出願とすることもできます。
補正却下の決定の謄本の送達があった日から30日以内に、その補正後の商標について新たな商標登録出願をしたときは、その出願は却下された手続補正書を提出した時にしたものとみなされ、元の商標登録出願は取り下げたものとみなされます。

商標審査基準抜粋
1.要旨変更であるかどうかの判断の基準は、次のとおりとする。
(1) 第5条第1項第3号で規定する指定商品又は指定役務(以下「指定商品又は指定役務」という。)について
(ア) 指定商品又は指定役務の範囲の変更又は拡大は、非類似の商品若しくは役務に変更し、又は拡大する場合のみならず、他の類似の商品若しくは役務に変更し、又は拡大する場合も要旨の変更である。
(例1) 要旨の変更となる場合
① 範囲の変更
第32類「ビール」から第33類「洋酒」への補正
② 範囲の拡大
第12類「貨物自動車」から第12類「自動車」への補正
ただし、例えば、以下のとおり、指定商品又は指定役務が包括表示で記載されている場合であって、その包括表示に含まれる個々の指定商品又は指定役務に変更することは、要旨の変更ではないものとする。
(例2) 要旨の変更とならない場合
指定商品 第21類「食器類」から「コップ,茶わん」への補正
指定役務 第41類「娯楽施設の提供」から「カラオケ施設の提供,その他の娯楽施設の提供」への補正
(イ) 指定商品又は指定役務の範囲の減縮、誤記の訂正又は明瞭でない記載を明瞭なものに改めることは、要旨の変更ではないものとする。
(ウ) 小売等役務に係る補正は、次のとおりとする。
① 「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(総合小売等役務)を、その他の小売等役務(以下「特定小売等役務」という。)に変更する補正は、要旨の変更である。
また、特定小売等役務を総合小売等役務に変更する補正も、要旨の変更である。
② 特定小売等役務について、その取扱商品の範囲を減縮した特定小売等役務に補正するのは要旨の変更ではないが、その取扱商品の範囲を変更又は拡大した特定小売等役務に補正するのは、要旨の変更である。
③ 小売等役務を商品に変更する補正も、また、商品を小売等役務に変更する補正も、要旨の変更である。
(2) 第5条第1項第2号で規定する商標登録を受けようとする商標を記載する欄への記載(以下「願書に記載した商標」という。)について
(ア) 願書に記載した商標の補正は、原則として、要旨の変更である。
(例)
① 商標中の文字、図形、記号又は立体的形状を変更、又は削除すること
② 商標に文字、図形、記号又は立体的形状を追加すること
③ 商標の色彩を変更すること
(イ) 願書に記載した商標中の付記的部分(例えば、他に自他商品・役務の識別機能を有する部分があり、かつ、自他商品・役務識別機能を有する部分と構成上一体でない部分)に、「JIS」、「JAS」、「プラマーク」、「エコマーク」、「特許」、「実用新案」、「意匠」等の文字、記号若しくは図形又は商品の産地・販売地若しくは役務の提供の場所を表す文字がある場合、これらを削除することは、要旨の変更ではないものとする。
(ウ) 商標登録出願後、第5条第3項で規定する標準文字である旨の記載を追加する補正又は削除する補正は、原則として、要旨の変更である。
ただし、願書に記載した商標が標準文字に置き換えて現されたものと同一と認められる場合において、標準文字である旨の記載を追加する補正は、要旨の変更ではないものとする。
(エ) 商標登録出願後、第5条第6項ただし書きの規定による色彩の適用を受けようとすることは、要旨の変更である。
2.国際商標登録出願については、第68条の18の規定により、第17条の2第1項において準用する意匠法第17条の3(補正後の意匠についての新出願)の規定は、適用しない。
3.立体商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商 標について
(1) 立体商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商標である旨の記載の補正について
(ア) 原則
商標登録出願後、第5条第2項で規定する立体商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商標である旨の記載を追加する補正、又は削除する補正は、原則として、要旨の変更である。
