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商標「ゆっくり茶番劇」についての検討 -2022年05月16日

「ゆっくり茶番劇」という商標についてのニュースがインターネット上を賑わせていたので、何事かと思って調べてみました。
ニュースサイトや、その他のいくつかのサイトを閲覧して事態の概要は理解しましたが、筆者はこの件についてはまったく詳しくありません。
あくまでも商標登録を業務として行っている弁理士としての観点から、この問題について記載しています。

問題とされている商標「ゆっくり茶番劇」

今回、ネット上で問題とされ話題になっている商標は、下記のものです。

特許情報プラットフォームの「商標検索」 外部サイトへで検索してみました。

検索の結果、該当する商標が、登録第6518338号 外部サイトへです。


商標「ゆっくり茶番劇」


登録番号: 第6518338号
登録日: 令和4(2022)年 2月 24日
登録公報発行日: 令和4(2022)年 3月 4日
出願番号: 商願2021-114070
出願日: 令和3(2021)年 9月 13日

商標: ゆっくり茶番劇
標準文字商標

商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第41類
電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,移動図書館における図書の供覧及び貸与,オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。),図書の貸出し,書籍の制作,オンラインで提供される電子書籍及び電子定期刊行物の制作,コンピュータを利用して行う書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,インターネットを利用して行う映像の提供,映画の上映・制作又は配給,オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないものに限る。),ビデオオンデマンドによるダウンロード不可能な映画の配給,インターネットを利用して行う音楽の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供

異議申立期間は終了しているが・・・

上記の特許情報プラットフォームから、該当する商標の画面でリンクされている商標公報を見ると、下記のような内容です。


2022051602.jpg


商標法 外部サイトへでは、
「(登録異議の申立て)
第四十三条の二 何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。」

とされています。

異議申立は、商標登録出願の審査が終了し、登録となった後に、登録すべきでない所定の理由があることを理由として、その取り消しを求める手続です。
登録すべきでない理由は、商標法に列挙されています。

そこで商標公報を見ると、その発行日は2022年3月4日となっており、これを書いている5月16日時点ではすでに2か月以上が経過しているため、異議申立期間は終了しています。
(なお、異議申し立てをした人がいるかどうかは、今日の時点ではわかりません。)

ただし2か月が経過していても、登録後に商標を無効にする無効審判という手続きがあります。
無効とは、商標登録が初めからなかったとすることです。
無効にすべきである理由も、商標法に列挙されています。

あくまでも法律的な手続きですので、感情論で無効にすることはできず、商標法上の無効理由に該当することを説明し立証して、特許庁の審判官に認められる必要があります。

ニュースを見た限りでの問題の所在

冒頭に述べましたように、筆者はこの件についての事前知識はほとんどなく、「ゆっくり茶番劇」という言葉は初めて知りました。
「ゆっくり動画」という言葉はなんとなく知っていました。
またその由来についても知りませんでしたが、「東方Projectの二次創作」であるということを今回ニュースその他のサイトで読み、そのキャラクターのAA(アスキーアート)などは何度も見たことがあると思いました。

人気動画ジャンル「ゆっくり茶番劇」を第三者が商標登録し年10万円のライセンス求める ZUNさん「法律に詳しい方に確認します」ねとらぼ 外部サイトへ
によれば、事態の流れは下記の通りです。

「動画投稿者の『柚葉』さんが、動画サイトで人気のジャンル『ゆっくり茶番劇』の商標権を取得し波紋を呼んでいます。今後ゆっくり茶番劇の商標を使用する際は、商標使用許可申請書の提出と年間で10万円(税別)の使用料が必要になると主張しています。

ゆっくり茶番劇は、同人サークルである上海アリス幻樂団が展開する『東方Project』の二次創作。同じ東方Projectの二次創作“ゆっくり”シリーズからの派生系となります。

そんなゆっくり茶番劇の商標権を取得した柚葉さんは東方Projectの原作スタッフではないため、『東方Projectの二次創作ガイドラインに反しているのでは』『ゆっくり茶番劇が衰退する』など批判的な声が寄せられました。」
※その後、使用料については撤回表明(2022/5/17追記)

