「明星 沖縄そば」は、地域団体商標として登録された周知商標「沖縄そば」と類似商標であって、同一または類似の商品について使用するから、第4条第1項第10号に該当するとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2007-1479
【審決日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【事案】
本願商標は、「明星 沖縄そば」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成18年3月28日に登録出願されたものである。そして、願書記載の指定商品については、原審において、同年12月11日付け提出の手続補正書により、第30類「小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のスープ,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のだし,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用の香辛料,小麦粉を使用した沖縄伝統のそばのめん,小麦粉を使用した沖縄伝統のそばの即席めん,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそば,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそばを含む弁当」に補正されたものである。
【拒絶理由】
原査定において、「本願商標は、その構成中に『沖縄そば』の文字を有してなるところ、該文字は、沖縄生麺協同組合(沖縄県那覇市)が商品『小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん』について使用し、本願商標の登録出願前より取引者、需要者間に広く認識され、地域団体商標として登録(登録第5008493号)されている商標『沖縄そば』と、類似の商標であり、かつ、本願商標は前記商品と同一又は類似の商品に使用するものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
審決における判断
商標法第4条第1項第10号において、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」は、商標登録を受けることができない旨、規定されている。
そして、本号でいう「需要者の間に広く認識されている商標」には、最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含むとされ、さらに、本号の規定を適用するために引用される商標は、商標登録出願の時に、我が国内の需要者の間に広く認識されていなければならない、と解されている(特許庁商標課編「商標審査基準」、「第3 第4条第1項及び第3項(不登録事由)」中、「八 第4条第1項第10号(他人の周知商標)」中、「1.2.」参照)。 そこで、以上を踏まえて本願について検討する。
(1)「沖縄そば」の周知性について
原審において引用された、商標登録第5008493号の権利者である「沖縄生麺協同組合」(沖縄県那覇市)は、同組合のウェブサイトによれば、昭和50年に「沖縄そば」を中心とする生麺の製造販売業者で設立され、現在20社の製麺事業者から組織されている事業協同組合である。
そして、「沖縄そば」について、新聞記事によれば、「<人ピープル>『沖縄そばの日』全国アピールへ/沖縄生麺協同組合」の見出しのもと、「沖縄生麺協同組合(宮城實理事長)は10月17日の『第9回沖縄そばの日』と来年の沖縄そばの日に行う『全国製麺業者沖縄大会』のPRのため14日、琉球新報社を訪れた。両催しは沖縄そばの普及拡大を目的に企画され、特に『全国-』で、そば粉を使用しない沖縄そばを全国に向けて発信しようと準備が進んでいる。同協会顧問の■肥健一さんは『沖縄そばについて若い人も県外の人にきちんと説明できるように理解を深めてほしい』と話した。注:■は土の右上にテン」との記事(2005.09.20 琉球新報朝刊 32頁)、「沖縄そばの日/2千食分 無料配布/開始前から200人ずらり」の見出しのもと、「『沖縄そばの日』の十七日、沖縄生麺協同組合(宮城實理事長)は那覇市のパレットくもじ前広場で沖縄そばの生麺(めん)二千食分を千人に無料配布した。開始前から二百人以上がずらっと列をなし、三十分足らずで配布終了となった。沖縄そばが大好きという長男の歩君(四つ)と一緒に来た比嘉奈津枝さん(三五)=中城村=は『沖縄そばは味もくどくなく、スープまでおいしい。毎日食べても飽きない』と笑顔で話した。週に二回は沖縄そばを食べるという自営業の具志堅清さん(四〇)=那覇市=は『仕事帰りに寄った。どんなタイプの沖縄そばも好き』と列に並んだ。