「マツモトキヨシ」という言語的要素を音楽的要素に乗せて発している人の声を含む音商標が、ドラッグストア「マツモトキヨシ」のテレビコマーシャルのフレーズとして広く知られており、本願商標は出願当時からドラッグストアの店名、企業名を連想させ、一般に人の氏名を指し示すものとして認識されないから、商標法第4条第1項第8号の「他人の氏名」を含む商標に該当しないとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2018-8451
【審決日】平成26年10月21日(2014.10.21)
【事案】
商願2017-7811拒絶査定不服審判事件についてした令和2年9月9日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(令和2年(行ケ)第10126号、令和3年8月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
第1 本願商標及び手続の経緯
本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第35類及び第44類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、平成29年1月30日に音商標として登録出願されたものである。
本願は、平成29年9月20日付けで拒絶理由の通知がされ、同年12月1日に意見書及び手続補正書が提出され、指定役務については、別掲2のとおりに補正されたが、同30年3月16日付けで拒絶査定がされたものである。
これに対して、平成30年6月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

【拒絶理由】
原査定は、「本願商標は、音楽的要素及び『マツモトキヨシ』という言語的要素からなる商標記載欄の記載、音商標である旨の記載、『マツモトキヨシ』という言語的要素を音楽的要素に乗せて発している人の声が録音されている音声ファイルから把握されるものである。そして、『マツモトキヨシ』を氏名とする者が現存することが認められるから、本願商標は、他人の氏名を含む商標といわなければならず、かつ、その他人の承諾を得ているものとも認めることができない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
審決における判断
原査定を取り消す。
本願商標は、登録すべきものとする。
1 商標法第4条第1項第8号の趣旨
商標法第4条第1項第8号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護すること、すなわち、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがないという利益を保護することにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決、最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決)。
この趣旨に照らせば、言語的要素を音楽的要素に乗せてなる商標が、一般に人の氏名を指し示すものとして認識される場合には、当該商標は、「他人の氏名」を含む商標として、その承諾を得ているものを除き、同号により商標登録を受けることができないと解される。
2 本願商標について
(1)本願商標の構成について
本願商標は、別掲1のとおり、音楽的要素及び「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる商標記載欄の記載、音商標である旨の記載、「マツモトキヨシ」という言語的要素を音楽的要素に乗せて発している人の声が録音されている音声ファイルから把握されるものである。
(2)請求人について
ア M氏は、昭和7年12月に、千葉県松戸市小金に請求人の前身となる「松本薬舗」を開業した(甲3)。同26年4月に、店名が「薬局マツモトキヨシ」と改称され、同29年1月に、法人組織である有限会社マツモトキヨシ薬店が設立され、同50年4月に、これが株式会社マツモトキヨシに改組された(甲3、甲41、甲42、甲45)。
イ 昭和62年7月に、上野のアメ横に、これまでの薬局のイメージを刷新し、新商品をはじめ豊富なアイテム数と、化粧品のテスターを揃えた都市型のドラッグストア「マツモトキヨシ」をオープンし、店舗を拡大していき、平成6年3月に、千葉県柏市に、郊外型ドラッグストアをオープンし、業態を拡大した(甲3、甲41、甲45)。
ウ 平成7年3月期に、売上高は1017億7800万円となり、売上高日本一のドラッグストアとなり、店舗数は216店となった(甲3)。
エ 平成19年10月に、請求人である株式会社マツモトキヨシホールディングスが設立され、請求人は、ドラッグストア・保険調剤薬局等のチェーン店経営を行う小売事業を核に、卸売事業、管理サポート事業を行っている(甲1)。
オ 平成29年3月末時点で、請求人等が運営するドラッグストア「マツモトキヨシ」は、45都道府県に1555店舗、マツモトキヨシポイントカード(メンバーズカード)の会員数は約2440万会員、「マツキヨ」アプリは約550万ダウンロード、マツモトキヨシLINE公式アカウントの友だち数は約1760万人である(甲3)。また、令和元年3月末時点で、同店舗数は、47都道府県に1717店舗、同会員数は約2900万会員、同アプリは約1350万ダウンロード、同友だち数は約2100万人に増加した(甲44、甲45)。