キャラクターなどの権利者とは関係のない第三者が商標登録することはどうなのか、今回の商標について金銭を請求することへの戸惑い、一定のルールの下でネット上での使用を許可された言葉やコンテンツの使用に支障が出るのでは、といった懸念については理解できます。

ただし、下記のニュースにあるような行為は明らかに問題です。

「ゆっくり茶番劇」商標登録問題、取得者が“被害届”提出の意思表明 現在も混乱続くENCOUNT 外部サイトへでは、
「弾幕シューティングゲームを中心とした作品群「東方Project」の二次創作コンテンツ「ゆっくり茶番劇」が第三者であるYouTuberの柚葉さんによって商標登録され、騒動となっている。その中で、一部から暴力的なメッセージが届いている(後略)」

商標権は、正当な法的手続き(行政処分)により設定登録されたものであることにご注意

そして何よりも、商標登録出願自体は、正当な法的手続きの下で行われ、特許庁の審査官による審査が行われ、登録査定という正式な行政処分によって設定され登録されたものであることには、注意しなければなりません。

ゆっくり茶番劇の商標登録を撤回させたいため署名お願いします!change.org 外部サイトへ
では、「ゆっくり茶番劇」商標登録の撤回を求めるため、賛同する署名集めが行われています。
その理由として、下記の記載がありました。

「ゆっくり茶番劇とは?

ゆっくり茶番劇というのは
『東方Project』に関する二次創作動画のカテゴリーの1つ。
ゆっくり実況のゆっくりボイスや棒読みちゃん、そして立ち絵を使った物語を取り扱っている。物語としては、幻想入りをはじめ、学園もの、日常から歴史IFまで存在。コメディー色の強い物語から涙を誘う感動ものまで多種多様である。 (pixiv引用)
これを柚葉氏が商標登録いたしました。
ゆっくり茶番劇には東方キャラ、霊夢/魔理沙などが使われており、東方のガイドラインには以下のように書かれています

条件
・東方Projectの二次創作である事を明記してください。
禁止事項
・東方Projectのイメージを損なう内容
・他者の権利を侵害する、または侵害するおそれのある内容
・東方Projectの公式コンテンツであると誤解をまねく内容
・スクリーンショット、プレイ動画以外のゲーム素材を使用、公開する行為
・原作ゲームのエンディングを公開する行為
・原作コンテンツや二次創作物を利用し、個人の思想を発信する行為
・二次創作物を、その二次創作者に無断で再利用する行為
・その他過剰な性的表現や、特定の個人、団体、人種などを中傷する内容等、社会通念上著しく不適応だと判断される行為(東方Projectの二次創作ガイドラインより)」

署名者リストは
・特許庁
・裁判所
に提出するともありました。

しかし、前記したように、正式な行政行為として登録された商標を撤回するには、正式な法的手続きとしての無効審判によるしかありません。
署名を受け取った特許庁が、それに基づき撤回するということはありえません。

そして無効とするためには、商標法で規定される数々の無効理由のうち、どれかに該当することを説明し立証しなければなりません。
無効にされない限り、あるいは無効にされることが確定するまでは、正当な商標権が存在することに変わりありません。

筆者は、署名行為自体を直ちに否定するものではありません。
しかし実効性のある方法としては、無効審判は利害関係者なら誰でもできるので、関係する誰かが代表者となって、弁理士に相談し、賛同者は無効理由を立証するための証拠集めをする等の方法のほうが有効であろうかと思います。

なお、無効審判を請求する利害関係者は、「ゆっくり茶番劇」という言葉を商標権に関する分野に使用する動画制作者、動画配信プラットフォーム事業者などであれば該当します。
単なる動画視聴者の場合には利害関係があるかは何とも言えず、結論的なことを書くことができません。

無効審判には、最低限、特許庁に支払う特許印紙代55000円と、弁理士費用がかかります。
弁理士費用は一般に20万円以上はかかると思いますが、賛同者により集めることは可能な金額かと思います。また、弁理士との間の窓口は代表者数名以内に絞ることが良いと思われます。

※動画配信プラットフォーム事業者などが無効審判を請求する場合には、そちらに任せた方がよいでしょう。弁理士もいると思いますし、無効審判が乱立してはかえって時間がかかってしまうおそれがあります(2022/5/17追記)。