宮城理事長は『行列を見ると沖縄そばの人気が定着しているんだという実感がわいて、励みになる。これからも沖縄そばの歴史が分かるような意義のあるそばの日にしていきたい』と喜んだ。」との記事(2005.10.18 琉球新報朝刊 28頁)、及び、「沖縄、岩手に最優秀賞/麺類普及で全麺連」の見出しのもと、「沖縄そばの日の十七日、全国製麺(めん)協同組合連合会(全麺連、米澤實会長)は麺類の普及に寄与した事業などを表彰する『組合事業活動成果』の最優秀賞として沖縄生麺協同組合(宮城實理事長)と岩手県生めん協同組合(戸田敬理事長)の二組合を発表した。(略)沖縄生麺協同組合は携帯電話のバーコード(QRコード)でアクセスできるホームページを構築し、若年者層の新規開拓に取り組んだり、ラジオや新聞などで沖縄そばをPRしたことが評価された。宮城理事長は受賞の喜びを『若者をターゲットにそばを作る教室や携帯電話を使って沖縄そばの意識浸透に取り組んできた。全国のモデル活動になればうれしい』と語った。」との記事(2006.10.18 琉球新報朝刊 9頁)が確認できる。
また、「沖縄そば」について、「沖縄生麺協同組合」のウェブサイトによれば、「『沖縄そば』は、450~500年前に中国から沖縄に伝えられた麺類が、改良を加えられて、琉球王国宮廷料理の一として、確立したものである。その後、沖縄県が本土復帰後、『沖縄そば』が蕎麦粉を一切使用していないことを理由に、『沖縄そば』の呼び名が禁止されたところ、同組合が、昔から県民に親しまれてきた歴史ある呼称である『沖縄そば』を存続しようと運動を展開し、その結果、公正取引委員会から、昭和53年10月17日正式に『沖縄そば』の呼称認定を受け、それを記念して、同組合が、平成9年度から、10月17日を『沖縄そばの日』と制定した。『沖縄そば』は、沖縄県内において1日に19万~20万食程消費されており、沖縄生麺協同組合では、さらに沖縄そばに親しみを持ってもらおうと、小学校や自治体などで沖縄そば教室を開いている。」旨の記載が確認できる。
さらに、「沖縄そば」は、沖縄生麺協同組合の構成員により、「郵便局の通販ショップ ふるさと小包」(http://www.postal-jp.com/psc/WS010D0201.do)、及び、株式会社沖縄県物産公社による「わしたショップ」(http://www.washita.co.jp/shop/search.jsp?mode=category2&val=%B2%AD%C6%EC%A4%BD%A4%D0)の通信販売において、沖縄そば用のスープ、だし及び香辛料を添えて、取引、販売されている実情にあることが確認できる。
そして、「沖縄そば」の文字は、「沖縄生麺協同組合」又はその構成員によって使用された結果、同組合又はその構成員の業務に係る商品「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」を表示し、需要者の間に広く認識されている商標として、平成18年12月8日に地域団体商標(登録第5008493号 以下「引用商標」という。)として登録されたものである。
なお、地域団体商標として商標登録を受けるための「需要者の間に広く認識されている」とは、全国的な需要者の間に認識されるには至っていなくとも、一定範囲の需要者、例えば、隣接都道府県に及ぶ程度の需要者に認識されていることが必要とされている」(特許庁商標課編「商標審査基準」、「第7 第7条の2(地域団体商標)」中、「一 第7条の2第1項柱書」中、「6.(1)」参照)。
また、前記商標登録第5008493号(地域団体商標登録願2006-29446)において、「沖縄生麺協同組合」が提出した平成18年7月28日付けの手続補正書によれば、「『沖縄そば』は、昭和50年10月から平成18年3月までの間に、653,144,500食が生産され、同組合の構成員である、株式会社サン食品が平成17年に年越しそば用として、沖縄県外に『沖縄そば』95,000食を出荷していた。」旨の記載が確認できる。
そうすると、前記事実より、「沖縄生麺協同組合」は、昭和50年頃、「沖縄そば」の呼称存続のために、公正取引委員会に対して要請活動を行ない、呼称の使用の継続が認められたあとは、それを記念して平成9年度に「沖縄そばの日」を制定し、その後「沖縄そばの日」における、「沖縄そば」の無料配布や、小学校等における「沖縄そば教室」の開催、さらに、若年者層の新規開拓や、ラジオ、新聞等における「沖縄そば」に関するPR活動等が評価され、平成18年に全国製麺協同組合連合会から、麺類の普及に寄与したことにより最優秀賞として表彰されるなど、「沖縄そば」に関する広告宣伝や普及活動に尽力してきた様子を窺い知ることができる。
また、同組合の構成員により、昭和50年頃から、約30年間に653,144,500食分の「沖縄そば」が生産され、現在、沖縄県内において1日に19万食ないし20万食程消費されると共に、通信販売等により、県内はもとより、県外に向けても、取引、販売されている状況にあることも確認できる。