カ ブランドコンサルティング会社であるインターブランド社による日本発のブランドを対象としたブランド価値評価ランキング「Best Japan Brand」において、「マツモトキヨシ」は、2016年から2021年まで、日本のドラッグストアとしてナンバーワンの評価を獲得した(甲5、甲46~51)。
(3)商標の使用状況について
原告は、「マツモトキヨシ」又は「Matsumoto Kiyoshi」をその構成に含む登録商標を、店舗の看板、店内、ウェブサイト、オンラインストア等に継続的に使用している(甲3、甲28、甲29、甲41、甲42、甲44、甲45)。
(4)テレビコマーシャルの状況
株式会社マツモトキヨシは、平成8年4月からテレビコマーシャルを開始した(甲3、甲41)。
平成8年3月から同19年12月の間に制作されたテレビコマーシャルにおいては、概ね「マツモトキヨシ」の文字からなる商標が画面に表示され、「マツモトキヨシ」又は「Matsumoto Kiyoshi」をその構成に含む商標が店舗の外観等に用いられている状況が映し出されており、テレビコマーシャルの終盤で本願商標と同一又は類似の音が、女性、男性、子ども等、様々な声で発声されているものである(甲43)。
3 商標法第4条第1項第8号該当性について
前記2(2)ないし(4)によれば、株式会社マツモトキヨシが昭和62年に上野のアメ横において都市型ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店舗をオープンした後、店舗数を拡大し、郊外型ドラッグストアに業態を拡大していったこと、請求人等がそれらの店舗の看板、店内、ウェブサイト、オンラインストア等に「マツモトキヨシ」又は「Matsumoto Kiyoshi」を構成に含む商標を継続的に使用してきたこと、本願の出願直後である平成29年3月末時点で、ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店舗数は、全国45都道府県で1555店舗、マツモトキヨシポイントカードの会員数は約2440万人に達しており、「マツキヨ」アプリのダウンロード数、マツモトキヨシLINE公式アカウントの友だち数も相当数あり、その後も増加していること、また、「マツモトキヨシ」のブランドは、インターブランド社による2016年度及び2017年度のブランド価値評価ランキングでドラッグストアとして日本でナンバーワンブランドの評価を獲得したこと、平成8年から開始されたドラッグストア「マツモトキヨシ」のテレビコマーシャルでは、女性、男性又は子どもの声の音色等で本願商標と同一又は類似の音が発声され、放映されたことが認められる。
以上から、本願商標を構成する言語的要素である「マツモトキヨシ」の表示は、本願商標の出願当時(出願日:平成29年1月30日)、ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名や株式会社マツモトキヨシ、原告又は原告のグループ会社を示すものとして需要者、取引者に認識されていたこと、「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む本願商標と同一又は類似の音は、テレビコマーシャルにおいて使用された結果、ドラッグストア「マツモトキヨシ」のテレビコマーシャルのフレーズとして広く知られていたことが認められる。
そうすると、本願商標の登録出願当時、「マツモトキヨシ」という言語的要素と音楽的要素からなる本願商標に接した需要者、取引者は、本願商標から、ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」、企業名としての株式会社マツモトキヨシ、原告又は原告のグループ会社を連想、想起するというべきであり、「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」、「松本潔」、「松本清司」等の人の氏名を連想、想起するものと認められないから、本願商標は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものとはいえない。
そして、前記1のとおり、言語的要素を音楽的要素に乗せてなる商標が一般に人の氏名を指し示すものとして認識される場合には、当該商標は、「他人の氏名」を含む商標として、その承諾を得ているものを除き、同号により商標登録を受けることができないと解されるところ、本願商標は、一般に人の氏名を指し示すものとして認識されないから、商標法第4条第1項第8号の「他人の氏名」を含む商標に該当しない。
4 まとめ
以上のとおりであるから、本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するものとした原査定は、取り消しを免れない。
その他、本願についての拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
商標「金比羅製麺」は、「宗教法人金刀比羅宮」の略称として出願時から現在まで全国的に知られた「金毘羅」の文字を含み、「宗教法人金刀比羅宮」から登録することについての承諾を得ていないから、商標法第4条第1項第8号に該当するとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2013-18640