なお、商標権が存在していても、言葉として使用可能かどうかという問題もあり、これらの点については後述します。

商標を無効にできるのか、無効理由の検討

商標法 外部サイトへでは、無効審判について下記のように規定されています。

(商標登録の無効の審判)
第四十六条 商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。
この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたとき。
(以下、略)」

無効にするための理由(上記の条文)の中で思いつくところとしては、ざっと下記の条文に該当するかどうかです。

指定商品・役務の慣用商標(商標法第3条第1項第2号)
慣用商標は、登録されません。

品質表示等の記述的商標(商標法第3条第1項第3号)
商品の産地、販売地、品質等の表示又は役務の提供の場所、質等の表示は、登録されません。

識別力のない商標(商標法第3条第1項第6号)
需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標は、登録されません。

公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法第4条第1項第7号)
公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、登録されません。

他人の周知商標と同一・類似の商標(商標法第4条第1項第10号)
他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標、またはこれに類似する商標であって、その商品・役務と同一・類似の商品または役務について使用をする商標は、登録されません。
他人の商標が未登録のものであっても適用されます。

他人の業務と混同のおそれがある商標(商標法第4条第1項第15号)
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標は、登録されません。

不正目的で出願された他人の著名商標(商標法第4条第1項第19号)
他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標は、出願時に不正に目的で使用するものであるときは登録されません。不正の目的とは、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいいます。

(当サイト拒絶理由一覧より)

無効理由の検討・商標「ゆっくり茶番劇」は他人の商標といえるのか?

問題となっている今回の商標登録を担当した弁理士の見解は、ニュース記事によれば、
「『もし単に周知商標を独占することで利益を得ようとしているのであれば不正の目的(商標法第4条第1項第19号)に該当する可能性があるでしょう』として、『商標権者と本商標は自身の商標であるはずと思われる方との間で話し合い等が行われ、場合によっては無効審判がなされるでしょう』との見解を示している。」
とあります。

たしかに、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で、他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であれば、無効理由として成立します。

しかし、ここで問題となるのは、「他人の業務に係る商品・役務を表示する」商標であるかどうかです。

たとえば、特定の他人の商標として、「ニコニコ動画」とは無関係な第三者が「ニコニコ動画」を商標登録すれば、ニコニコ動画運営者ではない他人の商標であるため、下記のいずれかの無効理由に該当することでしょう。
複数の、あるいは全部の無効理由に該当することもありえます。

しかし、たとえば
東方Project(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』) 外部サイトへ
東方Projectの二次創作ガイドライン(更新日:2021年7月8日) 外部サイトへ
動画配信サービスへの投稿に関するガイドライン(更新日:2021年7月8日) 外部サイトへ
を見ても、商標「ゆっくり茶番劇」が、今回の商標権者とは他人の商標であるとはわかりません。

インターネット上で、「ゆっくり茶番劇」という言葉が何万件、いや何億件検索されようが、「他人の商標として周知」かとは別な話です。(このあたり、SNS上では誤った理解が多く見られます。専門家と称する人の記事でさえ、あてになりません。)

(※他人の周知商標などの保護は、商標法第4条第1項第10号や第15号等の商標審査基準を見ても、商品・役務の出所を示す商標には、その特定の事業者(商標所有者)の信用が蓄積されることを前提としています。これに対し、インターネットでの使用例は、特定の事業者の、特定の商品・役務について使用されている使用例とは限りません。したがって単なる検索結果数だけでは判断できません。2022/5/17追記)

そもそも商標ではなく、単なる題号や、単なるジャンル名ではないのか?という点については後述します。

東方Projectの二次創作であるかどうかということでは、禁止事項から類推する限りでは、
キャラクターその他の「東方Projectの公式コンテンツ」、「ゲーム素材」、などを利用した二次創作物について、「上海アリス幻樂団は、東方Projectに関する動画配信をファン活動(二次創作)の一環として捉え、個人の方が自由に配信を行うことを許可します。」とされていることがわかります。

ただ、「ゆっくり茶番劇」という言葉については、他人の商標というよりは、むしろ、
ゆっくり実況(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』) 外部サイトへに、
「ゆっくり実況(ゆっくりじっきょう)とは、音声合成ソフトを使用したゲーム実況や車載などの動画である。」
とあるような、「二次創作動画のカテゴリーの1つを示す言葉」として、インターネット上ほかで広く一般的に使用されている言葉ではないのでしょうか?