さらに、地域団体商標として、商標登録されるための周知性の要件と、商標法第4条第1項第10号を適用するために引用される商標の周知性の要件とは、ほぼ同じであるといえる。(特許庁商標課編「商標審査便覧」42.110.01「地域団体商標を包含する通常商標の出願に関する商標法第4条第1項第10号等の適用について」参照)。
そうとすれば、「沖縄そば」の文字は、「沖縄生麺協同組合」又はその構成員により、商品「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」に使用されてきた結果、同組合の業務に係る商品「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」を表示するものとして、本願商標の登録出願時には、需要者の間に広く認識されている商標というべきである。
(2)本願商標と引用商標「沖縄そば」(登録第5008493号)の類否について
本願商標は、「明星 沖縄そば」と標準文字で表してなるところ、「明星」の文字及び「沖縄そば」の文字の間に一文字分の間隔があることから、視覚上分離して看取されとみるのが自然であり、また、本願商標より生ずる「ミョウジョウオキナワソバ」の称呼も、冗長であることに加えて、本願商標全体をもって、特定の意味合いを有するとも認められないものであり、さらに、本願商標を、必ずしも常に一体不可分にのみ認識されなければならない格別な事由も見い出せないものである。
そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、前述したとおり、需要者の間に広く認識されて周知な商標である「沖縄そば」の文字に強く印象を留める場合も決して少なくないというべきであるから、本願商標から、該文字を捉えて「オキナワソバ」の称呼を生じるというべきである。
一方、引用商標は「沖縄そば」と横書きで表してなるところ、これより、「オキナワソバ」の称呼を生じるものである。
また、外観をみると、本願商標「明星 沖縄そば」と、引用商標「沖縄そば」とは、「明星」の文字の有無に差異はあるものの、「沖縄そば」の構成文字を同じくするものであるから、これに接する取引者、需要者に近似した印象、記憶、連想等を与えるものといえる。
そうとすれば、本願商標「明星 沖縄そば」と引用商標「沖縄そば」は、外観上の違いは有するものの、共に「沖縄そば」の構成文字からなる近似性を有するものであり、また、「オキナワソバ」の称呼を共通にする商標であることから、全体として相紛れるおそれのある類似する商標というべきである。
(3)本願指定商品と引用商標「沖縄そば」(登録第5008493号)の指定商品の類否について
本願の指定商品は、前記1のとおり、第30類「小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のスープ,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のだし,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用の香辛料,小麦粉を使用した沖縄伝統のそばのめん,小麦粉を使用した沖縄伝統のそばの即席めん,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそば,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそばを含む弁当」であり、引用商標の指定商品は、前記2のとおり、「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」である。
そうすると、本願指定商品中「小麦粉を使用した沖縄伝統のそばのめん,小麦粉を使用した沖縄伝統のそばの即席めん,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそば」と、引用商標の指定商品「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」とは、同一又は類似する商品である。
また、前記3(1)のとおり、通信販売等における「沖縄そば」の取引状況によると、「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」と一緒に、沖縄そば用のスープ、そば用のだし、そば用の香辛料等がセットで販売されており、さらに、「沖縄生麺協同組合」の構成員により、そばのめんと共にそば用のだしが製造、販売されている状況も見受けられる。
そして、本願指定商品中「調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそばを含む弁当」には、「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」が盛り付けられていることが明らかであって、また、そばの麺のみを単独で食されるとは考えづらいことから、少なくとも、そばの麺と一緒に、そば用のスープ、そば用のだし、そば用の香辛料等も前記商品に含まれているものと容易に推認される。