(イ) 例外
ただし、願書に記載した商標及び第5条第4項で規定する商標の詳細な説明(以下「商標の詳細な説明」という。)又は経済産業省令で定める物件(以下「物件」という。)から、立体商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商標のいずれか以外には認識できない場合において、その商標である旨の記載を追加する補正又はその商標である旨の記載に変更する補正、及び立体商標については、願書に記載した商標から、平面商標としてしか認識できない場合において、立体商標である旨の記載を削除する補正は、要旨の変更ではないものとする。
(2) 願書に記載した商標の補正について
(ア) 原則
願書に記載した商標の補正は、原則として、要旨の変更である。
(イ) 例外
ただし、音商標において、願書に記載した商標中に、楽曲名、作曲者名等の音商標を構成する言語的要素及び音の要素以外の記載がされている場合、これらを削除する補正は、要旨の変更ではないものとする。
(3) 商標の詳細な説明又は物件の補正について
商標登録を受けようとする商標が特定されていない場合における商標の詳細な説明又は物件の補正が、要旨変更であるか否かについては、補正後の商標の詳細な説明又は物件が、願書に記載した商標の構成及び態様の範囲に含まれているか否かによって判断するものとする。
例えば、音商標について、願書に記載した商標に記載がない事項(演奏楽器や声域等の音色等。ただし、歌詞等の言語的要素を除く。)は、商標の詳細な説明(願書に記載した商標を特定するために必要がある場合に限る。)及び物件により特定されるため、その範囲に、補正後の商標の詳細な説明及び物件が含まれているか否かによって判断するものとする。
(ア) 立体商標について
要旨変更とならない例は、例えば、次のとおりとする。
a. 願書に記載した商標に記載されているが、商標の詳細な説明には記載されていない標章を、商標の詳細な説明に追加する補正。
b. 願書に記載した商標が、屋根、窓、壁から構成される店舗の外観を表す立体的形状であり、商標の詳細な説明では、屋根、ドア、壁から構成される店舗の外観を表す立体的形状である旨の記載がある場合に、商標の詳細な説明を、屋根、窓、壁から構成される店舗の外観を表す立体的形状である旨の記載へと変更する補正。
(イ) 動き商標について
要旨変更とならない例は、例えば、次のとおりとする。
a.願書に記載した商標に記載されているが、商標の詳細な説明には記載されていない標章を、商標の詳細な説明に追加する補正。
b.願書に記載した商標に記載されているが、商標の詳細な説明には記載されていない時間の経過に伴う標章の変化の状態を、商標の詳細な説明に追加する補正。
(ウ) ホログラム商標について
要旨変更とならない例は、例えば、次のとおりとする。
a.願書に記載した商標に記載されているが、商標の詳細な説明には記載されていない標章を、商標の詳細な説明に追加する補正。
b.見る角度により別の表示面が見える効果が施されたホログラム商標である場合に、願書に記載した商標に記載されているが、商標の詳細な説明には記載されていない表示面についての説明を、商標の詳細な説明に追加する補正。
(エ) 色彩のみからなる商標について
要旨変更とならない例は、例えば、次のとおりとする。
a. 願書に記載した商標の色彩が赤色であり、商標の詳細な説明では青色の場合に、商標の詳細な説明を赤色に変更する補正。
b.願書に記載した商標が、3つの色彩を組み合わせてなる商標であり、商標の詳細な説明では4つの色彩について記載している場合に、商標の詳細な説明を3つの色彩についてのものへ変更する補正。
c.願書に記載した商標が、上から下に向けて25%ごとの割合で4つの色彩を組み合わせてなる商標であり、商標の詳細な説明では上から下へ向けて30%、30%、20%、20%の割合で4つの色彩からなると記載している場合に、商標の詳細な説明を25%の割合へ変更する補正。
(オ) 音商標について
① 要旨変更とならない例は、例えば、次のとおりとする。
a.願書に記載した商標が、演奏楽器としてピアノが記載されている五線譜であり、物件がギターにより演奏されたと認識させる音声ファイルである場合に、物件をピアノにより演奏されたと認識させる音声ファイルに変更する補正。