仮にそうだとした場合には、

他人の周知商標と同一・類似の商標(商標法第4条第1項第10号)
他人の業務と混同のおそれがある商標(商標法第4条第1項第15号)
不正目的で出願された他人の著名商標(商標法第4条第1項第19号)

を理由として、無効にすることは少々難しいようにも思えます(結論的には言えません)。

 ※この点で筆者の意見は、今回の出願を担当した代理人と意見が異なりますが、他の同業者についてのこれ以上の言及は控えます。
「ゆっくり茶番劇」商標登録騒動で爆破予告 代理人の事務所が被害明かす「直ちに通報致しました」(J-CASTニュース) 外部サイトへ

無効理由の検討

商標の無効審判を請求した場合に、審理を行い、結論としての審決(商標の無効か、登録維持か)を出すのは、特許庁の3名の審判官の合議体です。

したがって、上記の無効理由の条文に該当するかどうかは、無効審判の過程で決められるため、無効審判請求時点では、無効理由として主張することは可能です。

ただ、これまでに検討した限りでは、

指定商品・役務の慣用商標(商標法第3条第1項第2号)
品質表示等の記述的商標(商標法第3条第1項第3号)
識別力のない商標(商標法第3条第1項第6号)

公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法第4条第1項第7号)

のいずれかを無効理由として主張することが、より可能性が高いと思われます。

たとえば、
動画配信のジャンルなどで、動画制作者、動画視聴者らの間で、広く慣用され使用されている商標である、
配信等する動画のジャンルを示す商標にすぎないものである、
その他、広く一般的に使用されている言葉であるため、商標としてどこの誰の物を示すか識別できない商標である、
その他、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する商標である、
といった主張と、そのことを立証するための証拠により、無効理由を説明する
ということになるでしょう。

特に
「五、第3条第1項第3号(商品の産地、販売地、品質その他の特徴等の表示又は役務の提供の場所、質その他の特徴等の表示)」商標審査基準[PDF] 特許庁 外部サイトへ
では、

「(イ)『「放送番組の制作』、『放送番組の配給』の役務について、商標が、提供する役務たる放送番組の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合には、役務の「質」を表示するものと判断する。
(例) 役務「放送番組の制作」について、商標『ニュース』、『音楽番組』、『バラエティ』
(ウ)『映写フィルムの貸与』、『録画済み磁気テープの貸与』、『録音済み磁気テープの貸与』、『録音済みコンパクトディスクの貸与』、『レコードの貸与』等の役務について、商標が、その役務の提供を受ける者の利用に供する物(映写フィルム、録画済みの磁気テープ、録音済みの磁気テープ、録音済みのコンパクトディスク、レコード等)の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合は、役務の「質」を表示するものと判断する。
(例) 役務『録音済みコンパクトディスクの貸与』について、商標『日本民謡集』
役務『映写フィルムの貸与』について、商標『サスペンス』」
とあります。

無効審判の理由とされるべき最有力の条文は、上記の商標法第3条第1項第3号であると筆者は考えます。
※次点として商標法第3条第1項第6号

実際に無効審判を請求するとなる場合には、その他の理由も補強的あるいは予備的に主張することになるでしょう。

特に、登録されている商標の指定役務のうち、「インターネットを利用して行う映像の提供,映画の上映・制作又は配給,オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないものに限る。)」などについては、上記の商標法第3条第1項第3号に該当する、しかし「娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供」などについては当てはまらない、というようなことが十分にありえます。
この点からも、考えられるいくつかの無効理由を主張しておくことは大切です。

そもそも、商標登録の有無以前に、商標「ゆっくり茶番劇」は使用を禁止することができるものなのか?