しかして、本願指定商品中「小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のスープ,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のだし,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用の香辛料,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそばを含む弁当」と、引用商標の指定商品「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」は、必ずしも生産、製造業者を同一にするものとは限らないが、市場における取引等を勘案すると、「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」は、「小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のスープ,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のだし,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用の香辛料」とセットで、又は、「調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそばを含む弁当」に含まれて、流通、販売されている実情にあることから、前記指定商品の用途、取引者、需要者等の相当部分が共通している極めて密接な関連性を有している商品ということができる。
そうとすれば、本願商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品であるから、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品について使用するものというべきである。
(4)まとめ
以上のとおり、本願商標「明星 沖縄そば」は、「沖縄生麺協同組合」の業務に係る「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」を表示するものとして、本願商標の登録出願時に、需要者の間に広く認識されている商標「沖縄そば」と類似する商標であって、その商品「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」又はこれらに類似する商品について使用をするものであると判断するのが相当である。
(中略)
(6)結論
したがって、本願商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとして、拒絶した原査定は妥当なものであって、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
「京生菓子」の文字を普通に用いられる方法で書した商標が、第30類「京都産の生菓子」を指定商品として地域団体商標の出願をし、出願人またはその構成員が商標を使用していることは認められるが、その業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると証拠からは認められず、第7条の2第1項の要件を具備しないとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2007-25090
【審決日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【事案】
本願商標は、「京生菓子」の文字を書してなり、第30類「京都産の生菓子」を指定商品として、平成18年4月1日に地域団体商標として登録出願されたものである。
【拒絶理由】
原査定は、「本願商標は、『京生菓子』の文字を普通に用いられる方法で書してなり、第30類『京都産の生菓子』を指定商品とするところ、提出された資料からは、出願人(組合)又はその構成員が商標を使用していることは認められるが、商標が出願人又はその構成員の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている(例えば、隣接都道府県程度)ものとは認めることはできない。したがって、本願商標は、商標法第7条の2第1項の要件を具備しない。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
審決における判断
1 商標法第7条の2第1項該当性の有無