② 要旨変更となる例は、例えば、次のとおりとする。
a.願書に記載した商標が、歌詞が記載されていない五線譜であり、物件が歌詞を歌った音声がない音声ファイルである場合に、物件を歌詞を歌った音声ファイルに変更する補正。
b.願書に記載した商標が、演奏楽器について記載されていない五線譜であり、物件がギターにより演奏されたと認識させる音声ファイルである場合に、物件をピアノにより演奏されたと認識させる音声ファイルに変更する補正。
(カ) 位置商標について
要旨変更とならない例は、例えば、次のとおりとする。
a.願書に記載した商標が、標章を眼鏡のつるに付するものであり、商標の詳細な説明では、標章を眼鏡のレンズフレームに付する旨の記載がある場合に、商標の詳細な説明を、標章を眼鏡のつるに付する旨の記載へと変更する補正。
4.上記3.(1)及び(2)の扱いは、国際商標登録出願には適用しない。
補正の却下への対応方法
(1)審査を継続し、必要であれば再度の手続補正などを行う。
(2)補正後の内容で新出願をする。
(3)補正の却下に対する審判を請求する。
図形商標について、出願当初のものと相違するため、要旨変更とされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】昭和 40 年審判第 747 号
【事案】
本願商標は、下記に示す商標見本のとおり富士の記号と覚しきものを肉太に描き、この記号の底辺に当る部分に同じく肉太の「一」の文字を配してなるもので、第7類「建築または構築用専用材料」を指定商品として登録出願がなされたものであるが、その後手続補正書を提出して、本願商標を下記に示す商標見本のとおり補正した。
しかしながら、該補正は出願当初のものと相違するため、出願の要旨を変更するものと認められる。

「Tailored in England」の文字を削除した補正は要旨の変更ではないとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】補正2000-50067
【事案】
本願商標は、別掲(1)に示すとおり、上段に「MICHAEL TAPIA」の文字を表し、その下段に上段の文字と異なる書体をもって「Tailored in England」の文字を筆記体様で表したもの(以下、「補正前の商標」という。)として、登録出願されたものである。
これに対し、「本願商標は、その構成中に『英国』を意味する『England』の文字を有しているから、本願商標をその指定商品中の『英国製の商品』以外の商品に使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。」との平成13年1月15日付け拒絶理由通知を受けた請求人(出願人)は、当該拒絶理由を解消するために、別掲(2)に示すとおり、「Tailored in England」の文字を削除した「MICHAEL TAPIA」の文字のみに商標登録を受けようとする商標(以下、「補正後の商標」という。)を補正したものと認めることができる。

しかして、例えば、商標中に外国の地名を有しているために、当該国製の商品以外の商品に使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある旨の商標法第4条第1項第16号に該当するとの拒絶理由を受けた場合、指定商品を当該国製の商品と補正して拒絶理由を解消する対処の他に、その外国の地名が商標中の付記的な部分である場合には、商標中よりその外国の地名を削除する商標の補正により対処することも、その出願された商標の自他商品の識別性に何らの影響を及ぼさない限り商標の要旨の変更に当たらないとして認められると解される(「商標審査基準 第3(不登録事由)十四、第4条第1項第16号 3.なお書き及び第11(補正の却下)1.(2)参照)。
そして、この場合における「付記的」とは、出願された商標における自他商品の識別機能を果たすべく構成された部分と分離して認識される国家名、地名等の文字を指すものということができる。
