「SHINAGAWA INTER CITY」及び「品川インターシティ」の文字を2段書きした商標が、「INTER・CITY」、「インター・シティ」他の各引用商標とは類似せず、商標法第4条第1項第7号に該当しない、引用商標は著名ではないから商標法第4条第1項第8号にいう「他人の名称の略称」に該当しない、周知であるといえるためには、全国的でなくとも数県にまたがる程度の相当に広い範囲で多数の取引者・需要者に知られている必要があり、商標法第4条第1項第10号、第15号には該当しないとされた事例
【種別】審決取消訴訟の判決
【訴訟番号】東京高平成13年(行ケ)430号
【事案】
本件商標は、「SHINAGAWA INTER CITY」及び「品川インターシティ」の文字を2段書きして成り、第36類「建物の貸与、建物の売買、土地の売買、土地の貸与」等を指定役務とするものである。
原告は、「インター・シティ株式会社」の商号で不動産業を営んできている者である。
原告は、本件商標の登録を無効とすることについて審判を請求したが、審決では、下記の通りの審決がなされた。
・「INTER・CITY」、「INTER CITY」、「インター・シティ株式会社」、「インターシティ」、「インター・シティ」の各商標は、本件商標の登録出願前から我が国又は外国において広く認識された商標であると認めることはできないから、商標法4条1項10号、15号、19号のいずれにも該当しない。
・本件商標は、原告の名称である「インター・シティ株式会社」を含むものでもなく、原告の略称である「インター・シティ」及び「インターシティ」を著名であると認めることはできないことから、原告の著名な略称を含むものであるとすることもできないので、商標法4条1項8号に該当しない。
・本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形によって成る商標、社会公共の利益に反し社会の一般道徳観念に反するような商標、他の法律によってその使用が禁止されている商標のいずれにも当たらないこと、引用商標が本件商標の登録前に取引者・需要者間に広く認識されているとはいえないこと、本件商標と引用商標とは類似しない商標であることから、他人の使用商標を盗用したものであると認めることはできないことなどから、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と認めることはできず、商標法4条1項7号に該当しない。
この審決に対し、無効にすべきでないとした審決の取消を求めた事例である。
【無効理由】
商標法第4条第1項第7号
商標法第4条第1項第8号
商標法第4条第1項第10号
商標法第4条第1項第15号
商標法第4条第1項第19号
【判決における判断】
商標法4条1項10号、15号による周知商標の保護は、登録主義をとる我が国の商標法の下で、例外的に、未登録商標であっても、それが周知である場合には、既登録商標と同様に、これとの間で出所の混同のおそれを生じさせる商標の登録出願を排除することを認めようとするものである。しかも、商標登録出願が排除されると、出願人は、当該出願商標を、我が国のいずこにおいても、登録商標としては使用することができなくなる、という意味において、排除の効力は全国に及ぶものである。これらのことに鑑みると、周知であるといえるためには、特別の事情が認められない限り、全国的にかなり知られているか、全国的でなくとも、数県にまたがる程度の相当に広い範囲で多数の取引者・需要者に知られていることが必要であると解すべきである。
首都圏における人口は約4000万人に上ること、首都圏においては、多数の業者によって膨大な不動産情報が発信されていることを前提にして考えた場合、引用商標が首都圏において取引者・需要者の間に広く知られているという状態が生まれるためには、原則として、引用商標につき、取引者・需要者に知らせるための活動が、平均的な不動産業者が一般に行う程度を大きく超えて行われることが必要であり、そうでない限り、たとい、長年使用してきたとしても、上記状態は生まれることはないというべきである。ところが、原告の主張するところを前提にしても、引用商標につき上記のような活動がなされたものということはできず、本件全証拠によっても、このような活動がなされたことを認めることはできない。引用商標につきこのような活動がなくても上記状態が生まれ得ると考えさせるものは、本件全証拠を検討しても見いだすことができない。
したがって、引用商標の周知性が認められない以上、本件商標が、商標法4条1項10号に該当しないとした審決に誤りはない、というべきである。
原告は、「インターシティ」、「INTERCITY」も原告の名称であると解すべきである、と主張する。しかしながら、原告は株式会社であり、株式会社については、その商号が商標法4条1項8号にいう「他人の名称」に該当し、株式会社の商号から株式会社の文字を除いた部分は、同号にいう「他人の名称の略称」に該当するものと解すべきである(最判昭和57年11月12日・民集36巻11号2233頁参照)から、本件においては、商標法4条1項8号の「他人の名称」に該当するのは、原告の商号である「インター・シティ株式会社」であり、そこから株式会社の名称を除いた「インター・シティ」又は「インターシティ」、「INTERCITY」は、「他人の名称の略称」に該当するにすぎない。
本件商標が原告の名称である「インター・シティ株式会社」を含むものでないことは、明らかである。また、原告の略称である「インター・シティ」、「インターシティ」及び「INTERCITY」が著名であると認めることができないことは、引用商標の周知性について前に述べたところから明らかである。本件商標を、商標法4条1項8号に該当するものとすることはできない。
原告は、被告が、引用商標を盗用して本件商標を登録したものであるから、商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する、と主張する。
甲第4号証の1、第5、第6、第129、第133、第136号証によれば、原告と被告とは同一地域である東京都港区で長年営業を行ってきた同一業者であって、同じ不動産情報会社の会員であることが認められ、これにより、被告は、本件商標の登録出願時において、「インター・シティ株式会社」が原告の名称であることを十分知っていたと認めることができる。
しかしながら、本件商標中の「インターシティ」、「INTERCITY」の語は、前記のとおり、一般的な英語に由来する語であるがゆえに、多数の者に用いられやすい語であるということができることに照らすと、被告が、上記語を採用したのは、原告による使用の事実と関係してのことではなく、上記一般的な語としての側面に着目してのことであった可能性が高いものというべきである。