(1)平成17年法律第56号により改正された商標法は、地域ブランドを適切に保護することにより、事業者の信用の維持を図り、産業競争力の強化と地域経済の活性化を支援することを目的として、地域の名称及び商品の普通名称のみからなる商標等について、地域団体商標として商標登録を受けることを可能とする地域団体商標制度を導入した。
(2)そして、新たに商標法第7条の2を規定し、同条における地域団体商標の商標登録が認められるための要件としては、出願人が法人格を有する事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合であり、設立根拠法において構成員たる資格を有する者の加入を不当に制限してはならない旨が規定されていること等の他、以下のような要件を具備することが必要であると解される。
ア 本願商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている(例えば、隣接都道府県程度)こと
本願商標が、商標法第7条の2第1項の要件を具備し、地域団体商標の登録が認められるか否かは、実際に使用している商標(以下「使用商標」という。)及び商品、使用開始時期、使用期間、使用地域、当該商品の生産又は販売の数量、並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合勘案して、本願商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている(例えば、隣接都道府県程度)ものと認められるか否か(いわゆる「周知性」の獲得の有無)によって決すべきものである。
イ 本願商標と使用商標の同一性が認められること
商標法第7条の2第1項の要件を具備するためには、使用商標は、本願商標と同一(「京生菓子」)であることを要し、本願商標と同一でないもの(例えば、「京の生菓子」、「京都生菓子」「京生菓子祭り」のように構成文字が異なるもの)は含まないと解すべきである。 なぜなら、同条項は、地域の名称及び普通名称のみからなる商標等について、本来登録できないものを、商標法第3条第2項よりも登録要件を緩和し、同条項の適用に当たり実務上要求される商標の認識範囲及び程度よりも範囲が狭くまた程度が低い場合であっても、商標登録を認める(社団法人発明協会発行 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第17版 平成20年5月30日発行)旨の規定であるが、本願商標と使用商標の同一性について緩和したものではなく、実際に商品に使用されていないものまで商標登録を認めるのは妥当でないからである。そして、登録により発生する地域団体商標に係る商標権が通常の商標権と同様に全国的に及ぶ更新可能な独占権であることをも考慮すると、同条項は、厳格に解釈し適用されるべきものである。
(3)そこで、以上(2)ア及びイの見解に立って検討する。
ア 本件各証拠中、本願商標についての需要者の認識に関わる証拠としては、以下のものがある。
(ア)日刊紙(京都新聞)に掲載された「京の生菓子」又は「京生菓子」の広告(甲第2号証の1ないし4、甲第3号証、甲第7号証の1ないし32)
京都新聞に掲載された「京の生菓子」又は「京生菓子」についての広告は、最も古い広告で2001年(平成13年)3月2日(甲第7号証の1)であり、最も新しい広告で2006年(平成18年)7月19日(甲第7号証の32)である。
請求人である「京都府生菓子協同組合」によって、「生菓子」の需要が高くなる時季(概ね、3月(ひな祭り)、5月(端午の節句)、6月(水無月)、7月(土用の入り)、10月(中秋のお月見)の年5回)にあわせて、商品の広告を掲載したことが認められる。
ただし、平成20年4月25日の口頭審理における請求人の陳述によれば、使用商標は、当初「京の生菓子」が使用されており、「京生菓子」が使用されたのは、平成17年5月5日の京都新聞へ掲載した広告からである。
(イ)チラシ(甲第4号証、甲第10号証ないし甲第12号証、甲第14号証、甲第15号証)
甲第4号証、甲第10号証及び甲第11号証は、2005年(平成17年)に京都市内で開催された「京生菓子祭り」と称する生菓子の実演販売等を行うイベントに関するチラシであり、その主催者として請求人である「京都府生菓子協同組合」が掲載されている。請求人の構成員中一部の者が同イベントに出店していることが認められる。
甲第12号証は、構成員である「京都菓子工業株式会社」の支店オープン記念に関する広告チラシであり、そのチラシには「京生菓子ブランドが妙典サティにやってきた!」と記載されており、同社の名称として「京菓子処京絵巻総本舗」と記載されている。
甲第14号証及び甲第15号証は、いずれも「大京都展」と称する物産展の広告チラシであり、それぞれ島根県松江市及び新潟県上越市で開催されたものである。広告では、構成員の一部もイベントに出店していることがうかがわれるものの、実際に販売された商品及び使用された商標は不明であり、イベントの主催者や共催者として請求人の名称は記載されていない。