ところで、本願における補正前の商標は、別掲(1)に示すとおりであり、上段に自他商品の識別機能を有すると認め得る「MICHAEL TAPIA」の文字を表し、その下段に上段の文字と異なる書体で、かつ、「Tailored in England」の文字を2行にわたるように筆記体様で表したものであり、下段に表された「Tailored in England」の文字は、我が国における一般需要者の英語知識の普及度から判断するに、「Tailored」の文字(語)は、「注文したての、あつらえの」を意味する語と理解され、全体として「英国で仕立てられた、英国であつらえた」程度の意味合いを表したものと容易に認識されるとみるのが相当であり、また、本願商標の指定商品は、「被服、履物」等「Tailored」(注文したての、あつらえの)の文字(語)に相応する商品ということができるものである。
そうすると、「Tailored in England」の文字は、補正前の商標において視覚上自他商品の識別機能を果たすべく構成された「MICHAEL TAPIA」の文字部分と分離して認識され得るもので、その意味合いにおいても自他商品の識別機能を有するものでなく、その文字全体としてみても商品の産地、販売地を表す地名等の文字に相当するものとみて差し支えがないというべきで、該文字は、補正前の商標中付記的な部分と認めるのが相当である。
してみれば、補正前の商標を補正後の商標に補正することは、商標の要旨の変更には当たらないというべきであるから、補正後の商標についての補正却下の決定は妥当でなく、取り消すべきものとする。
標準文字「ざくぎリッチ」を「ざくぎりッチ」にした補正は要旨の変更であるとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】補正2009-500016
【事案】
(1)補正前後の商標について
本願商標は、上記1に示すとおり、「ざくぎリッチ」の文字を標準文字で表す商標(以下「補正前の商標」という。)として、登録出願されたものであるが、その後、商標登録を受けようとする商標について、「ざくぎりッチ」の文字を標準文字で表す商標(以下「補正後の商標」という。)に補正されたものである。
そして、当該補正は、第4文字目を別の文字に変更するものであり、外観上の明かな差異を有する態様の文字である。(後述(3)参照)
(2)請求人の主張
請求人は、「補正の前後における商標について、外観は同一性を実質的に損なわない。称呼は同一である。両商標の観念は、本願商標を構成する語から生じる観念から結合された商標の観念を判断させるものであり、本願商標を『ざくぎり』及び『リッチ』を、共通する称呼である『リ』部分で重複させて一体的に結合した造語として容易に類推しこれらの各語の意味より、『大きく切った野菜等を豊富に含んでなる商品』という共通の観念を生じさせ観念の実質的な同一性は損なわれない。よって、外観、称呼、観念等を総合的に比較検討しても、商標としての同一性を実質的に損なうものではなく、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれはないから、要旨変更には該当しない。」旨主張している。
そこで、以下、検討する
(3)補正前と補正後の商標の同一性について
補正前後の商標は、いずれも、商標法第5条第3項に規定する標準文字による商標登録出願であるところ、その構成中の第4文字目において、補正前の商標中の片仮名文字の「リ」と補正後の商標中の平仮名文字「り」は、文字の種別において異なる文字であり、外観において明確な差異を有していることから、両商標は外観上、明かな差異を有するといわなければならない。
観念については、請求人が自認するように、本願商標の観念を判断する際には、平仮名文字と片仮名文字との相違に着目し、分断し、それぞれの語の有する意味を把握、理解して、そこから生じる観念を認識し、その後に結合された商標の観念を判断させるものであるというのが相当である。
そこで、補正前と補正後の商標の観念について検討すると、補正前の商標においては、その構成中の片仮名文字部分「リッチ」の語が、「(1)富んでいるさま。金持ちの。豊かな。(2)料理や酒などで、こくのあるさま。(大辞林第二版)」の意味を有する平易な外来語であることから、特定の意味を有さない「ざくぎ」の文字と既成の語「リッチ」の文字を結合した造語とみるのが相当である。
一方、補正後の商標においては、その構成中の平仮名文字部分「ざくぎり」の語が、「葉物の野菜を大きく切ること。(大辞林第二版)」の意味を有する語であり、一般に使用されている語であることから、既成の語「ざくぎり」と特定の意味を有さない「ッチ」の文字が結合した造語とみるのが相当である。
