「商標の詳細な説明」は「ピンと音が聞こえた後に、人の声で『あ、小林製薬』というナレーションが入る構成」とされた音商標において、複数の構成音が同時に重なっていることにつき、全体として複数の構成音を組み合わせた音と特定でき、矛盾や支障のある記載はないから第3条第1項柱書の要件を具備するとともに、音声ファイルは記載の範囲内にとどまり,記載内容も商標の音を具体的に特定しているといえるから第5条第5項の要件を具備するとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2017-12007
【審決日】平成30年11月6日(2018.11.6)
【事案】
本願商標は,以下の(1)及び(2)のとおりの構成からなり,第1類,第3類ないし第5類,第7類,第10類,第11類,第16類,第21類,第24類ないし第26類,第29類,第30類及び第32類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として,平成27年4月1日に音商標として登録出願されたものである。
そして,その指定商品については,原審における平成28年2月15日付けの手続補正書により,別掲のとおりの商品に補正された。
(1)商標登録を受けようとする商標
本商標は、ピンと音が聞こえた後に、人の声で「あ、小林製薬」というナレーションが入る構成になっており、全体で約1.5秒の長さである。(以下,この記載を「本願商標記載」という。)
(2)商標法第5条第4項の規定により同法施行規則第4条の8第3項で定める物件
平成27年4月1日付け手続補足書で提出された光ディスク(以下「本願音声ファイル」という。)のとおり
【拒絶理由】
(1)本願商標は,音商標である旨の記載があるところ,本願商標記載中「ピン」という記載について,音の種類が記載されていないため,本願商標を音商標と認めることができない。
したがって,本願商標は,商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない。
(2)本願商標の音は,本願音声ファイルにより特定されるところ,本願商標記載中「ピンと音が聞こえた後に、人の声で『あ、小林製薬』というナレーションが入る」に対して,本願音声ファイルには,「ピン」という音と「あ、小林製薬」の「あ」が同時に収録され,同時に聞こえるもので,「ピン」という音が「あ」の音より前に鳴っていると認めることができないため,本願商標記載の音と本願音声ファイルの音は一致しておらず,本願音声ファイルが本願商標を特定するものとは認められない。
したがって,本願商標は,商標法第5条第5項の要件を具備しない。
審決における判断
原査定を取り消す。
本願商標は,登録すべきものとする。
(1)本願商標の商標法第3条第1項柱書の該当性
ア 商標法第3条第1項柱書は,自己の業務に係る商品又は役務について使用をする「商標」(文字,図形,記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音を含む。商標法第2条第1項を参照。)については,商標登録を受けることができる旨を規定している。そして,音商標に係る登録出願に際しては,音商標である旨と商標登録を受けようとする商標を,願書に記載しなければならない(商標法第5条第1項及び第2項)。
そして,「音」とは,「物の響きや人・鳥獣の声。物体の振動が空気の振動(音波)として伝わって起こす聴覚の内容。」(参照:「広辞苑 第7版」岩波書店)であるところ,音商標の登録出願に際して,その願書には,聴覚により伝わる音そのものは記載できないため,文字若しくは五線譜又はこれらの組み合わせを用いて商標登録を受けようとする音を特定するために必要な事項を記載することになる(商標法施行規則第4条の5)。併せて,その記載だけでは表せられない,本願商標の聴覚による伝わる音としての具体的表現物は,物件(以下「音声ファイル」という。)として提出することになる(商標法第5条第4項)。
イ 本願商標記載は「本商標は、ピンと音が聞こえた後に、人の声で『あ、小林製薬』というナレーションが入る構成になっており、全体で約1.5秒の長さである。」と記載されているところ,本願商標が音商標である旨の記載があることを踏まえると,本願商標記載は,文字での表現(擬音語,言葉)及びその他の文章を通じて,複数の構成音(「ピン」及び「あ、小林製薬」),その組合せ(複数の音の先後)及び全体の長さ(約1.5秒)を特定してなるもので,全体として,複数の構成音を組み合わせた音からなるものであると理解できる。また,本願商標記載において,音以外の要素の表現や,音商標と理解することを妨げる特段の矛盾や支障のある記載はない。
したがって,本願商標は,商標法第3条第1項柱書の要件を具備する。
(2)商標法第5条第5項の該当性
ア 商標法第5条第5項は,音商標に係る登録出願に際しては,同条第4項の規定に基づき願書に添付が必要な音声ファイルは,願書に記載した商標登録を受けようとする商標を特定するものでなければならない旨を規定しているところ,この音声ファイルの提出目的は,願書に記載した商標登録を受けようとする商標を明確にするため,また,登録商標となった際の権利範囲の特定を安定的に実施するため(参照:「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第20版」特許庁編,発明推進協会発行)のものであるから,音声ファイルに求められる役割は,願書に記載した商標登録を受けようとする商標を,そこで文字若しくは五線譜又はこれらの組合せによって記載された範囲内,かつ,その記載内容に添う内容において,聴覚により伝わる具体的な音を特定することにあるといえる。
イ 本願商標記載は,上記(1)のとおり,全体として,複数の構成音を組み合わせた音を表してなるところ,その構成音は,「ピン」の音及び「あ、小林製薬」の人の声であり,その構成音の順序は「ピン」の音が聞こえた後に「あ、小林製薬」の声が聞こえるようになっているもので,全体の長さが「約1.5秒」となるものである。
他方,本願音声ファイルは,複数の構成音を組み合わせた音であり,その構成音は,「ピン」の擬音語で表現可能な音と,「ア、コバヤシセイヤク」と発声する女性と思しき人の声であり,その構成音の順序は「ピン」の音及び「ア、コバヤシセイヤク」の音がほぼ同時に開始し,重ねて聞こえるようになっているもので,全体の長さは約1秒半程度である。
以上を踏まえて本願音声ファイルが,本願商標記載を特定するものといえるかという観点から,本願音声ファイルと本願商標記載とを比較すると,両者はその構成音(「ピン」及び「ア、コバヤシセイヤク(あ、小林製薬)」)が概ね共通し,本願音声ファイルは,擬音語及び言葉で表された本願商標記載の具体的内容(「ピン」の音,人の声)をその範囲内において特定するものである。そして,両者の構成音の順序(「ピン」の音が「ア、コバヤシセイヤク(あ、小林製薬)」の音より先か,ほぼ同時か)については,本願商標記載は,構成音の重なりの有無を明確に言及していないこと,併せて,請求人が提出した証拠(甲5)によっても,本願音声ファイルにおいて,2つの構成音の先後が逆になることは確認できないことを鑑みれば,本願音声ファイルは,本願商標記載に照らして,その内容に明らかな誤りや矛盾があるものではない。また,音全体の長さについて,本願音声ファイルは,本願商標記載と概ね整合しているといえる。
そうすると,本願音声ファイルは,本願商標記載の範囲内にとどまり,かつ,その記載内容に沿う内容において,本願商標記載の音を具体的に特定しているものというべきである。
ウ したがって,本願音声ファイルは,商標法第5条第5項の要件を具備する。
(3)まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項柱書及び同法第5条第5項の要件を具備するというべきである。
その他,本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