何度も例に出して恐縮ではありますが、「ニコニコ動画」を例にして考えてみます。
映像配信サービスの名称として、「ニコニコ動画」は商標です。

このような場合、商標権が有効に存在すれば、その商標を映像配信サービスの名称として、許可なく第三者が使用することを禁止できます。
商標権使用の許諾の対価として、金銭を受領することにも問題はありません。

それとは別に、配信される映像のタイトル(題号)に、「ニコニコ動画」という文字が含まれている場合には、商標を使用しているといえるでしょうか?
映像作品の出所を示すような形で使用すれば、商標権で禁止される使用形態となる場合はありえます。
しかし、「ニコニコ動画の楽しみ方」、「ニコニコ動画限定配信・商標の解説」などといったタイトルの動画については、商標として使用しているわけではなく、単なる映像作品の題号であるといえます。
商標として使用しているわけではなく、とは、自分の事業の商品名やサービス名などとして使用しているわけではないということです。

今回のニュースや解説記事で、商標「ゆっくり茶番劇」があるから、タイトル等で使用できないという内容を見かけました。
たしかに筆者は、今回の件については、「ゆっくり茶番劇」という言葉が、作品のジャンル名などとして、どの程度一般に使用され周知されているか等の予備知識がなく、確定的なことまでは言えません。

しかし、商標法には、下記の条文があります。
たとえ商標権が存在していたとしても、その商標を使用できる場合についてです。

(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には、及ばない。

(中略)
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
(中略)
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

これらは、上記の登録できない商標である、

指定商品・役務の慣用商標(商標法第3条第1項第2号)
品質表示等の記述的商標(商標法第3条第1項第3号)
識別力のない商標(商標法第3条第1項第6号)

に対応する規定です。

先ほどの商標審査基準でも、
「役務の提供を受ける者の利用に供する物(映写フィルム、録画済みの磁気テープ、録音済みの磁気テープ、録音済みのコンパクトディスク、レコード等)の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合は、役務の「質」を表示するもの」
であるとされていました。

※動画配信サイトで、今回の商標「ゆっくり茶番劇」が、動画を識別し分類するタグとして利用されていたことも、このことを補強する事実です。ジャンル名であると同時に、特定の出所を示す商標とは性格が少々異なるものであることがわかります。(2022/5/17追記)

動画配信のジャンルなどで、動画制作者、動画視聴者らの間で、広く慣用され使用されている言葉である、
配信等する動画のジャンルを示す言葉にすぎないものである、
その他、広く一般的に使用されている言葉であるため、商標としてどこの誰のものを示すか識別できない言葉である、
といった場合には、商標権の効力が及ばない、つまりたとえ商標権が存在していたとしても、その言葉を使用できるということも、商標法では規定されているのです。

登録されるべきでない商標が登録されてしまった場合でも、それを普通に使いたい使用者を保護するためにある規定です。
実際に使用する際には、弁理士などの専門家に、どのような形で使用するか等を明示して相談するなどした方がよいとは思います。

関連する判定請求事件

商標「ゆっくり茶番劇」を使用しても、商標権侵害にならないかどうか。
この点に関連する判定請求事件を最後に紹介します。

判定とは、商標法第28条に、
「商標権の効力については、特許庁に対し、判定を求めることができる。」
とあるもので、商標権の効力の範囲にあるかどうかの判断を求める手続です。

なお、下記の読みにくい文章中、「本件商標」とは登録されている商標のこと、「イ号標章」とは使用されているものが商標権侵害になるかどうか争われている商標(下記画像のもの)のことです。

判定請求番号 判定2017-600048
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 商標判定公報
発行日 2019-03-29
種別 判定
判定請求日 2017-10-26
確定日 2019-02-01

事件の表示 上記当事者間の登録第5300367号商標の判定請求事件について,次のとおり判定する。
結論 商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」に使用するイ号標章は,登録第5300367号商標の商標権の効力の範囲に属しない。

理由
第1 本件商標
本件登録第5300367号商標(以下「本件商標」という。)は,「続ける技術」の文字を標準文字で表してなり,平成19年11月5日に登録出願,第9類「録音済みのコンパクトディスク」及び第41類「セミナーの企画・運営又は開催,書籍の制作」を指定商品及び指定役務として,同22年2月12日に設定登録されたものである。

第2 イ号標章
本件判定請求人(以下「請求人という。」)が,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」に使用するイ号標章は,別掲のとおりの構成からなるものである。

2022051604.jpg


第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の判定を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」について使用するイ号標章について
(1)イ号標章の使用について