してみれば、補正前の商標と補正後の商標とは、全体としては、特定の意味を有しない造語というべきであるから、観念においては比較することができない。
次に、称呼についてみると、補正前と補正後の商標全体から生じる称呼「ザクギリッチ」を共通にする。
そして、補正前と補正後の商標は、称呼を同じくするものであるとしても、外観において相違し、観念においては比較することができないため、その同一性を損なわないとはいえず、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものといわなければならないから、請求人の主張はいずれも採用することができない。
以上のとおり、補正前と補正後の商標は、その同一性を損なわないとはいえないものであるから、当該補正は、要旨を変更するものといわなければならない。
したがって、原審における、補正の却下の決定は、妥当なものであって、これを取り消すことはできない。
商標中のアクセント記号「´」と黒点「・」にした補正は要旨の変更にあたらないとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】補正2011-500003
【事案】
願書に記載した商標登録を受けようとする商標についてした補正が、その商標の要旨を変更する補正に当たるかどうかは、当該補正が、出願された商標につき商標としての同一性を実質的に損ない、競願者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものと認められるかどうかによって決せられるべきものであり、その判断は、当該補正前の商標と補正後の商標との外観、称呼、観念等を総合的に比較検討して、全体的な考察の下になされることを要するものというべきである。
これを本件についてみると、本願商標(以下「補正前の商標」という。)は、別掲1のとおり、「Gaudi」(「i」は、その文字上部の黒点の代わりにアクセント記号「´」が付されている。以下、該文字を「i(『´』付)」という。)及び「ガウディ」の文字を2段に横書きした構成よりなるところ、本件手続補正に係る商標(以下「補正後の商標」という。)は、補正前の商標中の「i(『´』付)」の文字を、アクセント記号「´」を用いない「i」の文字に置き換えたものであり、それ以外の文字については、文字列、大きさ、書体及び字の間隔が同一であり、全体の構成についても同一であると認められるものである。
そうすると、補正前の商標と補正後の商標とは、外観においては、「i」の文字上部におけるアクセント記号「´」と黒点「・」の違いがあるものの、それぞれの商標の構成全体からすると微差にすぎないものであり、それ以外の文字及び構成態様を共通にするものであるから、外観上極めて近似した印象を与えるものである。
そして、補正前の商標及び補正後の商標の構成中の「ガウディ」の文字は、「スペイン、カタルニアの建築家。」(「広辞苑」第六版、岩波書店、2008年)として、我が国においても一般に広く知られている「アントニオ ガウディ」の著名な略称であり、その欧文字による表記は、出身地における使用言語であるスペイン語によれば、「Gaudi(『´』付)」である(「西和中辞典」小学館、初版第5刷、1992年)。
しかしながら、該「ガウディ」を欧文字で表記する場合、我が国においては、例えば「大辞泉」(小学館、第1版第2刷、1998年)や、「コンサイスカタカナ語辞典」(三省堂、第4版第1刷、2010年)等に記載されているとおり、アクセント記号「´」を用いない「i」の文字を使用して「Gaudi」と表すことも少なからずあり、我が国におけるスペイン語の普及度を考慮すると、「Gaudi(『´』付)」又は「Gaudi」に接する取引者、需要者が、アクセント記号「´」と黒点「・」の違いの有無により、これらの語の有する意味合いが相違すると認識するものとはいい難い。
そうすると、補正前の商標及び補正後の商標からは、共に「ガウディ」の称呼及び「アントニオ ガウディ」の観念が生ずるものといえる。