【審決日】平成26年10月21日(2014.10.21)
【事案】
本願商標は、別掲1のとおり、「金比羅製麺」の漢字を横書きしてなり、第29類「カレーうどんのもと,油揚げ,魚介類の天ぷら,かつお節,干しえび,焼きのり」、第30類「うどんのめん,その他穀物の加工品,めんつゆその他の調味料,香辛料」及び第43類「飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、平成24年2月9日に登録出願されたものである。

【拒絶理由】
原査定は、「本願商標は、香川県仲多度郡琴平町所在の宗教法人金刀比羅宮の著名な略称である『金比羅』の文字をその構成中に含むものであり、かつ、その者の承諾を得ているものとは認められない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨判断し、本願を拒絶したものである。
審決における判断
1 商標法第4条第1項第8号について
商標法第4条第1項第8号において、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」は、商標登録を受けることができない旨規定している。
そして、 最高裁平成16年(行ヒ)343号判決(判決日 平成17年7月22日)において、この規定の趣旨は、「人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても、一般に氏名、名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には、本人の氏名、名称と同様に保護に値すると考えられる。」旨、判示されている。
2 商標法第4条第1項第8号の該当性について
(1)本願商標の構成について
本願商標は、前記1のとおり、「金比羅製麺」の文字からなるところ、「金比羅」の語は、「仏法の守護神の一つ,香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう)のこと。」を、また、「製麺」の語は、「麺類を製造すること。」(ともに、広辞苑 第六版)をそれぞれ意味する語であることが認められる。
(2)「金比羅」の著名性について
ア 「金刀比羅宮」について
香川県仲多度郡琴平町所在の「宗教法人金刀比羅宮」が、古くから「こんぴら(金毘羅・金比羅)」に敬称を付して「金毘羅さま」、「こんぴらさん」等と親しみを込め称されてきたことは、例えば、別掲2の記載からも、一般に広く知られているといえる。
イ 「金比羅」について
上記アのとおり「宗教法人金刀比羅宮」が古くから「こんぴら(金毘羅・金比羅)」に敬称を付して「こんぴらさん」等と称されていること、上記(1)のとおり「金比羅」の文字が「香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう)」を意味する語として広辞苑に掲載されていること、別掲3(1)ないし(3)のとおり、広辞苑以外の一般的な辞書にもその意味が掲載されていること、及び別掲3(4)ないし(9)のとおり、「金刀比羅宮に参詣すること」を「金比羅参り」と称していることから、本願商標の構成中の「金比羅」の文字は、「宗教法人金刀比羅宮」の略称として、本願商標の出願時において全国的に知られ、その状態が現在も継続しているものと認められる。
(3)「他人の承諾」を得たものであるかについて
請求人は、香川県仲多度郡琴平町所在の「宗教法人金刀比羅宮」から、本願商標を登録することについての承諾を得たことを証明するための書類(承諾書等)を提出していない。
したがって、本願商標は、これを登録することについて、他人の承諾を得たものとは認められない。
(4)小括
上記(1)ないし(3)で認定したとおり、本願商標は、他人の名称(宗教法人金刀比羅宮)の著名な略称(金比羅)を含む商標であって、かつ、当該他人の承諾を得ているものとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当するものといわざるを得ない。
3 請求人の主張について
請求人は、「宗教法人金刀比羅宮」を略称する場合、「金比羅」単独で呼び捨てでは使用されず、敬称を付して「金比羅さん(様)」「金比羅宮」等のように使用されるのが通常である旨、「金比羅」という語は、香川県仲多度郡琴平町を含むその周辺地域を示す地名として認識されている旨、及び本願商標は、地名「金比羅」と名称「製麺」からなり、一連して称呼され、一連結合して識別力を持つ商標「金比羅製麺」として認識される商標である旨主張している。
しかしながら、「金比羅」の語が単独では使用されずに敬称を付して使用されることが多いとしても、「金比羅」の部分が「宗教法人金刀比羅宮」を指し示していることにはかわりがないものであるし、また、「金比羅」の語が「宗教法人金刀比羅宮」の著名な略称として認められることは、上記2(2)で認定したとおりである。
また、金刀比羅宮のみならず、その付近一帯を表す場合に「金比羅」の語が使用されている場合があるとしても、例えば「コンサイス日本地名事典<第5版> 株式会社三省堂」には、「ことひら 琴平」の見出しに「香川県中南部、仲多度郡琴平町。金刀比羅宮の門前町。【旧称】金毘羅」の記載はあるものの、「金比羅」の見出し及びその説明は掲載されていない。
そうとすれば、「金比羅」の文字は、地名を表したものと認識されるというよりは、「宗教法人金刀比羅宮」を指し示すものとして認識されると判断するのが相当である。
したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当し、登録することができない。
したがって、本願商標が同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
商標「ヨウジヤマモト」は人の氏名の表記と理解され、承諾書を提出した「山本耀司」氏以外の、他人である「ヤマモトヨウジ」と読む氏名の者の承諾を得ているものとは認められず、本願商標の周知性は考慮する必要がないとして、商標法第4条第1項第8号に該当するとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2021-2342
【審決日】令和4年3月29日(2022.3.29)
【事案】
1 手続の経緯
本願は,平成31年2月13日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年3月16日付け :拒絶理由通知書
令和2年4月20日 :意見書の提出
令和2年11月12日付け:拒絶査定
令和3年2月22日 :審判請求書の提出
2 本願商標
本願商標は,「ヨウジヤマモト」の文字を標準文字で表してなり,第3類「化粧品,せっけん類,歯磨き,口臭用消臭剤,香料,薫料,つけづめ,つけまつ毛」,第14類「宝飾品,貴金属,キーホルダー,身飾品,宝玉及びその模造品,貴金属製靴飾り,時計」,第18類「かばん類,袋物,かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,革ひも」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,登録出願されたものである。
【拒絶理由】
原査定は,「本願商標は,「ヨウジヤマモト」の文字を標準文字で表してなるところ,我が国においては,例えば,パスポートやクレジットカードなどに本人の氏名がローマ字表記される場合,「名」,「氏」の順で表記することが広く行われているから,本願商標に接する取引者,需要者は,「ヤマモト(氏)ヨウジ(名)」と読む「人の氏名」の片仮名表記として客観的に把握するものというのが相当であり,本願商標は,「人の氏名」を含む商標であると認められる。そして,出願人とは他人であると認められる「ヤマモトヨウジ」と読む氏名の者が,承諾書を提出した「山本耀司」氏(以下「当該山本耀司氏」という。)以外にも存在し,かつ,その者の承諾を得ているものとは認められない。したがって,本願商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。
審決における判断
(1)商標法第4条第1項第8号の趣旨
ア 商標法第4条第1項第8号は,「他人の氏名・・・を含む商標」と規定するものであり,当該「氏名」の表記方法に特段限定を付すものではない。また,同号の趣旨は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁参照)
イ 商標法4条1項8号の趣旨は,・・・自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある。そして,同号は,その規定上,雅号,芸名,筆名,略称については,「著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」として,著名なものを含む商標のみを不登録とする一方で,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」については,著名又は周知なものであることを要するとはしていない。また,同号は,人格的利益の侵害のおそれがあることそれ自体を要件として規定するものでもない。したがって,同号の趣旨やその規定ぶりからすると,同号の「他人の氏名」が,著名性・希少性を有するものに限られるとは解し難く,また,「他人の氏名」を含む商標である以上,当該商標がブランドとして一定の周知性を有するといったことは,考慮する必要がないというべきである。(知財高裁平成31年(行ケ)10037号)
(2)商標法第4条第1項第8号該当性について
本願商標は,「ヨウジヤマモト」の文字を標準文字で表してなるところ,我が国においては,例えば,パスポートやクレジットカードなどに,ローマ字表記で,所持者の氏名を表記する場合には,「名」,「姓」の順で表記されているものが少なくないことからすると,氏名を「名」,「姓」の順で表記すること自体は格別特異な態様とはいえない。
また,別掲のインターネット情報によれば,人の氏名や読みを表す際に片仮名で「姓」と「名」の間に空白を配することなく一連に表示することも一般に行われているといえる。
さらに,「ヤマモト」と読む姓氏(「山本」「山元」等)及び「ヨウジ」と読む名(「洋二」「洋司」等)は,日本人にとってありふれた氏又は名であって,原審において説示のとおり,「ヤマモトヨウジ」と読まれる「山本洋二」,「山本洋司」等という氏名の者が多数存在している。
以上からすると,本願商標は,「ヤマモト(姓)ヨウジ(名)」を読みとする人の氏名を「名」,「姓」の順に片仮名表記したものとして,客観的に把握されるものである。
加えて,請求人と原審において示した氏名を「ヤマモトヨウジ」とする者とは他人であると認められるから,本願商標は,その構成中に他人の氏名を含むものといわなければならず,かつ,少なくとも当該山本耀司氏以外の,上記他人の承諾を得たものとも認められない。