請求人が,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」に使用するイ号標章は,別掲のとおり,縦書きで右から順に大きく「続ける」と「技術」の文字を併記し,「続ける」と「技術」との間に縦書きで右から順に小さく「やめられない!」と「ぐらいスゴイ」の文字を併記して表されるものである。
甲第3号証,甲第4号証,甲第14号証及び甲第15号証は,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」についてイ号標章が使用されている状態を示す写真及びウェブサイトの写しである。
なお,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」について使用するイ号標章の使用開始日は,遅くとも平成29年4月19日である。

(2)イ号標章が使用されている商品・役務について
甲第3号証等から,イ号標章が使用された出版物が(紙の)書籍として販売されていることは明らかである。また,甲第4号証,甲第14号証及び甲第15号証等から,イ号標章が使用された電子出版物があることは明らかである。
一般に,電子出版物は,販売サイトで購入された後,スマートフォンやパソコンなどのブラウザを通してオンラインで閲覧する場合と,スマートフォンやパソコンなどにダウンロードして閲覧する場合がある。
電子出版物の販売サイト「BookLive」(甲15)でも,請求人が発行するイ号標章が付された電子出版物が販売されている。そして,「BookLive」では,購入した電子出版物をオンラインで閲覧することもダウンロードして閲覧することも可能である(甲16)。なお,閲覧時は,書籍の表紙がブラウザ又は専用アプリケーションでスクリーンに表示される(甲14)。
このことから,イ号標章が付された電子出版物は,その閲覧方法によって,商標法上の商品「電子出版物」について使用されているといえる場合と,役務「電子出版物の提供」について使用されているといえる場合があることが明らかである。
以上より,イ号標章は,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」について使用されているといえる。

2 判定の必要性について
請求人は,被請求人が,平成29年6月22日に差し出した「通知書」を受け取った(甲6の1)。通知書の内容は,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」についてイ号標章を使用する請求人の行為が,本件商標の商標権の侵害等に該当するというものであった。請求人は,請求人の行為が侵害行為には該当しない旨を記載した回答書を平成29年7月14日に送付した(甲6の2)。
しかしながら,それでもなお平成29年8月7日付けの通知書において,被請求人は,請求人の行為を本件商標権の侵害と強弁している(甲6の3)。
請求人は,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」について使用するイ号標章の使用は,本件商標権の侵害ではないと考えているため,判定を請求した。

(中略)

第5 当審の判断

1 商標権の効力の範囲について
商標権の効力は,商標権の本来的な効力である専用権(使用権)にとどまらず,禁止的効力(禁止権)をも含むものであるから,指定商品と同一又は類似の商品についての登録商標と同一又は類似の商標及び商品の使用に及ぶものである(商標法第25条,第37条)が,同時に同法第26条第1項各号のいずれかに該当する商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には,及ばないとされており,同項第6号には,「前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」と規定されている。

2 イ号標章について
(1)イ号標章の構成及び使用商品・役務

イ号標章は,別掲に示すとおり,縦書きで右から順に,「続ける」,「やめられない!」,「ぐらいスゴイ」及び「技術」の各文字を4行に分けて配した構成からなる。「続ける」及び「技術」の各文字は,共に同じ書体かつ大きさで上下両端をそろえて当該文字幅程度の行間を空けて大きく配されており,「やめられない!」及び「ぐらいスゴイ」の各文字も,共に同じ書体かつ大きさで上端をそろえて,「続ける」及び「技術」の各文字の長さ内に収まるように字下げして小さく配されており,構成全体としてまとまりのよい外観を呈している。
そして,イ号標章は,請求人が発行(提供)する商品「書籍」(甲3,4)及び商品「電子出版物」(甲4,14,15)並びに役務「電子出版物の提供」(甲4,14,15)について使用されているものである。