してみれば、補正前の商標と補正後の商標とは、「ガウディ」の称呼及び「アントニオ ガウディ」の観念を共通にし、また、外観上も酷似した印象を与えるものであるから、補正前の商標を補正後の商標に変更することは、その外観、称呼及び観念等を総合して全体的に考察した場合において、両者の同一性を実質的に損なうものとはいえず、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものということはできない。
したがって、本願商標について、平成22年10月20日付け手続補正書による商標の補正は、本願商標の要旨を変更するものではないから、これを商標法第16条の2第1項の規定により却下した原決定は、妥当なものでなく取消しを免れない。
菓子の外箱と中身の包装形状からなる立体商標を、外箱のみにした補正は要旨の変更であるとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】補正2000-50067
【事案】
(1)願書に記載した商標登録を受けようとする商標についてした補正が、その商標の要旨を変更する補正に当たるかどうかは、当該補正が、出願された商標につき商標としての同一性を実質的に損ない、競願者等の第三者に不足の不利益を及ぼすおそれがあるものと認められるかどうかによって決せられるべきものであるが、その判断は、当該補正前の商標と補正後の商標との外観、称呼、観念等を総合的に比較検討して、全体的な考察の下になされることを要するものというべきである。
(2)これを本件についてみるに、本件補正は、別記1に示す、長方体の菓子箱及び菓子が入った状態の透明な菓子袋の立体的形状とその各々に「おっとっと」の文字や鯨を図案化したと思しき図形等を表示した構成よりなる出願当初の本願商標(以下、「補正前の本願商標」という。)を、別記2に示す、「おっとっと」の文字や鯨を図案化したと思しき図形等を表示した長方体の菓子箱のみの立体的形状よりなる商標に補正、即ち、補正前の本願商標から約半分にわたる部分を占める「菓子袋の立体的形状」部分を削除する補正をしようとしたものである。
しかしながら、当該「菓子袋の立体的形状」部分は、補正前の本願商標においては、付記的なものではなく、自他商品の識別機能を果たす部分として構成されていると認められるものであるから、これを削除した本件補正に係る商標は、補正前の本願商標の構成、態様と著しく相違することはもとより、その称呼及び観念にも少なからぬ影響を及ぼすものと判断するのが相当である。
してみれば、補正前の本願商標を本件補正に係る商標に変更することは、その外観、称呼及び観念等を総合して全体的に考察した場合において、両者の同一性を実質的に損なうものであって、競願者等の第三者が不足の不利益を被るおそれがあるものといわなければならない。
(3)したがって、本件補正は本件商標登録出願の要旨を変更するものであるから、その補正を商標法第16条の2第1項の規定により却下した原決定は、妥当であって、これを取り消す理由はない。
第 29 類「オレンジのさのう入りジュース」を第 29 類「粒状の果肉入り果実飲料」とする補正は、指定商品の範囲を変更し拡大するものとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】昭和 56 年審判第 15527 号
【事案】
本願は、第29類「果実飲料その他本類に属する商品」を指定商品として、登録出願されたものであるが、その後、指定商品について、補正書をもって「オレンジのさのう入りオレンジジュース」と補正され、さらに、「粒状の果肉入り果実飲料」と補正されたものである。
しかしながら、上記補正にかかる指定商品「粒状の果肉入り果実飲料」は、手続補正書によって減縮された指定商品「オレンジのさのう入りオレンジジュース」の範囲を変更し、かつ、拡大するものであるから、この補正は、出願の要旨を変更するものと認めざるを得ない。
指定商品「紙製」を「紙類」とした補正は明らかな誤記の訂正であって要旨の変更ではないとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】平成11年補正審判第50116号
【事案】
本願の出願当初の指定商品及び本件補正書によって補正された指定商品は、上記のとおりであるから、本件補正書は、出願当初の指定商品中第16類「紙製」を「紙類」に訂正する補正を行うものである。