(ウ)周知性の証明書(甲第6号証)
1枚の用紙からなり、上部に「証明書」と記載され、その文面は、本願商標を添付の上、「上記商標は京都府生菓子協同組合(所在地)が商品『京生菓子』について1950年頃から現在に至るまで継続して使用しているものであり、当該商標が前記商品に使用された結果、京都府生菓子協同組合並びに同組合の組合員の業務に係るものであることが取引者及び需要者間において広く認識されていることを証明いたします。」というものである。
署名者は、京都府菓子工業組合の代表理事川勝三郎氏であり、証明書の日付けは、平成18年8月30日と記載されている。
(エ)商品に貼付するシール、包装用袋(甲第18号証の1ないし甲第24号証)
甲第18号証の1は、オレンジ色の縦長の長方形の枠内に黄色の3つの円形を表した図形を背景として、縦書きで筆文字風に大きく「みたらし団子」と表し、その右上に小さくオレンジ色の縦長長方形の中に本願商標「京生菓子」を白抜きで表した6枚綴りのシールである。 甲第18号証の2ないし4は、構成員である「寿菓舗」に同シールが10,000枚納品されたことを示す納品書等の書類の写しである。見積書の日付は2005年10月20日と記載されている。
甲第19号証の1、2は、オレンジ色の縦長の長方形の枠内に桃色の図形を背景として、縦書きで筆文字風に右上から「旬の」と表し、行を変えて大きく本願商標「京生菓子」を黒色で表し、左下の隅には正方形の枠内に「寿」の文字を表した押印風の図形を配した構成からなる15枚綴りのシールと、同シールの見積書である。見積書の宛先は、構成員である「寿菓舗」御中と、見積書の日付は、平成17年4月21日と、それぞれ記載されている。 甲第20号証の1は、緑色の円形内に縦書きで3列に、右には「手づくり」、真ん中には本願商標「京生菓子」、その左には「葵餅謹製」と黒色の筆書き風の文字で表した2枚綴りのシールである。
甲第20号証の2ないし4は、上記シールの納品書であり、宛名は株式会社京菓子司葵餅様と記載され、2000年2月19日には15,000枚、2001年11月30日には30,000枚、2006年4月3日には30,000枚が納品されたことがうかがえる。
ただし、甲第20号証の2の商品名の欄には、「京の生菓子 別注シール 葵餅様」と記載されており、他の2つの納品書に記載された「京生菓子手づくり 別注シール葵餅様」とは異なっていることが認められる。
(オ)構成員の店舗で商標を付した商品が販売されている写真(甲第24号証ないし甲第26号証の3)
甲第24号証は、構成員である「寿菓舗」において、「みたらし団子」、「豆大福」、「焼き餅」、「桜餅」及び「花見団子」に本願商標「京生菓子」が記載されたシールが貼付されている写真である。
甲第25号証は、構成員である株式会社京菓子司葵餅の商品「生菓子」の写真であるところ、該商品に貼付されたシールには「京の」を赤色で表し、真ん中に大きく「生菓子」と黒色で表された構成よりなり、本願商標「京生菓子」は使用されていない。
甲第26号証の1ないし3は、構成員である京都菓子工業株式会社の商品「生菓子」に、本願商標「京生菓子」が記載されたシールが貼付されている写真である。
ただし、いずれのシールにも請求人の名称又は構成員の名称は記載されていない。
(カ)インターネット上のホームページ(甲第27号証ないし甲第35号証)
「京生菓子」を製造販売している構成員及び構成員以外の者(甲第30号証ないし甲第32号証)のホームページや店舗の紹介、京都の土産物として「京生菓子」を紹介する記事等が掲載されている。
(キ)その他の甲号証
甲第5号証は、地域団体商標出願趣意書である。地域団体商標「京生菓子」を請求人が地域団体商標として権利を取得し、他府県産商品に対抗するとともに、組合の活性化及び組合員の拡充に繋げたいとの趣旨が請求人の理事長名で記載されている。
甲第8号証は、組合員向けの「平成17年11月20日 京都府生菓子協同組合 第57号 組合だより」である。組合や構成員の活動状況が掲載されている。
甲第9号証は、平成18年6月12日及び平成18年6月22日付「菓業食品新聞」の記事写しである。請求人の理事長他の人事及び記念事業等に関する記事が掲載された平成18年6月12日の記事と、「京生菓子祭り」と称するイベントの紹介記事が掲載された同22日付けの記事である。
甲第21号証の1ないし甲第23号証は、商品の包装用「手提げ紙袋」の現物及び納品書、「京生菓子用ナイロン袋」の納品書等であるが、「紙袋」については「京乃生菓子」と記載されており、本願商標の使用が確認できない。
また、「ナイロン袋」については、如何なるものであるのか現物が提出されていないため確認できないし、「京の生菓子」と「京生菓子」が混在している旨が納品書の説明として記載されており、本願商標「京生菓子」が実際に使用された数量は不明である。