したがって,本願商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は「商標法第4条第1項第8号の趣旨が第三者の人格権の保護であるとしても,他者の氏名でもあるファッションデザイナーの氏名を一律に商標登録できないことにするとファッションデザイナーのブランド選択の幅を狭めることになるなどの,商標登録が拒絶されることによって請求人が受ける不利益等についても十分に考慮した上で,同法の目的である産業の発展への寄与又は需要者の利益の保護の観点とのバランスが考慮されるべきである。また,本願商標はその指定商品の分野においては,当該山本耀司氏のブランドとして一定の著名性を得ているものであり,本願の指定商品に使用されても,当該山本耀司氏となんらかの関係があると認識することはあっても,同じ読みの氏名を持つ他人となんらかの関係があると認識されるとは考えられないものであるから,当該他人が,それを不快とし人格権を毀損されたものであると感じることはない。」旨を主張している。
しかしながら,本願商標は,上記(2)のとおり,「ヤマモト(姓)ヨウジ(名)」を読みとする人の氏名を「名」,「姓」の順に片仮名表記したものと認識されるもの,すなわち,人の氏名を指し示すものとして客観的に認識されるものであって,本願商標はその構成中に他人の氏名を含むものであるから,仮に本願商標をその指定商品に使用したときに当該山本耀司氏以外の者との関連が認識されないとしても,上記(1)アに照らせば,当該山本耀司氏以外の氏名を「ヤマモトヨウジ」とする者の承諾を得ることなくこれを商標登録することは,当該者の人格的利益を害することになる。
また,商標法第4条第1項第8号該当性の判断において,上記(1)イのとおり,本願商標の周知性は考慮する必要がないと解釈すべきである。
したがって,請求人の主張は採用できない。
イ 請求人は,請求人以外のファッションデザイナーの氏名を含む商標が商標登録されている例や, “Yohji Yamamoto”の文字を含む商標登録がある事実を挙げ,本願商標も登録されるべき旨を主張しているが,請求人の挙げる登録例は,いずれも本願商標とは構成・態様が異なり事案を異にするものであるから,これらの存在が,上記(2)の認定・判断を左右するものではない。
したがって,請求人の主張は採用できない。
(3)まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第4条第1項第8号に該当し,登録することができない。
よって,結論のとおり審決する。
「青木功」の文字は、出願人の氏名をあらわすものであるところ、これと同一氏名の他人多数が出願以前より所在し、その他人の承諾を得ていないものと認められるから、商標法4条1項8号に該当するとされた事例
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服昭和52-17348
【事案】
本願商標は、「青木功」の文字を横書きしてなり、第24類「運動具、その他本類に属する商品」を指定商品とするものである。
【拒絶理由】
商標法第4条第1項第8号
審決における判断
本願商標は、「青木功」の文字を書してなるものであって、出願人の氏名をあらわすものであるところ、これと同一氏名の他人多数が、本願商標出願以前より所在することは、東京都における電話番号簿に徴しても明らかであり、本願登録出願人はその他人の承諾を得ていないものと認められる。
したがって、本願商標は前述のごとく他人の氏名でもある「青木功」の文字を書してなる商標であって、かつ、当該他人の承諾を得ていないものであるから、本願商標は、商標法4条1項8号に該当する。
「CHANEL DE BEAUTE」の文字は、他人の名称「CHANEL」を含むものであり、その承諾を得ていると認められないとされた事例
【種別】無効審判の審決
【審判番号】無効昭和44-9018
【事案】
本件商標は、「CHANEL DE BEAUTE」(「L」と「D」及び「E」と「B」の間は少しあけてある)の欧文字を書してなり、第16類「テープ、リボン、その他本類に属する商品」を指定商品とするものである。
【拒絶理由】
商標法4条1項8号
審決における判断
請求人会社「CHANEL」(シャネル)の名称は、香水その他の化粧品、被服その他の服飾品などの商品を通じて我が国の取引者、需要者の間に広く認識されているものである。
一方、本件商標は構成前記のとおりであるところ、そのうち語頭部に表された「CHANEL」の文字は、請求人の名称として広く認識されている「CHANEL」と一致しているばかりでなく、全体の構成文字は14文字と比較的多いものであり、しかも、何らの語義を有しない造語とみられる「CHANEL」の文字と、美の、美しいを意味する「DE BEAUTE」の文字とが結合された結果、一体として親しまれた特定の観念を生じ、常に一体不可分にのみ称呼、観念しなければならない格別の事情も認め難いものである。
してみれば、一般世人がこれに接した場合、請求人の名称として広く認識されている「CHANEL」の文字部分が「DE BEAUTE」に比較して圧倒的顕著に印象づけられるものといわなければならない。
そうとすれば、本件商標は他人の名称である「CHANEL」の文字を含むものであり、かつ、その承諾を得ているものとも認められない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項8号に該当する。