本件商標に用いられた「インターシティ」、「INTERCITY」の語は、他の語と結合することによって、容易に自他識別力を失う可能性が大きく、その自他識別力は弱いものといわざるを得ないから、「品川」以外の他の地名や一般形容詞を付加することによって、別個の観念が発生したものとして容易に別個の商標権が成立することが認められやすいというべきであり、原・被告を含め、このような性質を有する語を自己の商標として選択した者は、その語が他の者の商標の一部として上記のように使用されることを、甘受しなければならないものというべきであることは、既に説示したとおりである。
以上のとおりであるから、たとい被告が本件商標出願時に原告の名称を十分知っていたとしても、被告が「インターシティ」、「INTERCITY」の語を含む本件商標を採用し、登録したことが、「原告の名称を盗用したもの」として、商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する、とすることはできないというべきである。
「iOffice2000」の商標は、マイクロソフトの商標である「Office2000」の著名性にただ乗りする意図で、不正の目的で出願したものとされた事例
【種別】審決取消訴訟の判決
【訴訟番号】東京高平成13年(行ケ)205号
【事案】
本件商標は、「iOffice2000」の文字と数字からなり、第9類「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ、その他の電子応用機械器具」を指定商品とするものである。
【拒絶理由】
商標法第4条第1項第19号
【判決における判断】
認定の事実及び各証拠によれば、Office95とOffice97及びOffice2000の語は、Officeという文字と西暦とを組み合わせたものであるから、それだけでは、自他商品識別力が十分であるとは認められない性質のものであるものの、宣伝、広告、マスコミによる情報伝達、雑誌等の各種の記事等によって、遅くとも本件商標の出願前には、米国及び日本において、マイクロソフトの著名なオフィスソフトの商標として既に著名な商標となっていたものと認められる。
「i」の文字単独では、ローマ字のアルファベットであり、特有の意味を有しないこと、「Office2000」の部分は、マイクロソフトの著名な商標と同一であることからすると、本件商標がその指定商品に使用されるときは、取引者・需要者は、場合によっては、語頭にある「i」の文字に気付かず、本件商標から「Office2000」のみを看取し、観念するおそれがあると認められる。また、称呼においても、「アイオフィスニセン」の称呼は、比較的冗長であることからすると、後半部分から「オフィスニセン」との称呼をも生じ得るものと認められる。
そうとすれば、「Office2000」が既に著名な商標となっていることを十分に知りながら、これと類似する本件商標を出願し、その後これを使用したものであるから、原告は、マイクロソフトの商標である「Office2000」の著名性にただ乗りする意図で、本件商標の出願をし、オフィスソフトと密接に関連することが明らかなグループウエアにこれを使用したものと認めざるを得ず、また、原告が本件商標を使用する結果として、マイクロソフトの「Office2000」の著名性が希釈化されるおそれが大きいと認めざるを得ない。
したがって、原告がその商品であるグループウエアに本件商標を使用することには、商標法4条1項19号にいう「不正な目的」があったものという以外になく、これと同旨の決定の認定・判断には、何等誤りはない。
六面体の各面を九つのブロックに区分したパズルの形態は不正競争防止法の保護の対象となるものではないとされた事例
【種別】民事訴訟の判決
【訴訟番号】東京地平成9年(ワ)第12191号
【事案】
「六面体であってその各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」という商品形態は、六面体の各面を九つのブロックに区分し、各ブロックを適宜回転させて各面の配色をいったん崩した後再び各面を同一色にそろえるなどして遊ぶパズル玩具であるという原告商品の有する機能ないし効果と必然的に結びついていると認められるから、右基本的構成態様は、不正競争防止法の保護の対象となるものではないとされた事例
【判決における判断】
商品の形態は、商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが、ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し、かつ、それが長期間にわたり特定者の商品に排他的に使用され、又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより、その形態が特定者の商品であることを示す表示であると需要者間に広く認識されるようになった場合には、商品の形態が保護されることがあるものと解されるところ、商品の形態が商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、その形態は、本来、発明・考案として特許法等により一定期間独占的地位を保障されることを通じ保護されるべきものであり、仮にこのような形態に同法上の保護を与えるならば、本来、特許法上等所定の期間の経過後は広く社会全体の公有財産に帰属するものとして万人が自由に利用できることになるはずの技術について、特定者が独占的に支配することを認めることとなる。即ち、商品自体でない別の媒体に出所標識機能を委ねる場合とは異なり、商標法が目的とする出所の混同の防止を超えて、商品に利用されている技術思想そのものについて、特許法上等の保護を超えた独占的・排他的支配を認めることになり、技術の自由な利用によりもたらされる産業の発展や商品の自由な流通を阻害する結果、公共の利益に反する。 原告の商品の基本的構成態様、すなわち「六面体であってその各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」という商品形態は、六面体の各面を九つのブロックに区分し、各ブロックを適宜回転させて各面の配色をいったん崩した後再び各面を同一色にそろえるなどして遊ぶパズル玩具であるという原告商品の有する機能ないし効果と必然的に結びついていると認められるから、右基本的構成態様は、不正競争防止法の保護の対象となるものではない。