甲第36号証は、2007年3月5日付け「日経流通新聞」に掲載された「食の地域ブランドランキング」の特集記事である。
本特集記事は、地域団体商標として出願された商標(地域ブランド)の食品分野391銘柄について、消費者とバイヤーを対象に意識調査を実施したうえで、その実力度をランキングとして作成したものである。
「京生菓子」は、「消費者」を対象とする調査の「菓子」(27銘柄)部門において、全国で第10位にランクされている。
イ 以上の証拠に基づき、本願商標が使用をされた結果、自己(京都府生菓子協同組合)又はその構成員の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている(例えば、隣接都道府県程度)かを検討する。
(ア)日刊紙「京都新聞」に掲載された広告について
本広告については、当初使用されていた商標は「京の生菓子」(甲第2号証の1、2、甲第7号証の1ないし21、23、27)であり、本願商標の使用とは認められないこと、請求人によれば「京生菓子」(甲第2号証の3、4、甲第7号証の22、24ないし26、28ないし32)が使用されたのは平成17年5月5日からであり、「京生菓子」が使用されてから僅か3年しか経過していないこと、及び、掲載された新聞も地方紙「京都新聞」一紙のみであることから、滋賀や大阪でも当該新聞が販売されていることを考慮しても、その周知の範囲は、京都府内を中心とするものと認められる。
(イ)イベントのチラシについて
各種イベントを通じて、「生菓子」が販売されていることはうかがえるものの、チラシの発行部数や開催されたイベントの集客数、本願商標が商品に付された具体的状況等が明らかではなく、各種のイベントを通じた広告・宣伝活動を行っていることは認められるが、当該活動によってどの程度本願商標が請求人組合又はその構成員の業務に係る商品であることを表示するものとして広く認識されるようになったのかは不明である。
したがって、当該資料によって、商標の周知度を認定するための広さ(商標が使用された地域的範囲)、深さ(イベントを継続して行うことによる商標の認知度)を推し量ることは困難である。
(ウ)周知性の証明書
請求人は、本証明書を発行した京都府菓子工業組合の構成員と認められ、かつ、本証明書は、構成員である請求人の求めに応じて本願商標の周知性を証明したものであり、証明者がいかなる根拠に基づき、取引者、需要者の間で本願商標が周知な商標と認められていることを証明したのか、その判断について客観性が乏しいものである。
(エ)商品に貼付するシール及び写真
「みたらし団子」シールについては、本願商標が記載されており、少なくとも10,000枚が納品されていることが認められる。また、実際に使用された写真も証拠として提出されており、本願商標が使用されている事実は確認できるものである。
しかしながら、当該シールが納品されたのは一構成員である「寿菓舗」のみであり、同社で商標が付された商品が販売されたとしても、京都府内の店舗のみで販売されたのか、隣接都道府県程度でも販売されたのか、その販売場所は一切不明である。
また、10,000枚がどの程度の期間にわたって商品に付されたのか不明であり、継続して使用されている事実も確認できないものである。
さらに、シールを貼付した商品の販売場所及びその売り上げ数も不明であり、どの程度の需要者に本願商標が浸透したのかを推し量ることができないものである。
「旬の京生菓子」シールについては、見積書しか提出されておらず実際にシールが何枚納品されたか不明であり、その使用期間、シールを貼った商品の販売場所及び売り上げ数も提出されておらず、提出された写真によって使用された事実は確認できるにしても、その周知性を認めることはできない。 「手づくり京生菓子」シールについては、少なくとも2001年に30,000枚、2006年には30,000枚がそれぞれ納品されており、継続的に使用されていたことがうかがえるものである。しかしながら、実際に使用されたことを示す写真等は提出されておらず、その販売場所、シールを貼付した商品の売り上げ数等についても明らかではなく、どの程度の需要者に本願商標が浸透したのかを推し量ることができないものである。
提出された写真によれば、前記2つとは別の「京生菓子」のシールも使用されているようであるが、当該シールの使用期間、使用枚数、当該シールを貼付した商品の販売場所、販売数は一切不明である。したがって、商標を使用した事実は確認できるものの、その周知性を判断することはできない。