そこで検討するに、出願当初の指定商品中の第16類に属する商品の表示については、冒頭の「紙製」の表示の次には「紙製包装用容器」、「紙製ごみ収集用袋」、「紙製テーブルクロス」等の紙製品が掲げられていること、であること、同別表第16類には「紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,.....観賞魚用水槽及びその附属品」が例示されていることが認められる。
以上を総合勘案すれば、該「紙製」の表示は、「紙類」と表示すべきところを誤記したものであることが明らかであり、本件補正書による補正は、明らかな誤記を訂正するものというべきである。
してみれば、本件補正書による補正は、本願の指定商品の範囲を拡大するものではなく、出願の要旨を変更するものではないというのが相当である。
「カスタマーサービス」の表示を「事務用機器の貸与,ワードプロセッサによる文書の作成,電話の取次ぎ,書類の複製」とする補正は、指定役務の範囲を縮減するにすぎず要旨の変更ではないとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】補正2002-50035
【事案】
本願に係る当初の指定役務について、原審では、「本願は、その指定役務中『宣伝,事業調査,ダイレクトメール,ホテル事業の情報の提供及び編集,カスタマーサービス,マーケティングサービス,プロモーションサービス』が不明確であって内容及び範囲が把握できないから、商標法第6条第1項及び第2項の要件を具備しない。」旨の拒絶理由を通知(平成11年2月25日付け)したことが認められる。
ところで、「カスタマーサービス」は、「顧客のニーズにあわせるサービス」の意味合いで多種多様な業界で使用されており、その表示によっては役務の内容・範囲が特定し難く不明確なものになるということができる。
そして、当該「カスタマーサービス」は、その表示からみて役務の内容・範囲が不明確であるといい得るものであるが、前記「顧客のニーズにあわせるサービス」の意味合い、原審での当該役務に対する説明及び審判請求書に添付の資料からすれば、当該役務にはホテルの宿泊客が仕事のために滞在する際に、仕事が円滑に行えるようにサポートするサービスなどの幅広い範囲の役務を包含するものと解するのが相当であり、かつ、これらの役務は独立して商取引の対象足り得る商標法上の役務といえるものである。
してみれば、「カスタマーサービス」の表示を「事務用機器の貸与,ワードプロセッサによる文書の作成,電話の取次ぎ,書類の複製」とする補正は、指定役務の範囲を縮減するにすぎないものというべきであるから、その要旨を変更するものとはいえない。
したがって、本件補正を本願に係る指定役務の要旨を変更するものであるとして商標法第16条の2第1項の規定により却下した原決定は、妥当なものでなく取り消しを免れない。
「○○の小売り」の表示を「○○の売買契約の媒介」とする補正は、指定役務の範囲を変更するものとはいえず要旨の変更ではないとされた事例
【種別】補正却下不服審判
【審判番号】補正2006-50014
【事案】
本願に係る指定役務の区分は、前記1のとおり、第35類である。
そして、商品・サービスの国際分類表における第35類の注釈には、「この類には、特に、次のサービスを含む。/他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く)、顧客がこれらの商品を見、かつ、購入するために便宜を図ること。」と記載されていることより、上記便宜を図るための役務については、第35類に属する役務というべきである。
また、願書に記載の表示からみて役務の内容・範囲が不明確であるといい得るものであって、審判請求書における請求人の説明及び前記国際分類よりすれば、小売業者が商品の所有権を購入者に移転することを約し、これに対して購入者が対価を払うという売買契約の成立を前提としている小売りは、小売業者がメーカーと最終消費者の間の売買契約を媒介しているに等しい役務であり、前記便宜を図る役務であるといい得るものである。
してみれば、「○○の小売り」の表示を「○○の売買契約の媒介」とする補正は、指定役務の範囲を変更するものとはいえない。
したがって、本願について、平成18年6月21日付け手続補正書による役務の補正が指定役務の要旨を変更するものであるとして商標法第16条の2第1項の規定により却下した原決定は、妥当なものでなく取り消しを免れない。