(2)商品「書籍」についてのイ号標章の使用
イ号標章は,商品「書籍」については,その表(おもて)表紙の上半分程の面積内に大きく表示されているものであり,イ号標章中の「技」と「術」との文字の間には,「菅原洋平」の文字が中央部に縦書きで,その左横に「作業療法士」の文字が縦書きで小さく表示されており,当該表紙の最下部中央には,「KADOKAWA」の欧文字が横書きで小さく表示されている(甲3)。
また,商品「書籍」の背には,上から順に,「やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術」(「やめられない!ぐらいスゴイ」の文字部分は,「続ける技術」の文字部分よりも小さな文字で表示されている。),「菅原洋平 作業療法士」(「作業療法士」の文字部分は「菅原洋平」の文字部分よりも小さな文字で表示されている。)の各文字が縦書きで表示され,最下部に「KADOKAWA」の文字が横書きで小さく表示されており(甲4),これらの背文字内容からすれば,当該書籍について,その需要者は,「やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術」が書名,「菅原洋平 作業療法士」が著者名及びその肩書並びに「KADOKAWA」が発行者(出版社)である請求人(株式会社KADOKAWA)を表示したものであると理解するのが通常である。
以上によれば,商品「書籍」について使用されるイ号標章(「続ける」,「やめられない!」,「ぐらいスゴイ」及び「技術」)は,当該書籍の書名(「やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術」)すなわち題号として,当該書籍の内容を示すために当該書籍の表表紙に表示されているものであって,出版社である請求人の商品であることを識別させるための商標として当該書籍に付されたものではないことが認められる。

(3)商品「電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」についてのイ号標章の使用
イ号標章は,商品「電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」については,これら「電子出版物」の販売又は提供を行うインターネット上の電子書籍ストアにおける電子出版物の広告画像に,また,これら「電子出版物」の表示画面(映像面)における表紙相当部分(商品「書籍」の表表紙に相当する部分である。以下「表紙相当部分」という。)に,それぞれ表示されているものである(甲14,15)。
すなわち,前者の電子書籍ストアにおける電子出版物の広告画像においては,上記(2)の商品「書籍」の表表紙部分と同様の構成態様からなるものと思われる画像(イ号標章を含む。)が当該広告画像として使用されており,その右横には,「やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術」の文字と「作者:菅原洋平」の文字が2行に表示され,下部に「出版社:KADOKAWA/中経出版」と表示されている(甲15)ことから,当該広告画像におけるイ号標章は,当該電子出版物の題号として需要者に理解されるものであると認められる。また,後者の表紙相当部分においては,上記(2)の商品「書籍」の表表紙部分と同様の構成態様(ただし,「KADOKAWA」の文字はない。)からなるものと思われる画像(イ号標章を含む。)が映像面に表示され,当該映像面のヘッダー部分の中央部には,「やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術」の文字が表示されている(甲14)ところ,当該映像面におけるイ号標章は,前者の電子書籍ストアからイ号標章が当該電子出版物の内容を示すための題号として使用されていることを既に承知している需要者が,当該電子出版物を購入後又は提供されている間に視認するものであるから,やはり当該電子出版物の題号として需要者に理解されるにすぎないものであると認められる。
以上によれば,商品「電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」について使用されるイ号標章(「続ける」,「やめられない!」,「ぐらいスゴイ」及び「技術」)は,当該電子出版物の題号(「やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術」)として,当該電子出版物の内容を示すために当該電子出版物(の提供)の広告画像及び表紙相当部分に表示されているものであって,出版社である請求人の商品又は役務であることを識別させるための商標として当該電子出版物(の提供)に付されたものではないことが認められる。

(4)判断
上記(2)及び(3)のとおり,イ号標章は,請求人が発行(提供)する商品「書籍」及び商品「電子出版物」並びに役務「電子出版物の提供」について使用されているものであるが,いずれも書籍の内容を示すための題号並びに電子出版物(の提供)の広告画像及び表紙相当部分において電子出版物の内容を示すための題号(共に「やめられない!ぐらいスゴイ 続ける技術」)として表示されているものであって,出版社である請求人の商品又は役務であることを識別させるための商標として付されたものではないものと認められるから,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標であるというべきであって,商標法第26条第1項第6号に該当する。
なお,本件商標の指定商品及び指定役務は,上記第1のとおり,第9類「録音済みのコンパクトディスク」及び第41類「セミナーの企画・運営又は開催,書籍の制作」であって,請求人がイ号標章を使用する商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」とは,いずれも非類似の商品及び役務であると認めるのが相当であるから,これらの商品及び役務について使用するイ号標章は,商標法第26条第1項第2号及び同項第3号に該当するものとはいえない。

3 まとめ
以上のとおり,商品「書籍,電子出版物」及び役務「電子出版物の提供」に使用するイ号標章は,商標法第26条第1項第6号に該当するから,本件商標とイ号標章との比較をするまでもなく,本件商標の商標権の効力の範囲に属しないものである。
よって,結論のとおり判定する。


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