(オ)インターネットに掲載された「京生菓子」に関する記事について請求人は、「現在においては、インターネット等の普及により、従来とは比較にならない程の情報の広がりがあり、特に京都のような歴史や伝統の文化・技術を有する地域に対しては、観光客として京都を訪れた人のリピーターとしての需要者も多く、このような者によるブログ等による情報も、現在では商品の購買の重要な一翼を担っている。また、請求人の構成員である製造業者は小規模で個人営業的な業者が多数を占めているが、近年では製造業者においてもホームページを開設するなどして、従来に比較して『京生菓子』に関する情報を発信する機会も増している。したがって、製造業者自身によるホームページの開設や需要者等のブログによる情報の提供により、日本全国に多くの需要者を作り上げると同時に、本願商標の需要者への認知度を高めている。」として各種インターネットで「京生菓子」が紹介され、全国の不特定多数の者から閲覧されており、本願商標が周知されている旨を主張している。
しかしながら、いずれのホームページにおいても、京都の土産物としての「京生菓子」を紹介するものであり、本願商標が実際に如何なる商品に使用されているのかは不明であり、提出されたインターネットの記事をもって本願商標が使用をされた結果、請求人又はその構成員の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている(例えば、隣接都道府県程度)とは認めることはできない。
また、製造業者である構成員も自らのホームページ等において、自己の販売する商品に本願商標「京生菓子」を使用していると推認できるものは、甲第27号証(御菓子司 栄泉堂のホームページ)のみであり、他のホームページでは、本願商標とは異なる「京生菓子司」が店名として使用されているもの(甲第28号証及び甲第29号証)や、むしろ、構成員以外の者によって「京生菓子」が使用されている事実も見受けられる(甲第30号証ないし甲第32号証)ものであるから、これらのインターネットの記事によって本願商標の周知性(例えば、隣接都道府県程度)を認めることはできない。
以上のとおり、提出された各証拠を総合勘案しても、本願商標が使用をされた結果、自己(請求人、京都府生菓子協同組合)又はその構成員の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている(例えば、隣接都道府県程度)ものとは認めることはできない。
2 請求人の主張に対する判断
ア 商品の特殊性について
請求人は、本願商標の指定商品である「生菓子」は、その商品本来の特質から日持ちせずに、他の商品のように流通過程に乗せて全国的に販売するというようなことはできないし、手づくりが基本であるため大量に生産することもできない。したがって、その周知性の判断に当たっては、商品の特性も十分考慮されるべきである旨を主張する。
確かに、「生菓子」という商品の特質はあるにしても、請求人も行っている全国各地に於ける物産展等のイベント(島根県松江市(甲第14号証)及び新潟県上越市(甲第15号証))や各都道府県が情報発信や各地域の特産品の販売等を目的として運営するアンテナショップ等において、商品を販売又は宣伝する等の活動を通じて商標を周知にしていくことも可能であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
イ 販売地が限定された商品の周知性について
本願商標が付される商品の特性として、その販売地が仮に京都に限定されたとしても、京都は日本文化の歴史・伝統技術等の発祥の地ともいうべきであり、我が国の観光地としても日本一の地位を築いており、全国各地から観光客が訪れている。そうした観光客が商品購買の目当てとするものは、京都ならではの商品であり、むしろ、京都でしか販売されていない「京生菓子」等産地が限定されたものになる。そのことは本来の地域団体商標(いわゆる地域ブランド)のもつ本質であって、京都府内でしか製造又は販売されてこなかったからといって、その周知性までも京都府内に限定されることにはならない旨を主張する。
請求人の主張のとおり、全国各地の特産品の中には、生産地や生産量も限られ、その希少価値ゆえに、かえって有名になり、地域ブランドとして確立しているものが存在することは認め得るものである。
しかしながら、地域ブランドを地域団体商標として登録するためには、可能な限り客観的な統計資料等の証拠をも参酌しながら、当該商標の周知性を判断することが重要であるところ、確かに京都は観光客も多く、その一部が京都の土産物として「京生菓子」の商標が付された商品を購入することが予想されたとしても、実際に商標が付された商品の購入者、販売量及び販売期間などが明らかになっておらず、どの程度の需要者に本願商標が周知になっているのか不明な段階で、ある程度その地域の商品の名称として有名であるからといって、全国的に権利範囲が及ぶ商標を拙速に登録することはできない。
したがって、客観的な証拠に基づかない請求人の主張は採用できない。
3 口頭審理における審尋及び証拠提出の機会
当審判体は、平成20年4月25日の口頭審理において、証拠の特定、説明及び確認等を行うとともに、期日を指定して、周知性に関する追加の証拠を提出する機会を与えたが、請求人から何ら主張及び追加の証拠の提出はなかった。

